【ショートショート】いとおかし
「ぼ、ぼく、和歌のことが──」
「ダメ。それ以上は言わせないわ」
彼女が返却処理中の本を突き出しぼくの口を塞いだ。一世一代の告白を、告白相手の当の本人に阻止された。【が】の口のまま固まったぼくに、彼女は不適に微笑んだ。
「何か大切なことを伝えたいなら、ちゃんと31文字で伝えなさい。それが今回のルール」
また始まった。ことあるごとに彼女はゲームを仕掛けてくる。図書委員を決める際も、クラスを巻き込んで壮絶なサバイバルゲームが繰り広げられた。街を歩けばスカウトに当たるというほどの美貌の持ち主の彼女。同じ図書委員に立候補したのはクラスの男子全員だった。
何の因果か、クラス1目立たないぼくが忍のようにその役をものにしたわけだが、毎日のゲームを通じて二人の仲は急接近した、とぼくは思っている。
「31文字って、なんで?」
「私の名前にあやかったゲームをしましょう。五七五、七七に想いを乗せて、愛を唄いなさい」
もう愛って言ってるじゃん。顔を真っ赤にしながらもぼくは頭をフル回転させた。そして、31文字が降りてきた。
「好っきゃねん
きみが死ぬほど
好っきゃねん
帰りにぼくと
手をつながない?」
恐る恐る顔を上げると、彼女は本に顔を隠しながら肩を震わせていた。
「好っきゃねんて……なんで急に関西弁……ああ、やっぱりきみは、いとおかし。さ、帰ろっか」
そう言うと彼女は出口に歩き出した。
「あ、返事は──」
振り返った彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ぼくに手を伸ばした。
終
【いとおかし】: とても趣がある。風情があり心惹かれる。興味深くて面白い。
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