熊本地震後、ガス爆発を起こしたイオンモール。空気より重いLPガスが床面にたまり、崩落物や倒壊物が蓋をした? 雇用者の従業員への「安全配慮義務」はどうなった? 災害対策拠点・モールにLPガス導入を推進したタテ割り行政の罪。
2026年7月28日午後4時時27分。「令和8年熊本地震」が発生した。
その地震発生から約1時間20分が経った午後5時50分ごろ、熊本県上益城郡嘉島町にある「イオンモール熊本」で大規模な爆発が起き、店舗従業員7人が死亡した。客約3000人は事前に避難していて無事だった。

記者会見で「従業員3人が死亡した」と公表したアパレル大手「オンワード」系列の店舗は、2階にある「エニィシス(any SiS)」などである(下は2階のフロアマップ)。

亡くなった従業員女性は、避難して建物の外に出たあと「貴重品を取りに」再び建物内に戻って爆発に遭ったらしい。一度は助かった命なのに、無念でならない。
会社の「命令」あるいは「許可」に従って店舗に戻ったのか?
ここでまず一つ目の論点が浮かぶ。
①彼女たちが「取りに戻った貴重品」とは、私物(スマホ、財布など)だったのか?
=地震で避難するとき、展示物や商品、在庫品が崩れ、倒れて大混乱になった店舗に、スマホや財布を置いてくるとは、私には考えにくい。地震後、家族に無事を知らせるために、スマホは必ず必要だ。
東日本大震災や福島第一原発事故の避難でも「財布とスマホだけは持って逃げた」という人が大半だった。
②あるいは業務に関するもの(レジに残された売上金、帳簿など)だったのか?
③もし業務に関する「貴重品」だったなら、店長や上司、地区スーパーバイザー、本社など「業務上の命令」あるいは「もう職場に戻って良い」という「許可」に従って取りに戻ったのか?
もし③のケースなら「彼女たちの死は、会社側に責任がある」という結論になる。法的責任がある。
「法的責任がある」というと「では会社の上司が警察に逮捕されるの!?」と連想する人が多いだろう。しかし警察や検察が関与するのは、主に「刑法に違反しているかどうか」を調べる時である。
そうした刑事責任の有無は、まだ裁判にもなっていないので、わからない。
「地震から1時間20分後にガス爆発が起きることを雇用者側は予見できたかどうか」など、刑法の「業務上過失致死罪」の成立には、いくつもの満たすべき要件がある。
さらに、刑事責任の有無を問うには、複数の判断がかかわる。
①熊本県警の捜査=警察が送検するか否か。
②熊本地検が起訴するか否か。
③裁判所はどんな判決を出すのか。
時間がかかる。すべては待つしかない。
(補足)イオンモールなどの商業施設を中心に、コスメや雑貨を取り扱う約15店舗、九州で展開する「ハビタ」(本社:熊本市)は「売上金を金庫に戻すために店舗に戻るよう指示した」と認めてHPで謝罪している。爆発事故では「ハビタ」の従業員2人が亡くなった。
雇用者は災害時に従業員の安全を確保する義務がある
しかし刑法のもっと手前の法的責任として「地震などの大規模災害時において、雇用者が従業員の安全を確保すること」を義務付ける法律は明確に存在する。
1. 労働契約法 第5条(安全配慮義務)
規定内容: 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」。
災害時の適用: 自然災害時であっても適用される。地震発生時に危険な場所での業務継続を命じたり、適切な避難指示・安全確認を怠って従業員が被災・負傷した場合、企業は「安全配慮義務違反」として民法上の損害賠償責任(債務不履行・不法行為)を負う。
2.労働安全衛生法 第3条および第25条
第3条(事業者の責務): 職場における労働者の安全と健康を確保することが事業者の責務として規定されている。
第25条(退避措置): 「労働災害発生の急迫した危険があるときは、事業者は直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等の必要な措置を講じなければならない」。
こうした労働関連法での「安全配慮義務違反」に会社側が問われる可能性は、少なくとも刑事責任よりは確率が高い。
(追補)同年8月11日になって、モールの施設管理者であるイオン社(本社:千葉市)は、「地震後に施設外に避難した一部の専門店従業員に対し、同社側が一時入館を認めた事実があった」と認め、遺族に謝罪した。
当初は否定していた公表内容を一転させた。同社の法的責任は免れえないと私は考える。
なぜ多量のLPガスをモールが必要としたのか?
