【映画深堀】『神話の力』で読み解く『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』
——なぜ、オビワンは死ななければならなかったのか?
それは、スターウォーズが神話だからである。
彼の死は、必然である。
もういいですか、書いちゃって。暑苦しいですけど、許してくれますか?長いですよ?濃いですよ?引き返すなら今ですよ?
観たんですよ。えぇ、観たんです。ついにね、スター・ウォーズ(初期作品)を。
なんかこう、あまりに壮大で有名でボリューミーで権威的なので、避け続けていたスター・ウォーズ。その敷居は決して低くないですよね。少なくともガンダムやマーベルと同じくらいの敷居の高さはある。
それが、ある一冊の本によって、「これは観ないとダメだわ」って気にさせられた。
それがこちら。
ジョゼフ・キャンベルの『神話の力』。神話ってなぜか昔から惹かれるんです。ひとつ神話を知るたびに、新たなモノの見方とかモノとモノの繋がりを発見した気になるから。大学生の時にもギリシア神話やら古事記やらカッコつけて読みました。そんな感じでこの領域は好きだったんですが、ちょっとこのたび、”もう少し神話にのめり込みたいな”っていう機運というか、気配が訪れて、手にした本がこれなんです。
神話の世界的権威、ジョゼフ・キャンベルの遺作です。構造的でもアカデミックでもなくて、詩的というか散文的な対話集なんですが、ところどころに深く沁みるフレーズやハッと気づかされる言葉が散りばめられている感じです。なんかこう、砂浜でキレイな貝殻を見つけて拾う感じの読書体験でした。(そんなことしたことあるのかよ)
この本の詳しい中身は、今は置いておきますが、この本の中でスター・ウォーズがものすごい引用回数を誇っているんですよね。本の裏表紙にも「ジョン・レノンの暗殺からスターウォーズまでを例に・・・」って書かれているし。
でも、それもそのはず、スター・ウォーズって、映画監督のジョージ・ルーカスがジョゼフ・キャンベルの提唱した神話の物語構造を完璧に下敷にして創作したものだったんですね。(こんな記事を読んでいる皆さんなら、ご存知でしょうが、二人は親友です)
その物語構造をヒーローズ・ジャーニーと呼びます。地理的、時間的に繋がりのあるはずもない古今東西の神話に、なぜか明らかな共通項がある。その共通項を洗い出した時、見えてくる一つの原型とも言える物語。それが、ヒーローズ・ジャーニー。
スターウォーズが、現代版神話と言われる理由は、まさに、スターウォーズがヒーローズ・ジャーニーを本当に忠実に再現しているから、なんですね。
ここから先では、ヒーローズ・ジャーニーとは一体どんな構造なのか、スター・ウォーズはほんとにその構造にはまっているのかの検証、そして、なぜ、オビ=ワンは死ななければならなかったのか、という最終テーマまで掘り下げられたらと思っています。
この記事は、スターウォーズファンによるファンのための、作品をより深く愛するためのジャーニー(旅)ですので、ここまで読んでいただいたご縁です。どうかお付き合いください。
(アマプラで見たけど、1977年の映画とは到底思えなかったです。画質も綺麗。)
ヒーローズ・ジャーニーとは
まずは、ざっと神話の原型「ヒーローズ・ジャーニー」の流れをみてみます。
この元型は、以下12のチャプターからなります。
①【日常世界(Ordinary World)】
主人公が「まだ英雄ではない」状態で登場し、平凡な世界、葛藤、不満、閉塞感などが描かれる。
🗝意義:観客・読者が主人公に共感できる“現実世界”を示す
②【冒険への呼びかけ(Call to Adventure)】
外部から変化の兆し、問題、使命がやってくる。
🗝意義:運命が主人公を非日常へと誘う
③【呼びかけの拒否(Refusal of the Call)】
主人公が怖れや責任感で、冒険を拒む。
🗝意義:人間らしい弱さの表現。これがあるから成長が引き立つ
④【導師との出会い(Meeting the Mentor)】
精神的・実践的な指導者と出会う。
🗝意義:旅の準備が整う。時に武器や知恵の授与もある
⑤【最初の境界越え(Crossing the First Threshold)】
日常を離れ、未知の世界へ足を踏み入れる。
