🌙星降るサーカスショー① サーカス島へ
この物語は、チュチュ・テイルの世界を旅する記録です。
シルエットで描かれた猫たちや動物たちが暮らす、やさしい世界✨️
白いうさぎの旅人 エトワール の旅日記として綴っています。
はじめての方は、ぜひ固定記事からご覧ください🌙
夜のルーナ国。
星の丘には、やわらかな月明かりが降り注いでいました。
丘の上に立つムーンキャットは、静かに夜空を見上げています。
その少し後ろには、サポートキャットのカロンが控えていました。
「ムーン様」
「星の港には、本日も各国から多くの空船が到着しております」
ムーンキャットは、小さく微笑みます。
「サーカス島も、賑やかな夜になりそうね」
そう言って、月の杖をそっと掲げました。
杖の先から、淡い光が夜空へ溶けていきます。
すると。
星の港からサーカス島へ続く星の道が、一本ずつ静かに灯り始めました。
月と星をまとった空船。
花やツタに包まれた空船。
ガラス細工やリボンが輝く空船。
そして、遠い世界から訪れた旅人たちの空船。
さまざまな想いを乗せた船が、静かに星の道を渡っていきます。
ふいに、その光景を見つめていたムーンキャットの笑顔が曇りました。
夜風が、ほんの少しだけ静まります。
「……」
カロンが静かに声をかけました。
「どうかなさいましたか」
ムーンキャットは夜空から目を離さないまま、小さく呟きます。
「……気のせいなら、いいのだけれど」
少しだけ間を置いて。
「巡りが、少し揺れている気がするの」
カロンは少し目を細め、何も言わず夜空を見上げました。
「……フルーラ様のところへ行きましょう」
「かしこまりました」
月明かりの中を、ふたりは静かに歩き出しました。

その頃。
ぼくは、リボルテの街を出る空船に乗っていました。
ガラス細工や飾りリボンが揺れる、とても華やかな船です。
風に乗って、花の香りもほんのり漂ってきました。
アルト。
コスメキャット。
ローズ。
羊のカールとメリル夫婦。
リボルテで出会った皆のことを思い出すと、胸の中が少しだけあたたかくなります。
ふと、リボルテの飾り窓の案内所で、ポワロに教えてもらった事を思い出しました。
「サーカス島は七日間、とても賑わいます」
「着いたら、まず宿を確保してくださいね」
「星あかりテント村でしたら、旅人さんも安心ですよ」
……まずは、宿から。
そう、心の中でつぶやくと、目の前に広がる星の道を見つめました。
まわりに浮かんでいる空船たちも、目指している場所は同じ。
サーカス島です。
やがて。
遠くに、たくさんの灯りが見えてきました。
サーカス島に近付くにつれ、陽気な音楽も流れてきます。
何かが始まる前の、わくわくするような空気が空船を包みます。
サーカス島の船着き場へ降り立つと、たくさんの動物たちで賑わっていました。
「焼きたてアップルパイですよ!」
「星くずラムネ、できたてです!」
「ショーの開演まで、あと三時間だよ!」
夜市の店主たちの元気な声が、あちらこちらから聞こえてきました。
甘い香り。
焼き菓子の香り。
あたたかなスープの香り。
いろいろな匂いが混ざり合って、港まで流れてきます。
まだショーは始まっていないのに。
島全体がお祭りのようでした。

「……これは、すごい」
あまりの華やかさに、思わず立ち止まります。
遠くまで続く夜市の灯りに圧倒されながら、ぼくは宿を探すことにしました。
ポワロの言葉を思い出しながら、案内板に従って歩いていくと、
『星あかりテント村』
そんな看板が見えてきました。
夜市の賑わいから少し離れた場所。
そこには、小さなテントがたくさん並んでいます。
受付では、小さなリスが笑顔で迎えてくれました。
「七日間のご滞在ですね」
「こちらがお部屋になります」
そう言って、小さな星形ランタンをひとつ手渡してくれます。
「夜は、このランタンを入口へ掛けてください。旅人さんのお部屋の目印になります」
テント村のあちこちには、小さな星形ランタンが灯っていました。
まるで、夜空の星が、地上にも並んでいるようでした。

案内されたテントの中は、とても落ち着く空間でした。
小さなベッド。
丸い机。
窓辺には、一輪の白い花。
荷物を置き、ランタンを入口へ掛けます。
灯りが、ふわりと揺れました。
サーカスが始まるまで、少し時間があります。
テント村を抜けると、夜市の賑わいがまた聞こえてきました。
夜市に行くか少し迷って、ぼくの足は、その反対へ向いていました。
夜空を見上げると、様々なかたちの空船が浮かんでいます。
何人も宿泊できるような大きな空船からは、小さなボートが船着き場まで出ているようでした。
人の少ない道を歩いていくと、大きなサーカステントの裏側へ出ます。
そこだけは、不思議なくらい静かでした。
テントの中から、やわらかな灯りだけが漏れています。
その時です。
ぽん。
何かが落ちる、小さな音が聞こえました。
ぼくは、そっとテントへ近づきます。
布の隙間から中をのぞくと、高いロープの上に、一輪車へ乗ったアルパカがいました。
光るボールを回しながら、静かに進んでいます。
その姿は、とても美しくて。
思わず息をのみました。

しばらく見ていると、一輪車が、大きく揺れました。
その瞬間、ボールが落ちます。
そして。
アルパカも、バランスを崩して、一輪車ごと落ちてしまったのです。
ネットの上に、勢いよく弾むように落ちたあと、しばらく動きません。
――それから。
ゆっくり立ち上がると、一輪車を持って、また階段を登り始めました。
何度も。
何度も。
ぼくは息を飲んで、その姿から目を離すことができませんでした。
ふいに、
「……今日は、もうやめとけ。」
テントの奥から、小さなハリネズミの声が聞こえました。
アルパカは、何も答えませんでした。
ただ、一輪車を持ったまま、またロープへ向かって歩き始めます。
……何があったのでしょう。
サーカス島の賑やかな空気とは違う時間が、ここには流れていました。

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