漁師時代の話【シナ海の真ん中でフグを食わす】
あー疲れたとはならない
本船と違って灯船(ひぶね)の仕事は楽だ
網を引かなくていいし
飯炊きも茶碗洗いも6人分でいい
灯船での新人の仕事は集魚灯を海に入れる
引き上げることと
飯炊き以外にあまりないのだ
その夜の操業が終わって
本船からおかずにする魚をタモで甲板に
落としてもらうと
その中に8〜10センチくらいの
小さなフグがたくさん入っていたらしく
船長がフグをボールに入れて持って来た
「おーい!ねこターボコイツを味噌汁にしろ」
と笑って言っている
ん?
フグを捌くには
免許と技術がいる事は誰でも知っていることだ
「何の冗談だよ、今から朝飯作るから
悪いけど付き合ってあげれないんだよ」
と思いながら「えー」とだけ言って
愛想笑いで軽くあしらう
そしたらまた
「早くさばけここに置いとくぞ」と
「マジか」は最近の言葉だから
この時は「それ真剣に言ってる?」だ
本気で言ってるらしい
「嫌ですよさばけません
毒に当たったらどうするんですか」と言うと
「いいから味噌汁な」と言う
ニヤニヤしてる
死んでも知らんぞと不貞腐れながらさばく
とは言っても
もともと真面目だから
出来るだけ毒が残らないように
「たしか内蔵と血に毒があるんだよな」
丁寧に内蔵を出し
これでもかってくらい海水で洗って血を流す
そのあとしばらく
海水を溜めたボールに浸けておく
フグを鍋に入れて煮えたら味噌を溶き
味噌汁ができた
ご飯、漬け物やサラダと一緒に
フグの味噌汁を食卓に並べる
食卓と言っても囲炉裏のイメージ
あぐらをかいて座る畳に埋め込まれた
木枠のそれだ
並べたら階段を上がって厨房に戻った
まだする事があったからだ
船長やオッさん達が食べ始め
船長が私に声をかけてきた
「うん、うまい!お前もこっち来て食え」
「いや、食いませんよ」と答えて食卓に行き
私も朝ごはんを食べ始めたその時!
船長が「うっ!うぅ!あー」
え?と思って船長を見たら
喉や唇を押さえて
「な、なんか痺れてきた!うぅー」とうめく
はぁ?おいおい
自分がさばけと言ったんやろ
と思って内心「えぇー!」って思ったけど
表情変えずに船長を見ていたら
「ははは」と言ってニヤニヤ
一通り小芝居が終わったわけだ
最初から毒がないフグだと知ってたんやないか
まあそうだろうなと思っていても
万全つくしてさばいたんだよ
この茶番やるためにフグを味噌汁にさせたのか
そう思ったら
「コイツらないわぁ」と
シラケた表情を崩さなかった
可愛くないよねw
そこは「え!えぇー!大丈夫ですかぁ!
だ、誰かぁっ」くらいに狼狽えるとこやろ
それができたら
私の人生、少しは苦労も減っていただろうよ
とは今思う可愛くない「俺」でした。
この記事こそ茶番でした
お付き合いいただき
ありがとうございました。
ねこターボ🐈
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