🗝意義:ここから「冒険」が本格化する。戻れない一線を越える
⑥【試練・仲間・敵(Tests, Allies, Enemies)】
新たな世界で仲間を得て、敵と出会い、小さな試練を経験する。
🗝意義:力を試され、成長の足場を作る
⑦【最も危険な場所への接近(Approach to the Inmost Cave)】
最大の敵・真の問題に迫る。
🗝意義:真の恐怖・真実に向き合う準備段階
⑧【最大の試練(Ordeal)】
生と死をかけた大きな試練
🗝意義:主人公の内面も外面も激しく揺さぶられ、脱皮のきっかけになる
⑨【報酬の獲得(Reward/Seizing the Sword)】
試練を乗り越え、重要な報酬を得る(知恵・力・人間関係など)
🗝意義:旅の目的の一端が達成される
⑩【帰路(The Road Back)】
得たものを持って正しい場所へ“帰る”ことを選ぶ
🗝意義:「物語を終わらせる決断」。ラストバトルへの道
⑪【復活(Resurrection)】
最後の試練。主人公が生まれ変わる
🗝意義:自己超越。もはや旅立ち前の自分ではない
⑫【エリクサーの持ち帰り(Return with the Elixir)】
得た力を世界に還元する。祝福され、物語は円環を閉じる
まぁもう、ある程度の予感はあると思いますが、ここにスター・ウォーズ/エピソード4のストーリーを当てはめてみます。
①【日常世界(Ordinary World)】
主人公が「まだ英雄ではない」状態で登場し、平凡な世界、葛藤、不満、閉塞感などが描かれる。
🗝意義:観客・読者が主人公に共感できる“現実世界”を示す
SW:ルーク・スカイウォーカーは、タトゥイーンの農場で平凡で退屈な生活を送っている。叔父と叔母に養われ、星を見上げて冒険を夢見ている。
②【冒険への呼びかけ(Call to Adventure)】
外部から変化の兆し、問題、使命がやってくる
🗝意義:運命が主人公を非日常へと誘う
SW:R2-D2がレイア姫のホログラムメッセージをルークに見せ、「オビ=ワン・ケノービを探して」と訴える。
③【呼びかけの拒否(Refusal of the Call)】
主人公が怖れや責任感で、冒険を拒む
🗝意義:人間らしい弱さの表現。これがあるから成長が引き立つ
SW:ルークは、「叔父さんが許してくれない」と言い、オビ=ワンの誘いを断る。
④【導師との出会い(Meeting the Mentor)】
精神的・実践的な指導者と出会う
🗝意義:旅の準備が整う。時に武器や知恵の授与もある
SW:ルークはオビ=ワン・ケノービに出会い、父のライトセーバーを託され、フォースについて教えられる。
⑤【最初の境界越え(Crossing the First Threshold)】
日常を離れ、未知の世界へ足を踏み入れる
🗝意義:ここから「冒険」が本格化する。戻れない一線を越える
SW: 叔父と叔母が殺されたことで、ルークは冒険を決意。モス・アイズリーでハン・ソロとチューバッカを雇い、宇宙へ旅立つ。
⑥【試練・仲間・敵(Tests, Allies, Enemies)】
新たな世界で仲間を得て、敵と出会い、小さな試練を経験する
🗝意義:力を試され、成長の足場を作る
SW:ハン・ソロ、チューバッカと出会い、帝国軍と交戦しながら結束が深まる。
⑦【最も危険な場所への接近(Approach to the Inmost Cave)】
最大の敵・真の問題に迫る
🗝意義:真の恐怖・真実に向き合う準備段階
SW:デス・スターに乗り込む決意をし、レイア姫を救出する計画を実行
⑧【最大の試練(Ordeal)】
生と死をかけた大きな試練
🗝意義:主人公の内面も外面も激しく揺さぶられ、脱皮のきっかけになる
SW:デス・スターでの攻防。オビ=ワン・ケノービがダース・ベイダーに敗れ、フォースと一体になる(オビ=ワンの死はルークの精神的成長を促す)※このあと深堀りします
⑨【報酬の獲得(Reward/Seizing the Sword)】
試練を乗り越え、重要な報酬を得る(知恵・力・人間関係など)
🗝意義:旅の目的の一端が達成される
SW:ルークたちはレイア姫を救出し、デス・スターの設計図を反乱軍に届ける。
⑩【帰路(The Road Back)】
得たものを持って正しい場所へ“帰る”ことを選ぶ