次に論点として浮かぶのは「イオンモール熊本が、地震当時LPガスを多量に必要としたのはなぜか?」である。
飲食店の調理程度で、これほどの大爆発を起こすガスが店内を流れるのだろうか?
私が考えるシナリオは「冷房フル稼働のために、LPガスが必要だった」である。
地震発生時(2026年7月28日午後4時27分頃)の現地の気温は 約35.4℃もあった。同日の最高気温: 36.5℃(14時02分観測)である。つまり、最高気温35℃を超える猛暑日の中で地震が発生した。
ショッピングモールのような大規模な商業空間の冷房設備には「ガスヒートポンプ(GHP)」と「電気式ヒートポンプ(EHP)」が併用されることが多い。
酷暑期(7〜8月)の午後などはエアコンの電力消費が急増し、年間の「最大電力」を更新しやすくなる。最大電力が上がると、向こう1年間の電気基本料金が跳ね上がる。
商業施設の論理としては、電気代のようなコストは削減したい。「ガスを動力源とする空調(GHPやガス吸収冷温水機)を併用して電気使用量のピークを抑える」(『ピークカット手法』と呼ばれる)は、大規模施設ではごく一般的に使われている。
上記を前提とすると、地震が発生した7月28日のような気温35℃を超える酷暑期では「電力のピークカット」かつ「大規模空間の冷房能力」を実現するには、GHP(ガス空調)がフル稼働していたと推測するのが合理だ。
(補足)ショッピングモール級の大規模建築物では、個別エアコン方式の「ガス空調」のほか、中央の機械室でガスを使って冷水を作り、各所に送る「ガス吸収冷温水機(セントラル空調)」もよく使われる。
「ガス空調」(GHP)といっても、LPガスが冷気を運ぶ冷媒になるのではない。LPガスはあくまで「屋外(屋上など)に設置されたGHPの室外機」内部にあるコンプレッサーを回す「ガスエンジン」の動力源として使うだけだ。タンクからLPガスが送り込まれるのは、この室外機である。
店内各所の天井にある「室内機」と室外機の間を循環しているのはLPガスではなく、熱を運ぶ「冷媒(フロン等)」だ。
だから、冷房に関する限り、LP`ガスが店内各所を網の目状に巡っていたわけではない。
すると破断してガス漏れを起こしたLPガスパイプには2種類あるという結論になる。
「タンクから屋上のエアコン室外機へ至る供給管」
「飲食店厨房への引き込み配管」
これが地震の揺れで破断し、LPガスが大量に漏洩・滞留した可能性が高い。
(注)テレビ朝日が爆発の瞬間の映像や爆発場所の特定ですぐれた検証をしているので、シェアしておく。
なぜLPガスタンクは爆発しなかった?
爆発後のイオンモールの現場写真を見ると、手前フェンス内右側の横形円筒タンク(カプセル型)はLPガスバルク貯槽(高圧ガス貯槽)が見える。 つまり漏れたLPガスは爆発したが、タンク本体は爆発しなかった。
それはなぜか。「ふたつのシナリオ」に分けて可能性を提示する。

①楽観的なシナリオ: 地震を検知して遮断弁が作動した。
配管の破断や地震等の異常で安全装置(自動遮断弁=過流防止弁、緊急遮断弁・感震遮断装置など)が即座に作動し、タンクからのガス送給を遮断した。この場合、爆発したのは、あくまでタンクの先にあった配管から漏れ出したLPガスということになる。
しかし、このシナリオには欠点がある。タンクの先にあるパイプの中にあるだけのガスの容量で、これだけ大規模な爆発が起きるだろうか?という疑問が解決しないのだ。そこで悲観的なシナリオが出てくる。
②悲観的なシナリオ:遮断弁が作動しなかった(最初からなかったという最悪のシナリオもありえる)。
こちらのシナリオでは、地震でガスパイプが破断し、タンク内にあったLPガス(液体)が、タンクが空になるまで気体になってモール内に流れ込んだ。写真では見えないだけで、タンクの他に地下貯槽があった可能性もある。
空気より重いLPガスが床にたまった?
