🌙光の行方⑨ 春のめぐみ祭の夜
この物語は、チュチュ・テイルの世界を旅する記録です。
シルエットで描かれた猫たちや動物たちが暮らす、やさしい世界。
白いうさぎの旅人 エトワール の旅日記として綴っています。
はじめての方は、ぜひ固定記事からご覧ください🌙
春のめぐみ祭は、翌日の夜に行われると聞いたので、ぼくは、森の宿に泊まり夜を待つことにしました。
朝になると、まちは昨日よりも少しだけにぎやかで、祭りを見に来た動物たちの姿があちこちに見えます。
ぼくは、昼のあいだをフローラの森にある図書館で過ごしていました。

本をめくりながら、ふと考えます。
旅をするようになってから、こうして図書館に立ち寄る時間が、少しずつ増えていることに。
知らないことが、まだたくさんある。
知りたいことも、たくさんあるのです。
やがて夕方になると、まちは更にやわらかな熱を帯びはじめました。
春を祝う明るい音楽が流れ、出店には花飾りが並び、それに手を伸ばす動物たちの姿が見えます。
花冠をつけた子どもたちが、楽しそうに走り回っていました。
みんな、とても嬉しそうです。

植物園の前に広がる広場には、丸い花の魔法陣が描かれた舞台が用意されていました。
芝生の上に座って、本番を待つ動物たち。
出店の椅子に腰かけて、食事を楽しんでいる動物たちもいます。
その中に、ぼくは見知った顔を見つけました。
コメットリスです。
少し酔っているのか、上機嫌で頬をほんのりと赤くし、星の香りのするお酒を片手に——
空の配達はお休みして、この祭りを見届けるために来ているようでした。
ぼくは、ゆっくりと近づきます。
「フフっ……きみも、祭りを見に来たんだね」
コメットリスが、楽しそうに言いました。
「ええ。星の光を追っていたら、偶然ここに」
そう答えると、隣に座るように促され、自然と会話がはじまります。

しばらく話していると——
やがて、祭りのはじまりを告げるラッパが、やさしく響きました。
その音を合図に、あたりの光が少しずつ落ちていきます。
気がつくと、ガーランドに吊るされたランプが、ひとつ、またひとつと、ふわりと灯りはじめていました。
やわらかな光が、広場を包みこみます。
そして——
美しい歌声が、静かに響きわたりました。
祭りが、はじまります。
花の飾りを身につけたピピが、数匹の鳥たちとともに、舞台のまわりを軽やかに舞い、そのままガーランドへととまりました。
そのとき。
植物園の入り口から、みっつの気配が、ゆっくりと現れます。
2匹の猫を従えて、花のドレスに身を包んだフェアリーキャットが、静かに歩み出ました。
付き添いの猫たちは、舞台の手前でやさしくお辞儀をして、そのまま後ろへと下がります。
フェアリーキャットは、ゆっくりと舞台へ上がりました。

その瞬間——
広場に満ちていたざわめきが、すっと、静まります。誰もが、息をひそめるようにして、その姿を見つめていました。
フェアリーキャットが手にした花のスティックを、ふわりと振ります。
花びらがやさしく舞いはじめました。
そして——
星の泉がある方角から、無数の光の粒子が静かに飛んできます。
それらは、フローラの森へと降り注ぎ、やわらかな光となって、あたりを包みこみました。

森が、さわさわと息をするように揺れています。
足元へと落ちてきた光は、地面に触れると、そっと花を咲かせていきました。
「……春のめぐみ」
ぼくは、感動しながら、口の中で小さくつぶやきます。

「フフっ。きみが探しているものは、見つかった?」
隣で、コメットリスが楽しそうに言いました。
「あなたには、何でもお見通しですね」
ぼくは、少しだけ笑って答えます。
星の泉から飛び立った光は、ルーナ国では勇気の力となり、フローラの森では、希望の灯火になる。
形を変えながら、フルール島をめぐっている。
——きっと、ほかの場所でも。

フェアリーキャットが、花と光をまといながら舞うたびに、あたりは幻想的な輝きに包まれていきました。
ふと、まわりに目を向けると——
美味しそうにごはんを食べているナッツの姿や、美しい歌声で楽しそうに歌うピピが見えます。
そして、花を見つめる、森で出会ったハリネズミの女の子も——
そこにいました。
——光の行方を追いかけてきたぼくの旅は、ここでそっと幕を下ろします。
けれどきっと、また別の物語が、どこかで待っている気がするのです。

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