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なぜ誰も辞めないのか。開業から3年経って離職率0%のホテル

開業から3年、離職率0%のホテルがあります。

石川県金沢市にあるSOKI KANAZAWA。開業時は7名だったメンバーは、誰一人辞めることなく、今では13名に。支配人の伊藤華子さんに話を聞くと、「何もしてないんですよ」と返ってきました。

離職率を下げるための特別な施策があるわけではない。辞めようとするメンバーを引き留めたこともない。ホテル業界は、慢性的な人手不足や不規則なシフトで離職率が高いと言われる中で、なぜ誰も辞めないのか。開業からいるメンバーの中村果歩さん、吉井菜々さんにも同席してもらい、3人に話を聞きました。


憂鬱でも、出社したら楽しい

──開業から3年経ちますが、いまだに離職率が0%と聞きました。何が起きているんですか。

伊藤:何もしてない笑。離職率を0%にするぞみたいな朝礼はしていないし、やめようとするメンバーを抱え込むこともしていないんですよね。

伊藤華子 ホテル事業部 SOKI KANAZAWA 総支配人
ホテルが好きで、ホテル業歴20年目。UDSには、2022年にSOKI KANAZAWAの開業支配人として入社。現在は運営統括としてall day place shibuyaとの2拠点を管理。2人の個性あふれる娘がいます。その娘たちとお酒を飲むのが最近の至福です。
好きなホテルは、軽井沢ブレストンコート。

──しかも開業時より人数が増えているとか。

伊藤:開業時は7名で、今は13名。誰も辞めていないです。新卒の子が2名入ってきてくれたのと、想定よりもインバウンドの稼働が多くて、ゲストにかけられる時間を増やしてあげたり、一人の業務負荷が減るようにしたりして今の人数になっています。

──例えば、朝起きて「仕事が憂鬱だな」とか思わないんですか。

中村:それは全然あります笑。

伊藤:金沢は日照率が日本でもトップクラスに低くて、普通にいるだけで鬱になりそうなんで。それでも出社したら楽しいと思ってもらえたらいいよね。

吉井菜々 ホテル事業部 SOKI KANAZAWA スタッフ(写真:左)
接客が好きでホテル業に携わり、これまで約10年間ビジネスホテルで勤務。その後、2022年のSOKI KANAZAWA開業月にUDSへ入社し、現在は館内の季節装飾やお茶菓子の選定、発注業務などを担当。
好きなホテルは、レジーナリゾート。

中村果歩 ホテル事業部 SOKI KANAZAWA チーフ(写真:右)
まちづくりに繋がるホテル運営に興味を持ち、2022年に前職のビジネスホテルからUDSに転職。all day place shibuyaでの研修後、関西から金沢に移住し、SOKI KANAZAWAの開業準備から開業後の運営に携わる。現在はシフト作成・OJT・イベント企画などを担当。
好きなホテルは、若狭佳日。

吉井:憂鬱でもフロントに立ってとりあえず誰かと喋ると、今日も頑張れるなって思います。家に帰ってもふと思い出して、楽しかったなみたいな。

伊藤:数ヶ月に一度、仕事終わりの(吉井)菜々から「今日も楽しかった。」って連絡がきますよ。


業務分担と、お互い様の精神。

──開業時の話から聞かせてください。伊藤さんは開業のタイミングで支配人として入社していますよね。何から始めたんですか。

伊藤:業務分担とマインドづくりかな。

メンバーに別々の業務を与えて、役割を全うしてもらいました。自分だけで仕事を完結させると「自分は頑張っているのにあの人は何しているの?」って気持ちになってしまう。

あとは、他のメンバーがいるから業務が回るんだっていう感謝をみんなにもってもらいたかった。一人で24時間絶え間なくゲストを迎えることはできないし、ホテル業って全部つながるんですよ。

──業務分担について、定期的に変更はしますか。

伊藤:半期に一度、変えるタイミングがあります。属人的なことをつくりたくなくて、なぜかというとその人が休みを取れなくなっちゃうと嫌だから。

支配人もマネージャーもパートさんも家庭の事情は違うから、みんなが遠慮なく休みを取れるように、どこかで誰かの仕事に関わるようにしています。半期はとりあえず回して、次の半期は主担当だった人をサブ担当につけて、新たに主担当をつくっていましたね。

