【ショートショート】こびと栗
おばあちゃんが入院している。いそがしい両親の代わりに、ずっとぼくと一緒にいてくれた。
大好きな栗を食べたら、病気も治るかもしれない。ひとりでは行っちゃダメと言われている、森に向かった。
天気は良いはずなのに森はどこか薄暗かった。前におばあちゃんと来たとき見つけた栗の木があった。栗がなる季節じゃなかったのか、イガイガはひとつも落ちていない。
肩を落として帰ろうとすると、栗の木の洞の中に大きな栗の実を見つけた。ぷっくりと膨れた実は今まで見たどの栗よりも大きかった。
跳ねるように病院に向かった。面会時間は終わっていたが、こっそりと忍び込んだ。
「おばあちゃん」
小さな声で呼びかけると「あらまぁ、ユウちゃん。こんな時間にどうしたの?」とおばあちゃんが目を丸くした。
「栗、拾ってきたよ。これ食べたら元気になる?」
拾ってきたままの栗をおばあちゃんの布団の上に置いた。
「あらまあ。ありがとうユウちゃん」
にっこり微笑むおばあちゃんを見て、ぼくも笑った。すると、栗の実がコトコトと揺れている。小さく空いた虫食いの穴から、小さな小さな生き物がぞろぞろと出てきた。
始めは虫かと思ったが、よく見るとそれはアリよりも小さい小人だった。
「おばあちゃん、小人……」
おばあちゃんは枕元のテーブルに置いてある虫眼鏡をのぞき込み「あらまあ、あらまあ」を連発する。
小人は甲高い声で何かを言っているが、キーキーとしか聞こえない。ぼくは小人の声がよく聞こえるように栗に顔を近づけた。すると栗の上の部分がフタのように切れ目が入っているのに気が付いた。
慎重にそっとその部分を持ち上げた。栗の中には街があった。小枝をくり抜いた塔のような建物が何本も建ち、栗の内側は苔のようなものでぼんやりと照らされていた。その淡い光に照らされて、たくさんの小人が中からぼくを見上げていた。
「おばあちゃん……」
「元の場所に戻してあげましょう。小人さんたちの暮らしを邪魔しちゃかわいそうだわ」
「でも、おばあちゃんの病気が……」
「おばあちゃんはだいじょうぶ! ユウちゃんが来てくれて元気になったわ」
おばあちゃんはにっこり微笑み、栗に再びフタをすると、優しくぼくの手に栗を乗せた。
*
その日からしばらくして、葉っぱの色が変わる季節になった。おばあちゃんはまだ入院している。やっぱりぼくが栗をあげられなかったから……とベッドの上で落ち込んでいると、コツコツと窓の方で音がなった。
なんだろうと窓を開けると、そこには大きな丸々とした栗の実がいくつも置かれていた。栗を運んできたのか、カブトムシやクワガタ、カナブンなどが疲れた様子で栗のそばに横たわっている。その背中ではあの小人たちが飛び跳ねていた。
ぼくは栗の実を宝物のように手に握りしめた。
「ありがとう。大変だったよね。ほんとにありがとう」
去年の誕生日に買ってもらったミニチュアのお城を掴むと、小人と昆虫たちを肩に乗せ、森に向かった。
栗の木の洞にお城はぴったりと収まった。気に入ってくれたのか、小人たちはお城の探検を始めた。小人に手を振ると、ぼくは病院に向けて走り出した。
小人たちはささやく。
「おばあちゃんの命くれたら栗あげるって言ったのに、あいつ分かってない?」
「まあ、お城くれたからいいか。あ、その部屋おれのだからな!」
終
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