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働きアリの悲哀。『ワーキングマン』

 前年の『ビーキーパー』に続き、ジェイソン・ステイサムとデヴィッド・エアーがタッグを組んだ。そして日本配給のクロックワークスはまたしても公開をお正月にぶつけてきた!おせちと格付けチェックとステイサムがお正月の風物詩となる日も近かろう。

 元特殊部隊員のレヴォンは現役を退いた後、今は建設会社に身を置き、社長一家や社員からも信頼される現場監督として働いていた。そんなある日、社長の娘が行方不明となる事件が発生。恩人であるジェニーの父親に頼まれ行方を追うと、そこには人身売買を生業とする犯罪組織が暗躍していた。

 この世で最も作業着とヘルメットが似合うアクション俳優であることをお披露目した今回のステイサムは、なんと建設現場の現場監督であり、車中泊を心配され社員の奥さんからお裾分けをもらったり、「今日も指を落とさず帰ろうぜ!」と物騒すぎる朝礼をしたりと、ハキハキ一生懸命働いている。その慕われ具合が王宮から野に下ったバーフバリみたいで笑ってしまうが、現場にステイサムがいれば、誰だって慕わずにはいられないだろう。

 その真っ直ぐな仕事ぶりと笑顔が認められたのか、会社の経理を担うティーンで社長の娘ジェニーにも気に入られていて、「今度は私も守ってね♪」と丁寧すぎるくらいにフラグを建てた後、同級生と夜の街に繰り出しはしゃぎ倒した結果、変態向けのデリバリーに捕まってしまう。

 マイケル・ペーニャ演じる父親もこの事態に動揺し、家族に顔向けできず酒に溺れる始末。最後の頼りは元特殊部隊のステイサムただ一人、となるわけだが、「マフィアから娘を奪還」を一社員に頼み込む社長、の画がちょっと面白くて戸惑ってしまう。いや、笑い事じゃないんだけど、適任すぎるだろ、みたいな。

※以下、本作のネタバレを含む。

 恩人であり、助けると約束した手前、ジェニー奪還に動くステイサム。敵対するは、ロシアン・マフィア。きっとステイサム拳やステイサム重火器によってマフィアの安い命が消し飛んでゆくのだろう……という期待を若干裏切るように、本作の暴力は陽ではなく陰であり、お正月ボケした空気には似つかわしいダークな雰囲気で進行していく。

 まず、ステイサム演じるレヴォンは言うまでもなく「元特殊部隊員」が標準装備なのだが、彼はみだらに暴力を振るわず理性的であろうとしていて、それは娘の親権を巡り義父と争っている最中、という前提があるからだ。娘の母親、すなわちレヴォンの妻は彼が戦場にいる間に鬱を発症し自殺、という苦い過去も、自身と娘の心に深い傷を残している。

 だからこそ、娘を奪われた父親の悲しみに感情移入し、かつ退役軍人である自分を拾ってもらった恩に報いたいがために裏社会に足を踏み入れていくのだが、人身売買に関わるマフィアも家族であり、レヴォンが暴力を発動する度に誰かの父や息子を奪っていく、という構図が見えてくる。

 それだけでなく、ジェニーを誘拐し買い手に届けるカップル・ギャングはその段取りの洗練されてなさが際立つし、麻薬ビジネスを展開しているボスの息子も、組織の中ではのけ者扱いされていると感じている。現場で汗水垂らしている奴らは、この映画では死ぬほど苦労している。とくに裏社会の彼らは、仕事のミスには恐ろしい懲罰が待っていたり、死に直結だったりするので、泥まみれになって女を追いかけ回す羽目になる。

 ステイサムが出てきて殺す度合いで言えば、前年の『ビーキーパー』に明らかに軍配が上がる。あちらはデスお土産二代目ビーキーパーのようなゴキゲン要素がいくつも含まれていて、それらをまるっと二日で組織ごと壊滅させるステイサムの剛腕ぶりが楽しめた。対する本作は、殺す方も殺される方もなんだか気の毒なのである。

 理不尽な人さらいに、暴力が次の暴力を生む連鎖と、能力に劣る小物たちの右往左往。この世の闇を凝縮したような世界の中で、下っ端だけが泥臭く走り回っている。ラストはまさにステイサムが一矢報いるわけなのだが、そんなものは主題ではなく、ただ家族の元へ「帰る」という、ごくごくミニマムな着地に収まるところが潔く、凄惨な裏社会とは相反するように暖かくて、優しい。

 スティーブン・セガール、ジェイソン・ステイサム、マ・ドンソク。彼らのように、名前そのものがジャンルに冠されるほどになれば、観客が期待するものも自ずと固まってくる。今作は全体の作風が“それ”に寄りすぎることは無かったが、エンドロールを観て納得、脚本がシルヴェスター・スタローンだった。『バトルフロント』の布陣再びとなれば、こちらの受け取り方が軽率だったと、反省すべきだったのかもしれない。

 お正月はステイサム、がお約束となるかどうかは本作のヒット具合にかかってくるのかもしれないが、間もなく(あるいはすでに)正月明けを迎え職場復帰しなければならない身の上を思い出して、少ししんみりしてしまうかもしれない。今となってはお年玉より欲しいのは、ステイサムのような頼れる上司が職場にいること、になってしまった。

 では、来年の正月もよろしくお願いします、クロックワークス様。

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