【ショートショート】サンプル便座
「T●T●の新商品です。よろしくお願いしまーす」
私は掌大の小さな便座を受け取った。冬の到来を予感させる冷たい風が吹く中、その小さな便座はほんのりと掌に温もりを伝えた。
「電気を使わずに便座を温める新技術でーす」
なるほどたしかに、それはすごい発明だ。だが、この小さな便座をどうしたものか。カイロとしては物足りなく、ミニチュアとして飾るには便器が足りない。ただのU字型のほんのり温かな代物を持て余しながら、私は帰路についた。
「ただいま」
誰もいない空間に、私の声だけがこだまする。妻が子供を連れて出ていって半年。未だに部屋の暗さに慣れなかった。上着を脱ぎ捨てると、子供部屋の扉を開けた。
置き去りにされたドールハウスが、月明かりに照らされていた。私は掌のサンプル便座を、小さなバケツの上に置いた。私はなんとはなしに少し頷くと、部屋を出た。
数日後、空気を入れ換えようと子供部屋の窓を開けた。ふとあの便座に目が止まる。まだ温かいか触れてみると、確かに温かい。ほう、と声を漏らしていると、バケツの中に小さなウンチがとぐろを巻いているのに気が付いた。
「は?」
バケツの横に小さな紙が置いてある。何か文字が書いてあるので、虫眼鏡を引っ張り出し覗いてみた。
「★★★★☆ もう少し温かさが欲しいところ」
私は目を丸くしてドールハウスを眺めた。ウンチの主の姿は見当たらなかったが、そこかしこに生活の痕跡が見て取れた。
私は少し苦笑すると、バケツの中をティッシュで綺麗に拭いた。なんだか少し胸のあたりが、ほんのりと温かくなった気がした。
終
ウンチを見付けて心がほんのり温かくなるかは謎ですが……なる人もいるんじゃないでしょうか😅
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