LPガス(主成分プロパン・ブタン)は空気より重い。
空気の約1.5〜2.0倍の重量を持つ。漏洩すると、空気より軽い都市ガスのように上方に拡散しない。床面や低所に沈降・停滞する。
そこに、地震に伴う電線の断線・短絡(スパーク)、スイッチや電気機器の動作、あるいは部材同士の激しい接触火花が、溜まったガスに着火した。そう私は考える。
(追補)本稿を公開した後、地震直後・爆発前の店内を録画した動画がネット上に公開され始めた。
それを見ると、私が当初予想したような「天井板材の石膏ボードの剥落」「展示物の倒壊」がほとんど見えない。すると「ガスはどこにたまったのか?」という疑問が出てくる。
また爆発直後の内部を撮影したドローン映像(上)を見ると、爆心地付近では、1階部分(先にLPガスがたまる)だけではなく、2階部分も均等に爆圧がかかった形跡がある。つまりLPガスは1階部分を埋め、2階部分に達するほどの量が館内に充満していたのではないか。
(注)爆圧は、手すりの倒れている方向から、ドローン進行方向左から右へ抜けているのがわかる。
外部から爆発の瞬間をとらえた映像(下)でも、1階だけではなく、2階部分も爆発していることが見て取れる。
従って、これまで本稿で提示した以下の仮説部分は修正の可能性があると留保しておく。
地震により崩落した石膏ボード(天井材)や倒壊した展示物は、床面にたまったLPガスの拡散を防ぐ蓋として機能する。床とボードの隙間にガスが封じ込められることで、短時間で爆発限界濃度(プロパンの場合約2.1%以上)へ急上昇した。
縦横に広範囲の爆発の痕跡
現場の写真を見ると、爆発で破壊された範囲が非常に広い。
広範囲に、外壁や屋根が吹き飛ばされている。かなりの大規模損壊である。
特に、2階部分の爆圧の強さがほとんど1階と差がないことに注目したい。空気より重いLPガスは下から順番に溜まっていくから、ガスは2階部分にまで充満していたのではないか。

すると、次に浮かぶ疑問は「それほど大量のガスがなぜモール内に漏れたのか」である。地震を検知してガスを自動的に遮断する遮断弁が作動していれば、1〜2階を埋めるほど大量のガスは漏れるはずがないからだ。
ならば必然的に「遮断弁はあったのか?」「あったのなら、正常に作動したのか?」という悲観的なシナリオを問わなくてはならない。
もう一つ悲観的なシナリオ。空調設備の室外機が爆心地付近の屋上にあるのが写真で見える。この室外機のコンプレッサーを駆動するガスエンジンにガスを送る配管があったはずである。タンクは地上だから、地表面から屋上までガス配管があったはずだ。もし、これが破断し、かつ遮断弁が作動しなかったら?破断箇所が2階、あるいは屋上付近だったら?LPガスが上から下へ降り注ぐ形になる。

モールを災害拠点に使うためLPガスへの切り替えを国が推進
経産省(国)は東日本大震災(2011年)以降、ショッピングモールなどの大型商業施設を災害時の「一時避難場所」や「救援拠点」として機能させるため、「LPガス災害バルク設備」の導入を国として強く推進・推奨してきた。
経済産業省(資源エネルギー庁)は、2013年ごろから「石油ガス災害バルク等の導入事業費補助金(自衛的燃料備蓄補助金)」を本格的に始動し、民間商業施設がLPガス備蓄設備や非常用発電機を導入する際の費用を最大3分の2まで国庫から補助する形で誘導してきた。
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/lpgas.html
