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1泊2日の強行軍で、韓国の人が熱狂する文具イベントに行ってきた話

こんなに早く、また韓国に来ることになるとは思っていなかった。

文具の販売や仕入れをするためにアジア四カ国ツアーを3月に行ってから3か月。
私は再び韓国の地を訪れていた。
目的はただ一つ。
「インベンタリオ(INVENTARIO)」という文具イベントを、この目で見るためである。

正直に白状すると、このイベントがすごいという話を知り合いから聞いた時には、そこまで興味を惹かれていなかった。
日本にも紙博や文具女子博といった文具の大きなイベントはある。
限定アイテムを求めて長蛇の列ができる……あの感じの韓国版なのかな……
そんな甘い認識でいたのだ。

今回のnoteはそんな私がなぜ、1泊2日の強行軍で文具のイベントを観るためだけに韓国に行き、どうしてこのイベントに衝撃を受けたのかをじっくりとご紹介したい。

今回のnoteでは、そんな私がなぜ、1泊2日の強行軍で文具のイベントを観るためだけに韓国に行き、ひとりの文具屋の店主として現地で何に圧倒されたのか。
そして調べて見えてきた「日本と韓国の、文具という市場へのアプローチの違い」を、できるだけ正直に書いてみたい。

そもそもインベンタリオって何なのか

イベント名のインベンタリオ(Inventario)は、スペイン語で「物品や書類の目録・記録」を意味する言葉だそうだ。
2025年に韓国のオンラインセレクトプラットフォーム「29CM」と、前回韓国で訪れた際に私自身が衝撃を受けた文具店「ポイントオブビュー(Point of View)」が共同で立ち上げた、まだ歴史の浅いイベントである。

3か月前に韓国を訪れた際に立ち寄った、この「ポイントオブビュー」というお店が私にとっては衝撃だった。
取り扱いのラインナップそのものは日本で見かけるものも多く、驚きはなかったのだが、圧倒的にお店がかっこいいのだ。

それもそのはず。
このお店を立ち上げたキム・ジェウォン(金在元)さんは、空間デザインやブランド戦略を手掛けるクリエイティブエージェンシー「アトリエ・エクリチュール(Atelier Écriture)」の代表であり、空間のプロフェッショナル。
ソウルのブルックリンとも呼ばれる「聖水洞(ソンスドン)」を大人気のトレンド発信地へと変えた立役者としても知られているそうだ。

そんな韓国で一番気になったお店である「ポイントオブビュー」が関わっている人気の文具イベントが「インベンタリオ」だと聞いたら、何はなくとも実地で体験するしかない。
これが初めて訪れた韓国に、3か月足らずでもう一度やってきた理由である。

第1回のインベンタリオは昨年2025年に、ソウル・江南のCOEXという会場で5日間開催され、69ブランドが参加。
約25,000人が来場した。
入場チケットは、販売開始からわずか3日で完売したという。

そして私が訪れた2026年は、会場は同じCOEXではあるものの、2倍近い広さに拡大していた。
参加ブランドも前年の69から100を超える規模へと、一気に膨らんでいた。

そんな初日の会場に14時頃にようやく日本からたどり着き、チケットは購入していたものの長蛇の列に並んでなんとか入場することができた。
そこで待っていたものは、ポイントオブビュー同様に作り込まれた文具の世界だった。

イベント期間は5日間しかないのだけれど、とにかく各ブースのクオリティが高い。
中にはヴィンテージ家具のようなテイストのものまである。

私自身、つい先日もデザフェスなどで、個人の作家さんが気合を入れて組み上げたブースの什器にも、何度も心を動かされてきた。
限られた予算と時間の中で、自分の世界をどう見せるかに知恵を絞った、あのブースたちだ。

日本のブランドもたくさん出ていたけれど、ジェットストリームなどでお馴染みのUNIさんのブースもかっこいい。
オフィス家具のブースまであったのだけど、そこでは我々の世代にはおなじみタイムカードのマシン(働く時間をカードを入れると刻印してくれるやつ)が入口に置いてあって、パンフレットに印字してくれるアプローチなんかもしていてすごく心惹かれた。

インベンタリオで目にしたのは、まさにあの「気合の入った個人ブース」を、企業が本気の予算と人員でやったらこうなる、という光景だった。
紙を売るブースは紙そのものの存在感で空間を支配し、ペンのブースは書くという行為が一番美しく見える舞台をつくっていた。

