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AIの速さと、人生の遅さのあいだで ── 結果はすぐに求めない《今週の三題噺発表》

 
春の気配が漂う冬の終わり、冷蔵庫の中途半端な野菜を集めて鍋をすると、最後の鍋みたいな空気が出る。

白菜の芯が少し透明で、豆腐は角を失い、エノキはもう団体行動をあきらめている。華やかさはない。台所の懐事情がそのまま湯気になっている。でもああいう鍋が妙にうまい。材料はくたびれているのに、味だけは落ち着いていて、急いで作った夕飯よりずっと「はい、これでここまで来ました」という顔をしている。

待ったものには、待った味があるのだと思う。

火が通るまでの時間。ぐつぐつ煮えて、角が取れて、出汁が勝手に仲良くなっていく時間。こっちは暇だから、ついスマホを見る。何かすぐ出るものはないかと探してしまう。検索すれば答えが出る。動画を開けば要点が3分でまとまっている。AIに聞けばもっと速い。質問したら数秒で返ってくる。かなりそれっぽい顔で。

この「すぐ返ってくる感じ」は、今の時代のいちばん甘い誘惑だ。

答えが早い。結果も早い気がする。努力の途中にある、あの曖昧なプロセスをぜんぶ飛ばして、「はい正解」「はい要約」「はい結論」と出してくれる。

人生にショートカットキーが実装されたみたいで、最初はちょっと感動する。便利だし助かる。まぁ実際、私も助けられている。そこは認める。認めるけど、認めながらも少しだけ気になる。

答えが早いものはたしかに便利。でも便利さと価値は同じ顔をしていない。たまに間違えそうになるけども。

簡単に手に入ったものは、手に入った瞬間に、もうこちらの中で終わっていることがある。喉が渇いて自販機で買った水みたいにその場では助かる。でも思い出には残りにくい。

逆に時間がかかったものは出来そのものより、その途中が自分の中に残る。あのとき迷ったとか、うまくいかなかったとか、何度もやめたくなったとか。価値というのは結果だけに宿るのではなく、その途中でこちらが払った時間や面倒くささにも染み込む。

文章の師匠から「結果はすぐに求めてはいけない」と教わった。

若いころは(ずいぶんのんきなことを言うなぁ)と正直思った。こっちは早く変わりたい。早く結果が欲しい。早く「おお」と言われたい。そういうせっかちな願望で頭がいっぱいだったからだ。

成長というのはエレベーターのボタンみたいに押したら来るものだと思っていた。実際は違う。成長は工事中の道路みたいなものだった。いま進んでいるのか、ただ遠回りさせられているのか、見た目ではまるでわからない。

それでも1000日連続投稿を目指した。

急に数字が重い。1000日ってちょっとした修行僧だし。もっと軽やかな挑戦が世の中にはあるだろうに、なぜそんな毎日自分にヘルメットをかぶせるみたいな目標を立てたのか。

たぶん逃げないためだ。書くか書かないかをその日の気分に任せると人はびっくりするほど上手に逃げる。眠いとか、忙しいとか、今日はインプットの日だからとか、明日の私のほうがきっと書けるとか、言い訳の仕出し弁当みたいなものが次々に届く。

夜更かしした日もあった。眠い目で画面を見ながら(こんなことに何の意味があるんだろう)と思った日もある。

書いたところで数字は動かない。手ごたえもない。誰かに褒められるわけでもない。暗い道で一人だけ素振りしているみたいな気分になる。

その「意味が見えない時間」を抜けた先にしか見えない景色が、たしかにある。

毎日すぐ成果が出たら、たぶんそこには辿り着けない。すぐ咲く花はきれいだけれど、咲いた瞬間にこちらが飽きることもある。

簡単に手にしたものは、すぐ飽きる。

少し嫌な真実だね。苦労すれば何でも尊い、という雑な根性論ではない。ただ人は自分が時間をかけたものにしか本気で愛着を持ちにくい。文章もそう。すぐ書けた一本より、何日も頭の隅で転がっていた一本のほうが、あとあとまで残る。

結果が遅いものには遅いぶんだけ自分が混ざる。そこに価値が出る。

だからこそ66週連続投稿企画をやりたいと思っている。

毎日ではない。週に一度。それを長く続ける。これがちょうどいい。早すぎず、甘すぎず、生活の中でちゃんと「書く」を育てられる長さ。

AIの速さに慣れた頭には少し遅いかもしれない。でも人が変わる速度なんて本来そのくらいだ。じわじわでいい。鍋が煮えるみたいに、いつのまにか味がしみていけばいい。

すぐ答えが出る時代だからこそ、すぐ結果が出ないことに賭ける価値がある。

書く理由も、向いているかどうかも、自分の輪郭も、そんなに即答できるものではない。

だから週に一本、ちゃんと置いていく。焦らず、でも逃げずに。

最後の鍋みたいな文章を書ける人は、たぶん強い。派手ではないけれどちゃんとしみている。

66週後、そういう自分に会いたいなら、この企画はかなり向いていると思う。

超書く習慣×週刊『66週ライティング×ランニング』、参加者募集中です。(誰でも無料

《前回の三題噺》
1.最後の鍋
2.ヘルメット
3.夜更かし

説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!

《今週の三題噺》

1.新作発表
2.通販番組
3.スヌーピー


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#木曜日は3ースデイ
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どなたでも参加できます。
締め切りは一応来週4月15日(水)まで。
過ぎても大丈夫です。


#放課後ライティング倶楽部
[画像協力:さちわ]

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