🗝意義:「物語を終わらせる決断」。ラストバトルへの道
SW:デス・スターが反乱軍の基地を狙って迫ってくる中、デス・スター破壊の作戦を立てる。
⑪【復活(Resurrection)】
最後の試練。主人公が生まれ変わる
🗝意義:自己超越。もはや旅立ち前の自分ではない
SW:ルークはフォースを信じ、最後の戦いでベン(オビ=ワン)の声に従って照準器を外し、フォースの力でデス・スターを破壊する。
⑫【エリクサーの持ち帰り(Return with the Elixir)】
得た力を世界に還元する。祝福され、物語は円環を閉じる
SW:反乱軍は勝利し、ルークは英雄として称えられ、新たな人生へと踏み出す。

③と④の前後関係が微妙にハマりませんが、それ以外は、完全に一致していますね。でもまぁ、これは当たり前の話で、繰り返しになりますが、ジョージ・ルーカスは、この基本構造を使ってスターウォーズを作ったのでした。
以前、私は、人気映画の黄金パターンっていうストーリー論を書いたことがありますが、それも元をただせばヒーローズ・ジャーニーに行きつきます。
この構造は、ユングが言うところの、「すべての人間が無意識の領域に持っているモチーフ」をもとにして成り立っているらしく、本当に古今東西あらゆる物語に応用されています。
ライオン・キング、ハリーポッター、マトリックス、千と千尋の物語、などなどいわゆる”大作”と呼べる作品は、すべてこの元型構造が当てはめられています。どういうわけか、この構造を持っている物語は、大衆に受け入れられ、人気になるんですよね。時の試練を超える神秘的な力が宿るんです。
その理由をキャンベルは、こう言っています。
神話(ヒーローズ・ジャーニー)は、人間の精神構造そのものなのだ。
つまり、神話ってやつは、我々みんながこれから経験するか、すでにしているもの、なんですね。我々一人ひとりがルーク・スカイウォーカーであり、ハリーであり、シンバ、なんです。
さて、神話の第一の役目は、被保護者である少年少女を一人前の成人として社会に迎え入れることです。イニシエーションや儀式というものとセットになって、神話は未成熟な者たちを精神的な冒険へ駆り立て、メンターと引き合わせ、成長させ、竜を殺させ、その宝を社会(世界)に還元させます。そうして社会は、個人(英雄)の成長とともに強く豊かになってゆく。
分かりにくくなっていますが、今の世界でも同じことが繰り返されています。だから、もうすでに一人前として社会に属し、貢献している我々(そうじゃない若い人も読んでくれているかもだけど)は、すでにその冒険を終えた”英雄”なんです。僕たちは、一度、何らかの形でスター・ウォーズを経験しているわけ。だからこそ、この元型は、深く理解され、愛され、語り継がれ、継承される。
ハリーポッターにせよ、スターウォーズにせよ、千と千尋の神隠しにせよ、それらを「子ども向けだなぁ」「幼稚だなぁ」とバカにする大人がいますか?いません。むしろ、大人の方が深く理解し、深く感動するんです。だって、それはすでに自分が通ってきた道だから。自分でない誰かの、それでも共感できる英雄の話。ちゃんと世界の一員をやっている僕らが、スター・ウォーズを愛するのは必然ってことですね。
ちなみに、ヒーローズ・ジャーニーの詳しい話は、『神話の力』ではなく、『千の顔を持つ英雄』で読むほうがいいです。こっちの本の方が、より物語構造に特化した内容です。
オビ=ワン・ケノービの死はなぜ必然か
まぁ、ここまでの話は、スターウォーズファンならだいたい誰でも書ける話。でも、せっかく神話をかじっているのだから、もう少し神話の視点からこの作品を深堀りしたい。
そこで、オビ=ワン・ケノービの死にスポットライトを当ててみることにします。スター・ウォーズ/エピソード4での彼の死は、ちょっとショックですよね。たぶん、”え、みんな助かってハッピーエンドじゃないの?”って思った人も多いはず。
でも、彼は死ぬ必要があった。スター・ウォーズが現代の神話である以上、彼は生きてはならなかったんです。
注目は1:53からのオビワンの微笑。この笑みの正体は、神話を使って紐解かないとわからない。
ルークたちを逃がすために、わざとやられて隙を作った?いやはや、そんなショボい理解してちゃだめよ。
改めまして、オビ=ワン・ケノービは、なぜ死ななければならなかったのか?