あとから調べた所によると、ベッドの上で寝転んで布にペンで落書きする、ソファに沈み込みながら布の端切れを縫い合わせて手帳カバーをつくる、そんな有料体験まで用意されていたそうだ。

ポイントオブビューで感じたような「空間」や「什器」へのこだわりを、少なからず感じながら、欲しいアイテムを購入して私自身は会場をあとにしたのだった。

あの熱狂はどこからくるのか。あとから調べて気づいたこと

ああー、楽しかった。
それだけでも私としては大満足ではあるのだが、少しでも参考にして自分のお店にも活かしていかなければならない。
そんなわけで、AIも用いながらイベントのことについて調べていくと、INVENTARIOがなぜ韓国の人たちをあれだけ熱狂させることができていたかのヒントが他にもでてきた。

調べていて一番興味深かったのは、昨年人気を博した2025年と、私が体験した2026年で「運営体制が替わった」という事実だ。

第1回の2025年は、オンラインセレクトショップの29CMが共同主催として関わっていた。
29CMのアプリで自分のテイストを診断し、その結果に合う製品群へと案内される、という仕組みまで用意されていたという。
このアプローチには正直すごく感心させられた。

2025年のインベンタリオの企画において「29CM」と「ポイントオブビュー」は、「散らばった道具と物語を一箇所に集め、嗜好を発見する」という明確なグランドコンセプトを設定したそうだ。
来場者を単なる消費者として扱うのではなく、文具に対する愛着の種類に基づいて、5つの明確なペルソナに分類した 。

「没頭(Immersion)」
「記録(Recording)」
「収集(Collecting)」
「創作(Creation)」
「インスピレーション(Inspiration)」

この5つの興味分類をもとに、来場者は29CMのモバイルアプリを通じて自らのテイストを診断するテストを受け、その結果に基づいて自身のペルソナに合致する特定の商品があるブースへと誘導されるという、極めてパーソナライズされた購買体験を提供されたのだ。

日本の文具イベントは、どちらかといえば「文具や雑貨や限定品が、もともと好きな人」が集まる場所だと思う。
それはそれで最高に幸せな空間だし、私自身その文化が大好きだ。

一方でインベンタリオは、雑貨や限定品を特別に求めていない人にとっても、間口が広く開かれているように感じた。
入り口は「自分のテイスト(嗜好)を発見する」という体験で、その先に商品が置いてあるというのが、文具ファンを増やしていくうえで非常にいいアプローチだったのだなと感じた。

ところが2026年は、29CMが主催から退き、代わりに韓国最大のIT企業「Naver(ネイバー)」が公式タイトルスポンサーとして根幹に入ってきた。

検索エンジンやAI、クラウドを手がける巨大テック企業が、なぜ紙とペンの祭典に大金を投じて関わるメリットはなんだろう?
調べていくと、人が手書きで何かを記録する行為は、Naverにとって「データが生まれる物理的な原点」にあたるのだという。
記録を愛する人々を、自社のサービス圏内にまるごと囲い込む。
そんな長期的な算段が、文具イベントの裏側で立てられていたわけだ。

この29CMからネイバーへのバトンタッチによって、インベンタリオは1年でテイスト(性格)も規模も一段跳ね上がった。
顔認証で入場や「お支払い」まですることができる「FaceSign」や、NaverのAR地図による会場ナビゲーションといった最先端の仕掛けも、私が知らないだけで行われていたらしい。
この顔認証による入場は、未来の購入体験をNaverがアピールすると共に、前回人気すぎて入場に時間がかかった混雑問題の解決にも役立てられたようだ。

家具のイルームや、ノートブランドのモレスキンや日本の有名文具ブランドが大挙して参加していたのも、この拡張の流れの中にあるのだろう。
私が会場で感じたあの「本気度」は、ちょうどスケールが跳ねた瞬間の姿ゆえに、熱狂として感じられたのかもしれない。

日本との違いは「モノ」ではなく「間口」だった


ここまで書いて、肝心の「日本の文具イベントとの違い」をどう語るか、実はまだ完全には言葉にできていない。

日本にだって素晴らしい文具イベントはいくつもあるからだ。
紙博も文具女子博も、限定アイテムを求めて長い列ができるし、来場する客層だって、インベンタリオと被る部分は確実にある。

