【短編小説】にたものどうし #シロクマ文芸部
「海の猫って書くんだよ。ミャーミャー鳴くから」
カモメと間違えた私に、初めてのデートでそう教えてくれたのは彼だった。
*
テトラポッドに規則的に打ち付ける波の音が、ウミネコの鳴き声の間を埋めるように打ち鳴らされる。
ミャーミャー ザザーン
ミャーミャー ザザーン
堤防の突端に座る彼は、澄み渡る空を優雅に飛ぶウミネコをぼんやりと眺めている。私はその彼の姿を、またぼんやりと眺めている。
「ウミネコとカモメって似てるけど、やっぱり違うんだよな」
視線は海を向いたまま、ちょうど私にだけ届くような声の大きさで、彼は呟いた。どこか淋しげで達観しているような彼の仕草が、私は好きだった。でもこんなときまでそんな仕草をしてしまう彼が、今はどこか遠く感じる。
彼はそんな私の様子に気付いているのかいないのか、相変わらず海を見つめたまましゃべり続けた。
「鳴き声が違うんだって。ウミネコはミャーミャー、カモメはキューキュー。クチバシの先が黒いのがウミネコ、目が優しいのがカモメ。でも、本当によく似てるよな」
私は彼が何を言いたいのかわからず押し黙るしかない。付き合い始めた頃は、彼が何を考えているのかなんでもわかった。わかった気になっていた。
よく似たふたりだと周りからはいつも言われた。私もそう思っていた。でもいつからか、彼の考えていることがわからなくなった。遠い目をすることが多くなった彼に、詰問するように、駄々をこねるように、当たることが多くなった。
ケンカが増えた。別れようと、思った。
「似てるけど、やっぱり違ったんだよな」
彼が私の方を見ながら言う。沈黙を埋めるようにウミネコが鳴いてくれる。
ミャーミャー ザザーン
ミャーミャー ザザーン
「おれさ、家族いないだろ。だから、美羽と家族になりたかったんだ。でも、気付いたらなんか、美羽のおれを見る目が変わった気がして……離れていっちゃいそうでさ……それで……」
私は彼が変わってしまったと思った。彼は私が変わったと言う。どこでボタンをかけ違えたんだろう。結局私たちは、似た者同士だったんだろうか。
「おれ、自首するよ。最後にここに来れて、よかった」
私は彼に殺された。
別れ話を切り出すと、彼の目が今まで見たことがないような、どこまでも落ちていきそうな空洞のような目になった。気が付いたら、死んでいた。
彼は私だったモノを部屋に残し、初めてデートしたこの場所にやってきた。体の無くなった私も付いていった。初めて知ったことだが、彼は視える人だった。
「ほんとに、ごめん。一生かけて償うよ」
私は彼のもとに影の無い足を運んだ。彼は立ち上がると私をじっと見つめる。
私は知っている。今日初めて知ったこともあったが、大抵のことは知っている。彼は泳げない。
突き出した手は、彼をすり抜けること無く、確かな感触を跳ね返した。彼は不思議そうな顔のまま、海に落ちていった。
テトラポッドが鈍い音を立て、波が彼を運んでいく。私は悪霊になったらしい。本当に私たちは、似た者同士だ。
ウミネコが鳴く。
テトラポッドに波が打ち付ける。
ミャーミャー ザザーン
ミャーミャー ザザーン
あとにはウミネコの鳴き声と、潮騒の音だけが響いていた。
終
小牧幸助さまの企画 シロクマ文芸部「海の猫」に参加させていただきました。 いつも発想の手助けになるお題をありがとうございますm(_ _)m
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