それは、生命とは、常に死によって開かれるものだからです。ジョゼフ・キャンベルは『神話の力』の中で、こう何度も強調しています。
新しい生命が芽生えるためには、古い生命が死ななければならない。
この単純な自然の法則が、あらゆる神話の中心に据えられています。つまり、“死”は終わりではなく、“始まり”です。むしろ、死こそが、の“生”の入り口なのです。
オビ=ワンは、それを知っていた。彼は、ただ戦いに負けたわけでも、殉教したわけでもない。自らの意志で死んだのです。
まずそこには、「導師(メンター)」という存在の宿命が関わっています。メンターは、最終的には死ななければならない。生きていては、弟子の成長を邪魔する。死ぬことによって、物理的な存在から、霊的な存在へと変容する。オビ=ワンは、それをわかっていた。だから剣を収め、死を受け入れた。
これは、ヒーローズ・ジャーニーの中でも極めて重要なフェーズです。「導師の死」=「弟子の自立」なのです。
けれど、ここで話は終わりません。もう一段、深く掘るなら、この死には、農耕神話のエコーが鳴り響いている。
古今東西の農耕神話には、こんな話がいくつもあります。
ある神が殺され、バラバラにされ、その肉体が地中に埋められる。そこから、穀物が芽生える。生命は死体の上に咲き誇る。
たとえば、
・メソポタミアのタンムズ
・ギリシャのディオニューソス
・エジプトのオシリス
・日本神話の保食神(ほけつかみ)
すべて「殺され、捧げられ、世界の糧となる神」です。スター・ウォーズにおけるオビ=ワンの死。
ライトセーバーで斬られてそのまま消えるあの描写――
これは、まるでその象徴のようじゃないですか?
バラバラにはされないけれど、彼の“身体”は跡形もなく消え、代わりに「フォースの声」として、霊的な存在として“芽生える”。
弟子の精神のなかに、“師”が内在化される。これは、単なる肉体の死ではない。これは、神話的「再配置」です。
オビ=ワンは、その「再配置」を望んでいた。なぜなら、彼はもう、自分という枝に花が咲くことを望んでいない。彼は、ルークという“新芽”を育てるための、剪定される枝であろうとする。自ら、フォースという巨大な生命体系に“奉仕”する側に回ったのです。
これは、極めて宗教的な死です。そして、言うなれば、植物的な死です。
キリストは、自分をぶどうの木にたとえた。
「わたしはぶどうの木、あなたがたはその枝である。人がわたしにつながっており、わたしもその人につながっていれば、その人は豊かに実を結ぶ。わたしから離れては、あなたがたは何もできない。」
枝は切られ、残された幹から新たな実りが生まれる。“剪定”こそが、豊穣のための死なんですね。
オビ=ワンの死も、まさにそれ。切られることで、そこからルークという果実が実る。
もうひとつ引用しましょう。
「麦の実は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ。」
この構造を知らなければ、あの死はただの「悲しい出来事」にすぎません。しかし、神話の視点から見れば、あれは豊穣への祈りです。
よく見てみてください。最後の瞬間、オビ=ワンが祈りを捧げているように見えるはずです。

だからこそ、スター・ウォーズは神話であり、オビ=ワンの死は“ただの退場”ではなく、聖なる犠牲なのです。あの一撃は、“殺された”のではない。彼の死が、命が、神(フォース)に捧げられたのです。
さて、こんなにグダグダ書きながら、実はまだ私、スター・ウォーズ/エピソード4しか見ていません!!!笑
これから5を見ようと思います。そこにも、きっと神話のエキスがふんだんに散りばめられていることでしょう。まったく楽しみでなりませんね。
楽しみがあるっていいですよね。それこそ、生の最も充実した形だ。
みなさまも、フォースとともにあらんことを。
改めて本と関連映画記事を紹介します。