そして何より、インベンタリオの会場には日本のブランドが当たり前のように並んでいた。

uni、コクヨ、トラベラーズカンパニー、penco……
数えればきりがないほど、日本の文具ブランドは出ていたし人気を集めていた。

つまり「良いモノが日本に無い」という話では、まったくない。
インベンタリオが人気だった理由はおそらく、販売されている商品そのものではないのだ。

では何が違うのか。
それはおそらく「間口」なのだと思う。

冒頭でも紹介した「ポイントオブビュー」は、意図的に「約5%は大衆向けの商品を必ず残す」というルールを設けていると、色々と調べていく内に知った。

ポイントオブビューのお店は、1階が「道具(Tool)」、2階が「シーン(Scene)」、3階が「アーカイブ(Archive)」と名付けられている

1階はより大衆的でアクセスしやすい親しみのある製品を中心に配置し、訪れるすべての人を暖かく迎え入れる。
しかし、階段を上がり2階、3階へと進むにつれて、キュレーションの密度は次第に濃くなり、極めてニッチで、熱狂的で、個人的な深いテイストを持つラインナップへと移行していくように設計されているのだ。

ただ、同時にこのお店は、どれほどニッチな空間であっても「一般大衆の好みに合致するアイテムを常に約5%維持する」という独自のルールを課しているのだ。

これにより、マニアックになりすぎて顧客を疎外することを防ぎ、大衆とコアな世界観の間に巧みな架け橋を構築しているのである。
その感触は、29CMが共同主催でなくなったためにアプリがなくなっている今回も、きちんと大事にされているように感じられた。
それでいて、2年目にしてNaverという巨大企業と連携してサイズを大きくしていくスピード感もまたすごいと感じられる。

そうやって改めて振り返ってみると、日本の文具イベントは、どちらかといえば「文具や雑貨や限定品が、もともと好きな人」が集まる場所だと思う。
それはそれで最高に濃密で幸せな空間だし、私自身その文化が大好きだ。

一方でインベンタリオは、雑貨や限定品を特別に求めていない人にとっても、間口が広く開かれているように感じた。
入り口にあるのはおそらく「自分のテイスト(嗜好)を発見する」という体験で、その先に商品が置いてある、という順番なのだ。

ちなみに、2026年は、会場の中央に「ネイバーラウンジ」という空間が置かれていた。
そこでは「今日は、どんな質問から物語を書いてみましょうか」と問いかけられ、紙のメモ帳にペンで自分の答えを書く、という体験が用意されていた。
やり方は年ごとに変わっても、「まず自分のテイストを見つけさせる」という思想は一貫している。

紙を選び、一文を選び、自分の内面を一枚の作品に仕上げる。
買わなくても、そこに居るだけで「自分とは何が好きな人間なのか」を確かめられる。
この設計だと、「文具が好き」という入り口を通らなかった人も、すっと中に入ってこられる。

韓国では近年、文字を書く・記録するという行為そのものを、洗練されたライフスタイルとして楽しむ「テキストヒップ」という空気があるらしい。
機能で選ぶ「ニーズ」ではなく、自分らしさを表現する「テイスト」で選ぶ。
その潮流の上に、間口の広いイベントとしてインベンタリオが立っていると考えるとしっくりくる。

日本が「文具という愛すべきモノを、好きな人たちで深く味わう」文化だとすれば。
韓国は「文具を入り口にして、自分の好きを発見させる」体験を、大きな企業ぐるみで設計しているのではないだろうか。

どちらが優れているという話ではない。
ただ、机の上の小さな道具が、これだけ大きな「体験のメディア」になり得るのだという可能性を、私は韓国で見せつけられてしまったという事実はあるし、私のお店のヒントにもなりそうなポイントだと感じられた。

インベンタリオから学んだこと


長くなってしまったけれど、現地で圧倒され、帰って調べて、ひとまず言葉にできた。

インベンタリオが教えてくれたのは、文具は「陳列して売る商品」から「自分の興味や感心を知るためのツール」にもなりうるということだった。

うちのお店もそのまま真似ることはできないけど、なにかこれからのヒントにしたいと改めて感じた。

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