なぜネパール人の日本語は伸びないのか? 25,292人の学習者データが示す「本当の問題」とは…
(25,292人はJFTが集計しているデータだけであって、実際はもっとたくさんのネパール人が日本語を学習しています。)

日本語学習者が、わずか3年で2.6倍。
ところが、N4より上に進む人は驚くほど少ない。
この矛盾の答えを、私はずっと探していました。
日本で外国人材の採用や教育に関わっている方から、時々こんな話を聞きます。
「ネパール人は、日本語がなかなか伸びない」
採用担当者からは、さらに具体的な声も聞きます。
「面接ではN4と言っていたけれど、実際には会話がほとんどできない」
「日本に何年もいるのに、仕事の指示を十分に理解できない」
「インドネシア人やミャンマー人と比較すると、日本語が弱いように感じる」
特に人材採用の現場では、
「ミャンマー人はN3を取ってから面接に来るのに、ネパール人はN4ギリギリで来る」
と言われることもあります。
では、本当にネパール人は日本語が苦手なのでしょうか。
私は、そうは思っていません。
私は現在、ネパールで日本語学校と日本向け人材の送り出し事業を運営しています。
毎日、日本語を勉強する学生を見ています。
先生を採用し、教育し、時には辞めていく先生とも向き合っています。
そして日本企業の方々から、採用後の評価も聞いています。
だからこそ以前から、一つ大きな疑問がありました。
ネパール語と日本語は、語順が比較的似ている。

ネパールの学生たちも、決して学習能力が低いわけではありません。
それなのに、なぜ多くの学生がN4付近で止まり、N3、N2へ伸びていかないのでしょうか。
今回は、自分の感覚だけで書くのをやめました。
国際交流基金、JLPT、JFT-Basic、日本政府、在ネパール日本大使館、学術研究、JALTAN、JALSANなどの資料を調べました。
そこに、私自身がネパールの教育現場で経験してきたことを重ねました。
すると、一つの大きな構造が見えてきました。
私が現時点でたどり着いた結論は、こうです。
「ネパール人の日本語が伸びない」のではない。
これこそが、現在のネパールの日本語教育が抱える大きな課題ではないかと私は考えています。
私自身は、日本語習得にそれほど苦労しなかった
少し私自身の話をします。
私は約20年前、留学生として日本へ行きました。
そして渡日から3年ほどでJLPT N1に合格しました。
もちろん、学生時代ですからアルバイトもかなりしていました。
家に帰ってから毎日何時間も机に向かって勉強していたわけではありません。
むしろ試験の前日は、
「試験会場で眠くなったら恥ずかしい」
と思ってアルバイトを休み、10時間くらい寝てから試験へ行っていました。
今振り返ってみても、日本語を習得すること自体を「ものすごく難しかった」と感じた記憶はありません。
もちろん、これはあくまで私個人の経験です。
しかし、この経験があるからこそ私は、
「ネパール人だから日本語ができない」という説明には納得できない
のです。
では、なぜ今、多くの学生がN4付近で止まるのでしょうか。
まず、この数字を見てください
国際交流基金が公表した「2024年度海外日本語教育機関調査」によると、ネパールの日本語教育は、この数年間で急激に拡大しています。
ネパールの日本語教育
項目2021年2024年増加日本語教育機関241318約32%増日本語教師812人1,146人約41%増日本語学習者9,646人25,292人約162%増
学習者はわずか3年で約2.6倍になっています。
これは素晴らしいことです。
これだけ多くのネパール人が日本に関心を持ち、日本語を学んでいる。
日本にとっても、大きな可能性だと思います。
ところが、別の角度から数字を見ると違う景色が見えてきます。
学習者は約162%増えた。
しかし、教師は約41%しか増えていない。
単純計算すると、教師1人当たりの学習者数は、
2021年:約11.9人 ↓
2024年:約22.1人
ほぼ倍になっています。
もちろん、これは「1クラス22人」という意味ではありません。
しかし、少なくとも、
日本語を学びたい人が増えるスピードに、日本語を教える側の人材育成が十分追いついていない可能性がある。
これはデータから見えてくる重要なポイントだと思います。
そして、データだけでは見えない「教師不足」の現場