あと、役割は与えても上下はつくらない。例えば菜々はパートでも、社員と変わらない仕事をしてくれている。同じだけやってくれて、みんなが同じだけ返し合っているんです。

──マインドづくりについても聞きたいです。

伊藤:お互い様の精神を意識していましたね。誰かに負荷がかかっている時は、支配人もパートも関係なくすぐに声をかけられるような関係性でいたい。

仕事って基本しんどいじゃないですか。私たちの仕事は理不尽なことを言われることもあれば、ハッピーをくれるゲストもいる。でも仲間がよければ続けられる。あの人がいるから頑張ろうって。

人の抱えている仕事をみんなで理解していて、お互いに助け合う。役職関係なくルーティンの仕事を取り合って「あれやっといたから」って感じ。

──離職率の要因としては、業務分担とマインドづくりが大きいんですかね。

伊藤:あとは、地方なことも要因としてありそう。辞めるかどうかの転機はみんなあったと思うけど、SOKI KANAZAWAのために県外から出てきているメンバーも多いので、向き合った結果、留まってくれたこともあると思う。

吉井:でも、(伊藤)華子さんが仰っていたマインドづくりは、その通りになっています。みんながお互いのためにとかは、自然と行われていて、言語化されて確かにそうだなって。

伊藤:SOKI KANAZAWAは個のスキルが目立つメンバーが集まった感じではなく、全体で一つの大きな“ホテル”って感じになっている。俺が俺がって人はあまりいなくて、個人プレーよりチームプレーであることで、いい雰囲気のホテルになったんじゃないかな。


何気ない会話を大切に

──コミュニケーションなどについても聞かせてください。メンバー同士はどういう仲の良さなんですか。

伊藤:ご飯にはよく行っているし、みんな仲はいいんですけど、仕事として言うべきことは言うんですよ。本人に直接言う時もあるし、自分で消化している部分もあると思う。

──仲良いけど言うべきことは言うのって、難しいですよね。どうやってその空気感が出来上がったんですか。

伊藤:メンバーがそれぞれの深いところを理解しているんだと思う。この人は、丸いものを見たら可愛いと感じるタイプ、この人は丸いものを美しいと感じるタイプとか。その人の属性ではなく、物の捉え方や強み弱みを理解している。

──人の深い部分を知るために、普段はメンバーのどんなところを見ているんですか。

伊藤:例えば誰と誰がご飯行ったとかは知る必要もないけど、皆が毎朝どんな顔をして来て、帰る時はどんな顔しているかは見ている

いつもと違うなと感じたら、ピンポイントで最近どう?って。直接話しかけると不平等が生まれそうであれば、Slackで聞く。そのくらいしかしてないです。あとは月一で定例mtgを開いているくらいで、フロントに張り付いて見てもいないし、1on1も定期的にしてはいない。

──では、普段の何気ない会話を大切にしているんですかね。

伊藤:確かに喋ってはいるかも。

中村:よく喋っていますね。思い出せないようなくだらない話も。

吉井:常にホテルにいられるわけじゃないぶん、会った時にはたくさん話してくれます。いつ見ているんだろうって思うくらい、理解してくれて、見てくれている安心感はあります。

──逆にミスをした時などはどう接していますか。

伊藤:あまり責めない。前向きになれるように、後悔ではなく反省できるように声かけをする。次にどうしたらいいか、どうしたら起きない仕組みをつくれるかを考えてもらうのが大切。

何をしたら私の指導が入るかのボーダーはみんなわかっている気がするし、ヒューマンエラーは絶対に起こるので、「今エラーしてよかったね」ってよく言います。みんなが起こすエラーは自分もやってきたことが多いから、自分の言葉がメンバーの未来につながればいいなと思う。

──Slackのコミュニケーションはどんな感じですか。

中村:ここのご飯屋さんが美味しかったよとか、誰かが東京に研修に行っていたら「大丈夫?」みたいな、ラフな感じです。

他のホテルと比較すると、やりとりの頻度は多いかもしれないですね。スタンプは基本モリモリです。

日常のSlack


みんなが働きやすく、みんなが休める環境を

──コミュニケーション面はなんとなく見えてきました。制度面や仕組みで気をつけていることはありますか。

中村:長期の休みを取れるようにしています。できるだけ希望通りに休めるようにしていて、組み合わせや希望休の数は制限していない。みんな長期休みを使って、地元への帰省や旅行でリフレッシュして帰ってきてくれます。14日間の休暇を取ってくれたメンバーもいました。

