空を夢見る魚 第二夜
「海底にはね、沈海華もあるの」
岩に頬杖をついて人魚が言った
「赤いのもあれば、薄紫もある」
「銀色のだってあるわ」
「人間はそれを珊瑚と呼ぶらしいんだけど」
人魚は止まらない
「大きな沈海華は
顎を乗せて考え事をするのに良い」
「小さな粒の生る沈海華は髪飾りにするわ」
「細かく砕いて薬にできるものもある」
そして急に僕を見た
「なんでも住んでるわ」
「その…沈海華に?」
「違うわ、海に」
目を丸くして人魚が言った
「へぇ」
唐突に話が変わって反応に困った僕は
とりあえず相槌を打った
「あなたも来れば良いのに」
「それは難しいな」
「そうね」
人魚は僕をまじまじと見つめた
「ちょっと、難しいわ」
そう言うと、人魚は僕の隣の岩に上がり
尾ひれを海につけてゆらゆら揺らした
僕は人魚の髪に
珊瑚の粒がついているのに気が付いた
月に照らされて金色に輝く珊瑚は
人魚の海色の髪によく似合っている
その髪は他の部分より少し深い色をしているが
やっぱり透明で
肩から腰に向かってゆったり流れた
腰かける岩に
人魚を通ってきた光が海色に落ちていた
「沈海華はね、私は沈海華って呼ぶんだけど
魚達は花宿りって呼んでる」
「そこで昼寝したりするからかな」
「それぞれが違う呼び方をするのは面白いね」
僕はまだその髪を見ながら返事をした
「あなたならなんて呼ぶ?」
人魚は空が明るくなってきたのに気がついて
自分が質問したくせに、答えを聞きもせず
慌てて海に飛び込んだ
汐成りと呼ぶな、見えなくなった人魚の後を追って、僕は考えた
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