【ショートショート】告りびと
吐く息の白さが薄くなり、ときおり春の暖かさが顔をのぞかせる季節。我が能門高校に伝わる伝統行事が執り行われる。
卒業式のこの日、特別に開放された屋上に全校生徒の視線が集まっていた。その真下の校庭では応援団が大きな旗を翻している。
『告りびと』が始まる。
屋上に1人の生徒が姿を現した。緊張した面持ちで柵の手前まで歩みを進める。ここから思いの丈を叫ぶのが、わが校の伝統行事だ。
おれはその姿を見上げながら、隣に立つ友人に気になっていたことを尋ねた。
「なあ、これって、昔テレビでなかった? V6の」
その会話を耳聡く聞きつけた担任が、顔を真っ赤にして密やかに叱る。
「我が校の長年続く伝統行事を、テレビなんかと一緒にしないの!」
屋上の生徒が覚悟を決めたように息を吸い込んだ。
「ずっと、言いたかったことが、あるー!」
担任がおれの肩に手を置いて屋上を指さす。
「ほら、集中して! ──なーんだー?」
全校生徒が一斉に「なんだー?」と声を合わせる。
「これ、学校へ行こうと、同じー!!」
屋上の生徒の叫びに担任は青い顔をして口をパクパクさせている。生徒たちは口々に「知ってるー!」「みんな思ってたー!」などと笑い合っている。
口をあんぐり開けている担任に苦笑しながら、今度はおれが担任の肩に手を置いて、言った。
「じゃあ、おれも行ってくるよ。卒業だから、もういいよね?」
担任は青ざめていた顔を赤くしたかと思うと再び青くさせる。
「ちょ、リョウタ、待って──」
「先生、学校では名字でね」
おれはニヤリと笑うと、屋上目指して歩き出した。
終
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