何も考えずに休めそうだからってシフトを作成していたら、役員の方にこんなに休めていてすごいって言われて、休めるのっていいことなんだと、そこで気づきました。

──ホテルで14日間はすごいですね。残業はどうですか。

伊藤:残業は多くて15時間。少ないメンバーで1時間くらい。

中村:イベント前だったら業務に入らない日をなるべく多くするし、業務に追われている時は事務所に下がってもらうなど柔軟に声かけをしています。

──採用の段階から見極めができているのかなと思い、面接で意識していることはありますか。

伊藤:その人の考え方が見えるような質問はするかもね。業務はやっていたら覚えるので、スキルよりマインドを見る。

たとえば、引っ張っていくタイプなのか、他人のために一歩引いていくタイプなのか。どっちが良い悪いではなく、今いるメンバーとのバランスを考える。

──入社後はどんなことを教えるんですか。

伊藤:採用後はメンバーに任せているんですよ。メンバーの方が関わりが多いし、メンバーとの関係性を深めてもらう方が貴重だと思うから。何かあった時には言ってねとだけ伝えるくらい。

中村:新しいメンバーには、とにかく楽しく過ごしてもらえたらなって思っています。仕事をストレスに感じてほしくないから、まち案内するだけの日をつくってみたり、メンターをつけて常にフォローできる体制を整えています。

──独り立ちはどのくらいの期間で設計していますか。

中村:新卒だと1ヶ月くらいで、中途であればもっと早まる方もいます。最初は座学として、SOKIのブランドやホテルシステムについて教えます。その後のフロント業務は誰に任せても優しく教えてくれるし、誰が教えても差が出ないってわかっているので、綿密には設計していないです。


最終的には、やっぱり人。

──これまで辛いとか辞めようと思ったことはありましたか。

中村:昨年チーフを任せてもらったタイミングはしんどかったです。業務が多くなることより、みんなに助けてもらっているなとか、自分が出来てないなって思うことでメンタル的に落ちこんでいました。

そんなときも華子さんが声をかけてくれました。SOKI KANAZAWA開業三周年のタイミングでもあり、今までの出来事や、ここでこんな話したよねって話してくれて、純粋に嬉しかった。長い間悩んでいたのが嘘みたいに、その日から復活しました。

伊藤:これから期待することや、中村さんの特性はこうだから人と比べる必要性はないよって話をしたね。

吉井:私はゲスト対応で落ち込んだ時は中村さんに喋ることでスッキリしたり、華子さんに連絡すると嬉しい言葉をかけてくれるので、保っています。

忙しいはずなのに、日頃の業務連絡に対しても常に長文で真面目に返信してくれて、そんなに返信を頑張らなくていいのになとか思いながら、毎回嬉しく思っています。

──みなさん前職もホテルですが、これまでとの違いがあれば知りたいです。

伊藤:前職はやることが全て時間で決まっていた。何時何分になったら下がってお金を数えるみたいな。UDSはいろんなことをやるので、自分が何屋さんかわからなくなる。ホテル業だったよね?みたいな感じです笑。

中村:私も前職のビジネスホテルでは、毎日が同じ日々でした。今は担当業務のイベントやSNSをやっていて、大変なぶん楽しいです。フロントにいる時間は減っちゃうけど、イベントが成功したらまた一つ契機になるし、人やまちとの関係性も増えていきます。

──特に何が違うんですか。

伊藤:前職は完全なトップダウン。ブランド力がある老舗だし、箱を任されていただけで自分から考案して、何かをすることがなかった。

でもUDSってマニュアルがないじゃないですか。正解が与えられてなくて、自分たちでつくっていく文化がある。だからこそブランドやホテルの今後のことは、前職に比べて向き合うようになった。ブランドもスタッフも、もっともっと良くなっていく未来がある。

中村:たしかに前職は仲はいいけど会話はあまりなくて、業務の改善やホテルをもっとよくしようって考えはそこまでなかったかも。決められていることをやっていくだけ。けど今は、本当に楽しい。どうしたらみんなが楽になるかなって考えるようになりました。

伊藤:UDSは最初にマニュアルがなかったし、余白があるのがよかったのかもね。決まっていると、改善しようって思考にならなかったかもしれない。

──最後に、支配人として何に一番時間を使っていて、何を一番大切にしていますか。

伊藤:人と喋ることかな。よく「今日何しに来たんだっけ。喋ってただけだ笑」と言いながら帰ることがある。売上は見ているけど、得意なレベニュー担当にお願いしている部分が大きいし、チームや業務担当ごとの予算・お金の使い方やリスク管理は緩くならないように気をつけるくらい。

大切なのも、やっぱり人。支配人がいなくても数日の運営は回るんですよ。でもゲストを迎えるメンバーがいなかったら1日も回らない。常にメンバーが数字をつくってくれると思っている。私が施策を投げても、メンバーが気持ちよく実行してくれなかったら数字にならないから。


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