ここからは、私自身が運営する日本語学校で実際に経験している話です。
はやぶさ日本語学校を始めて、今年で4年目になります。
現在、グループ全体で6校、日本語を学ぶ学生は約900人以上。
クラス数は36クラスほどあります。
当然、日本語教師も常に必要です。
Facebookなどで教師を募集すると、いろいろな方から問い合わせが来ます。
そこで感じるのが、
「日本語が少しできること」と、「教師として学生を育てられること」はまったく別だ
という現実です。
応募者の中には、
「私は今N3を勉強しています。N4までなら教えられます」
という方もいます。
もちろん、N3を勉強している人すべてが教師に向かないと言いたいわけではありません。
しかし、
自分自身もまだ中級レベルを学習中なのに、初級者を教える側になる。
それだけ、日本語教師が不足している現場があるということです。
また、給与、勤務地、勤務時間、残業の有無など、雇用条件だけを最初に確認し、教育方針や「どんな学生を育てたいか」にはほとんど関心を示さない応募者もいます。
条件確認そのものは当然必要です。
問題は、
「教師という仕事」への関心より、「とりあえずできる仕事」として応募しているように見えるケースがあること
です。
そして、実際に採用してから、さらに考えさせられる出来事もありました。
学生からお金を借りていた日本語教師
1年半ほど前、ある日本語教師を採用しました。
勤務を始めて1か月半ほど経った頃、驚くことが分かりました。
その先生が、複数の学生やスタッフからお金を借りていたのです。
理由は、
「お金がない」
「友人から借りたお金を返さなければいけない」
など、さまざまでした。
さらに確認すると、なぜかお金を借りる日が毎週木曜日付近に集中していました。
理由を知って、さらに驚きました。
翌日の金曜日の夜に飲みに行くためのお金だったのです。
つまり、
学生から借りたお金を飲み代に使っていた。
当然、その先生には辞めてもらいました。
学生から借りていた分については、学校側で確認し、給与精算の中で対応しました。
もちろん、これはネパールの日本語教師全体を表す話ではありません。
優秀で責任感のある先生もたくさんいます。
しかし、
「先生であれば、学生の模範であるべきだ」
という基本的な職業倫理についてすら、十分共有されていないケースがある。
これは日本語力以前の問題です。
日本語を教える先生は、言葉だけではなく、
マナー。
責任感。
時間。
約束。
仕事への姿勢。
日本社会で必要となる考え方。
こうしたものも学生へ伝える存在です。
だからこそ、先生自身を育てることが必要なのです。
「明日から来ません」と言われた日
もう一つ、忘れられない経験があります。
3クラスほどを担当していた先生から、ある日の夕方、突然メッセージが届きました。
「明日から学校へ行きません。」
理由を確認すると、その先生自身が他社を通して日本へ行く申請をしており、
「その学校で日本語を教えれば、日本へ行くためのサービス料金を割り引いてもらえる」
という条件を提示されたとのことでした。
そのため、翌日からそちらへ移るというのです。
競合他社から見れば、教師を獲得できた。
本人から見れば、渡航費用が安くなった。
しかし、私はこう考えました。
一番かわいそうなのは、その先生を信じて毎日勉強していた学生ではないか。
学生にとって、先生は簡単に取り替えられる存在ではありません。
毎日顔を合わせ、質問し、相談し、信頼関係を作っています。
それを「明日から来ません」で終わらせてしまう。
もちろん、この人個人の問題もあります。
しかし私自身も、
「こういう人を教師として採用してしまった、自分の採用力にも問題があった」
と強く反省しました。
なぜ、こういうことが起きるのか
現場で人を採用していると、一つのパターンが見えてきます。
日本で何らかの事情により途中帰国した。
日本語はある程度話せる。
しかし、ネパール国内ではその日本語を活かせる仕事が多くない。
そこで、
「日本語ができるから、日本語教師をやろう」
となる。
ところが、
日本語が話せること。
日本文化を理解していること。
仕事のルールを理解していること。
人に教えること。
学生を育てること。
これらは全部、別の能力です。
にもかかわらず、教師不足だから採用しなければならない。
十分な教師研修制度も少ない。
本人も将来は日本へ行きたい。
すると、
経験の浅い教師
↓
教育成果が出ない
↓
給与が上がらない
↓
教師の仕事に将来性を感じない
↓
再び日本へ行く
↓
また教師が不足する
という負のスパイラルが生まれます。
私は、ここがネパールの日本語教育における非常に大きな問題だと感じています。
スタッフ採用でも、同じ問題を感じる
教師だけの話ではありません。
はやぶさ日本語学校では、学生にも教室、廊下、トイレなどの掃除をしてもらいます。
なぜか。
日本へ行けば、学校でも職場でも掃除をする機会があります。
ところがネパールでは、
「家で掃除をしたことがありません」
という学生も珍しくありません。
だから、日本へ行く前から掃除も教育の一部として行っています。
そして当然、スタッフにも学生と一緒に掃除してもらいます。
ところが、スタッフ面接でこの話をすると、
「私は事務職をしたいので、掃除はしたくありません」
と言われることがあります。
かなり仕事ができそうな人でも、これを理由に辞退するケースがあります。
「パソコンを触るのが事務の仕事」
「掃除は自分の仕事ではない」
という考えです。
もちろん、文化や仕事観の違いがあります。
しかし、日本企業が外国人材に求めているのは、
担当業務だけをする人ではなく、職場全体を見て動ける人
であることも多い。
ここにも、ネパールと日本の仕事観のギャップがあります。
さらに驚く数字 98%が「学校教育外」
2024年の日本語学習者25,292人を、教育段階別に見るとこうなります。
教育段階学習者数初等教育0人中等教育107人高等教育339人学校教育外24,846人
学校教育外が、約98.2%です。
これは、日本の人材関係者や日本語教育関係者にぜひ知ってほしい数字です。

