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空を夢見る魚 第一夜

あらすじ

海辺に座り込む僕の所に
人魚がやって来た

「セイレーン」と名乗る透き通った彼女と
「メテオライト」の名を持つ僕

大げさな名前を持つ二人の

九夜におよぶ、静かで深い掛け合い

時に優しくて
時に荒ぶる

波の打ち寄せと

憧れ



第一夜



僕はいったん目を閉じる事にした

潮の音が聞こえる
空気はひんやりとして
少し柔らかい風が吹いている

今のは多分、何かの見間違いだろう

月明かりに照らされた海水が
隣の石に競り上がって、
人の形に見えたんだ

間違いない


そう思って目を開けた

それでもやっぱり確かに

僕の目の前には人魚がいた


「こんばんは」

綺麗な声で人魚が言う


「こんばんは」

僕も返した


「あなたは最近ここに来たのでしょ?」

「…君は人魚?」


人魚が口を押さえた

こぽこぽ、こぽこぽ、と
泡が上がってくる音がする

笑っているらしい


「なぁに、見たら分かるでしょう」

「私が先に聞いてるのに
あなたってば質問に答えないの」


「人魚が透明だとは知らなかったから」

僕は返事をした


「あら、そうなの?」

人魚は僕の方に身を乗り出した 


彼女は海水と同じ色をしていて

陸に上がった上半身は見えるが
海に浸かっている部分は
溶け込んでしまっている 


尻尾がある辺りの海面が
ぱちゃぱちゃと飛沫(しぶき)を上げた


僕は濡れた


「ここにはよく来るのかい?」

「初めて」

人魚は目をしばたたせた

「最近、ここにあなたが来たって
話を聞いたから」

「海の中で?」

「そう、海の中で」


僕が来ている事が話題にされているとは
誰かが僕を見ていたんだろうか


僕は水平線を見つめた

明けの星が昇ろうとしていた

「あなたの名前は?」

聞かれたので僕は答えた

「メテオライト」

「…それ本気?」

人魚が呆れた顔をした


「私をからかってるの?」
「ずいぶん大げさな名前じゃない」


「僕を見てそう思うの?」

「ええ、そんな大層に見えないわ」

僕は短く笑った


「そしたら君の名前は」

「…セイレーン」

人魚がしぶしぶ答えた


「…君だって大げさな名前じゃないか」

「仕方ないわ、その名前なんだもん」

「前から?」

「そ、ずっと昔から」


人魚が黙ってしまった

「セイレーンなら
さぞや歌が上手いんだろうな」


そっと言うと、人魚が横目で僕を見た

こぽ、と短い音がした

空が白んで来るのに気がついて人魚が言った

「また明日来ても良い?」

そして返事を待たずに潜っていった

人魚は見えなくなった 


次夜はこちらから見れます 
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