都市ガスは地下の配管を通じて供給されるため、地震で配管が破断した場合、エリア全体の復旧に数週間から数ヶ月という長い時間がかかる。
LPガスは敷地内のタンクや貯槽にガスを直接「備蓄」しているため、インフラが寸断された状態でも独立してエネルギーを自給自足できる(分散型エネルギーとしての強み)という特性がある。
経産省下の資源エネルギー庁は、LPガスを「災害に強い分散型エネルギー」「LPガスの災害への強さは、東日本大震災でも証明された」として宣伝してきた。
東日本大震災後、ショッピングモールは災害救助拠点に
一方、ショッピングモールは、広い駐車場や物資を収容できるスペースがある。そのため、自治体と災害時協定を結んで「一時避難所」や「物資輸送拠点」に指定されるケースが続いている。
東日本大震災では、多くの指定公的避難所が津波や揺れで破壊される中、内陸部にあった大型ショッピングモールが、広大な駐車場、自家発電設備、備蓄物資、トイレなどを提供し、事実上の「地域の救助・避難拠点」として数万人規模の被災者を支えた。
国策化・法改正の動き: 2012年の災害対策基本法の大改正により、民間企業との災害協定の締結が強く推奨されるように。
イオングループの動き: 2012年に「イオン・新防災精神」を策定。2020年までに全国100店舗を防災拠点化する「防災インフラ化」構想を掲げ、自治体との協定締結を急加速させた。
経産省の政策(2013年〜): 前述の通り、経済産業省が民間施設を避難所化するための「LPガス災害バルク設備」などの補助金制度をスタート。ハードウェア面での拠点化が国策として推進された。
「災害でも電気、照明、通信、空調、調理を維持できる」
停電や都市ガスの遮断が起きても、敷地内にLPガスの備蓄があれば、以下の機能を数日間にわたり維持できる。
非常用発電(LPG発電機):館内照明や通信、防災センターの電源確保
ガスヒートポンプ(GHP):避難スペースの冷暖房・空調維持
炊き出しや給湯設備:数千人規模の避難者への温かい食事や入浴の提供
LPガスは災害に強い「自衛的燃料備蓄」
非常用電源の燃料には、ガソリンや軽油などの液体燃料も使われる。しかし、長期間保管すると品質が劣化するので、定期的な入れ替えが必要だ。
一方のLPガスは長期間保管しても一切劣化しないため、災害大国である日本における「自衛的燃料備蓄」として極めて優れていると経産省は判断した。
「LPガスは床にたまる」という第二層防護の見落とし
しかし国は「漏れたLPガスが地震で崩落したがれきの隙間にたまる」という「第二層」の安全防護を見落とした。
東日本大震災や福島第一原発事故の時もそうだったように、日本政府は「第一層」の安全防護までしか考えていないことが多い。
今回の熊本のイオンモールでのLPガス爆発は典型的な「第二層の安全防護」の見落としであり、その意味で「人災」の側面を帯びてきた。
熊本地震全体の死者は35人。そのうち7人がイオンモール爆発である。
死者が多数出ていることから、この熊本イオンモールのLPガス爆発事件は、刑事・民事両方で司法の判断が問われる可能性が高い。刑事なら業務上過失致死罪である。
そこでは、この「第2層安全防護を誰かが怠ったのではないか?」「LPガスに転換させた国=経産省の指導は正しかったのか?」が争点になるだろう。
都市ガス供給エリアなのにLPガスを選択したのはなぜ?
イオンモール熊本が立地する熊本県・嘉島町は「西部ガス(西部ガス熊本)」の都市ガス供給エリアである。町内の一部地域で都市ガスが供給・利用されている。LPガスの供給会社は「福岡酵素」である(下に経産省の発表リンクを引用する)。
https://www.meti.go.jp/press/2026/08/20260805001.html
(注)2005年の開業当初は、このモールは三菱商事とイオングループの合弁会社が運営する「ダイヤモンドシティ・クレア」だった。イオンが2006年にTOB(株式公開買付け)を実施し「ダイヤモンドシティ」社を連結子会社化した。2011年11月18日に「イオンモール熊本」へと改称した。
しかし「イオンモール熊本」では、2005年の開業当初から施設内の調理・給湯・空調等にLPガスが導入されていた。東日本大震災(2011年)をきっかけに都市ガスからLPガスへ転換が行われたわけではない。
ということは『大規模なLPガスリスクを元々抱えている施設』であることを知りながら、国や自治体は、安全対策(第2層防護)の検証を怠ったまま、災害救護拠点に指定し、国策として持ち上げていた。そういう結論になる。
なぜ都市ガスも選択できたのに、LPガスを選択したのだろうか?
私が考える確率の高い可能性を「シナリオ」として書き出してみた。
シナリオ1:経済・設備投資効率
構造:初期建設コストの削減とLPガス会社の取引モデル
本管引き込みコストの回避:都市ガス本管から広大なモール敷地内への導管引き込み工事費は、通常すべて事業者負担であり、数千万円〜数億円規模の莫大な初期投資が発生する。
設備提供・長期契約モデル:LPガス会社(福岡酸素など)は、バルク貯槽や敷地内配管などの供給設備を初期投資として肩代わり(または無償貸与)し、長期のガス供給契約で回収するビジネスモデルが一般的だ。イオン側にとって初期建設コストを劇的に圧縮できる経済的メリットが働いた。
シナリオ2:商業・店舗にとってLPガスは高火力が魅力。
構造:飲食店テナントの厨房要求と配管の柔軟性
高火力:LPガスの発熱量は都市ガスの約2倍以上。大型フードコートや飲食店街(数十店舗)の厨房機器において強火力を安定供給できる。
設備拡張が柔軟:モール開業後のテナント入れ替え、増床、厨房設備の増設に際し、バルク貯槽からの配管ライン変更や容量調整が、都市ガスの地下導管改修に比べてはるかに容易かつ柔軟。
シナリオ3:都市ガスインフラの供給容量が足りなかった。
構造:既存都市ガス本管の供給能力限界
嘉島町内に都市ガスエリアが存在しても、イオンモール熊本のあった「上島地区」付近の既設導管の「管径(供給容量)」が、延床面積10万㎡級の超大型ショッピングモールが求める最大ピーク時の需要量を賄えなかった可能性。導管の口径拡大・補強工事を伴う場合、導入のハードルはさらに高くなる。
ガス警報器は作動したのか?
もう一点、私が非常に気になる論点は「ガス警報器は作動したのか?」である。
ガス漏れを警告するアラームが鳴っていたなら、そこに危険を冒して戻る人はいないだろう。
しかし、報道を見る限り「ガス臭いにおいがした」という証言はあるものの「ガス警報器が鳴っていた」という証言が出ていない。
(注)この「ガス臭い匂いがした」と証言した人が、1階でガスの匂いを嗅いだのか、2階かは報道ではわからない。いずれにせよ、人間の鼻の高さは地上約1.5m前後であり、1階にいたとしても、地表1.5mの厚さでのLPガスがたまっていたことになる。まして2階部分だったとすると、1階部分を埋めるほどのLPガスが沈殿していたことになる。LPガスの場合、人間が「ガス臭いにおいをかいだ」時点で、すでに非常に危険な状態なのだ。
パイプが破断してガスが漏れたとき、LPガスと都市ガスとでは挙動が正反対である。
LPガスは空気より重く、床面にたまる。だからガス警報器・センサーは床近くに設置する。都市ガスは空気より軽く、上にのぼって天井付近にたまる。だから警報器・センサーは天井近くにつける。
疑問①イオンモール熊本では、ガス警報器・センサーは「天井近く」か「床面近く」か、どちらの位置にあったのか。
まさかとは思うが、LPガスを導入しているのに、都市ガスと同じ天井近くに警報器・センサーを設置していた可能性はないのか。
疑問②従業員が犠牲になったアパレル専門店付近に、ガス漏れ警報器はあったのか。厨房施設を持つ飲食店付近にしか、警報器を設置していなかったのではないか。
もしそうなら、これは明白に設計段階でのヒューマンエラーである。施設管理者、つまりイオンの責任になる。
経産省は防災が仕事ではない。業界応援団にすぎない
私がもうひとつ気になっているのは、この「ショッピングモールの防災拠点化」という国策に便乗して、LPガスの普及を誘導した経産省・資源エネルギー庁が「災害リスクを予想していたのか」という点だ。
防災対策は特定の省庁ではなく、内閣府(防災担当)が中心になって総合調整をする。
ところが経産省は、基本的に「産業振興」が仕事。つまりは「業界応援団」である。
彼らが全国のショッピングモールのLPガス化を補助金で誘導したとき、それはLPガス業界にとっては類稀な商機だっただろう。
日本ショッピングセンター協会の調査によると、2025年末時点で全国に3,013カ所のショッピングセンターがある。買い手は山のようにいるのだ。しかも「防災対策」「地域への貢献」という美名を冠した「国策」だから拒む企業も少なかっただろう。
モール側の負担も軽い。政府が代金の3分の2を税金で補助してくれる。実においしい商売である。
その意味で、経産省はLPガス業界の利益は大いに考えたのだろう。
しかし、その災害リスクまでは考えなかったのではないか?
そう私は疑っている。
「モールを災害救援拠点に」という国策の破綻
いずれにせよ「ショッピングモールを地震などの大規模災害での避難・救援拠点にする」という国策は、イオンモール熊本のLPガス爆発事故で7人の死者が出たことで、破綻したと結論せざるをえない。
地震が起きて1時間20分後に、予期しなかったガス爆発が起きるということは「揺れが収まったから、もう大丈夫」という素朴な感覚が通用しなくなったということだ。今後、地震後のショッピングモールにはLPガスという「時差爆弾」が仕掛けられている、と考えなくてはならない。
しかも「災害に強い分散型エネルギー源としてLPガスをショッピングモールに普及させよう」と推し進めたのは経産省である。「災害時にはショッピングモールを救護・避難拠点に」との政策を進めたのは内閣府である。
同じ日本国政府の防災政策なのに、「被災者の身体のリスクを最小限におさえる」発想が欠けている。ゆえに一貫性がない。矛盾しているのだ。
省庁タテ割りが7人の命を奪った
「省庁タテ割り」でバラバラな政策をやって、全体を矛盾なく統合するコーディネートがまったく働いていない。古来おなじみの「省あって政府なし」のバラバラぶりが、とうとう国民の尊い命を奪ってしまった。
本来なら内閣府や首相官邸がそうした省庁ごとのバラバラな政策を矛盾しないようにコーディネイトする責任があるのだが、東日本大震災以来、それも機能していなかった(だからこれは高市早苗政権になって始まった失策ではない)。イオンモール熊本爆発事故は、その雄弁なエビデンスである。
ここでは「第二層」以降の多重防護への想像力が致命的に欠如している。
2011年の東日本大震災や福島第一原発事故で、あれほど莫大な犠牲を払ったのに、何も学んでいない。
日本国憲法や災害対策基本法を引用するまでもなく「国民の生命・財産の保護」は国政府が負う最大の責任事項である。なのに、それを実行する能力がない。これでは国家の体をなしていていない。
「一体いつまでこんな無能を続けるのだ」と言いたくなる。
まだ低い場所にLPガスが残留している可能性はないのか?
これは悲観的なシナリオだが、これ以上の複次災害を防ぐために記しておく。
崩落した瓦礫の最下層、床下ピット、または配管ダクト等の閉鎖空間に、未着火のLPガスが依然として高濃度で残存している可能性はないのか?
今後の救助活動や現場検証時の瓦礫撤去に伴う静電気や摩擦火花により、二次爆発が誘発される危険性はゼロになったのか?
追記:この記事を口頭で解説した動画を公開しています。併せてご参照ください。
(2026年8月6日記す)
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