日本語が高校や大学で広く体系的に教育され、その後、留学や就職につながっているわけではありません。
むしろ逆です。
「日本へ留学したい」
「特定技能で日本へ行きたい」
「育成就労で日本へ行きたい」
という需要が先にある。
その需要に合わせて、民間の日本語学校やコンサルタンシー市場が拡大している。
国際交流基金も、ネパールで日本語教育機関・教師・学習者が増えた背景として、日本への留学や就労を目指す学習者の増加を挙げています。
私は、ここに非常に大きなポイントがあると思っています。
「日本語を勉強したい」のか、「日本へ行きたい」のか

この二つは似ています。
しかし、本質的には違います。
学生に、
「日本へ行きたいですか?」
と聞けば、
「はい!」
とすぐ答えます。
では、
「N3を取りたいですか?」
「日本へ行った3年後、N2を取りますか?」
「日本語を一生使えるスキルにしたいですか?」
と聞く。
すると、少し温度が変わる学生もいます。
実際、はやぶさネパールグループでは、約900人が36クラスほどに分かれて日本語を勉強しています。
その大部分がN5・N4レベルです。
N3を学習するクラスは、全体の中ではごく一部です。
なぜでしょうか。
非常に単純です。
多くの学生が、
「N4まであれば、日本へ行く手続きが進められる」
と考えているからです。
つまり、
N4=日本へ行くために必要な日本語。
N3=日本で働き、生活し、キャリアを伸ばすために必要な日本語。
この二つを比較したとき、
学生にとって短期的な優先順位はN4になりやすいのです。
ビザにはお金を払う。でも、日本語にはお金を払いたくない
これも現場で強く感じることです。
COE。
ビザ。
航空券。
コンサルタンシー費用。
日本へ行けるとなれば、大きなお金を用意する家庭は少なくありません。
ところが、
日本語教育については、
「もっと安くならないですか?」
「何か月で終わりますか?」
「N4だけ取れればいいです」
となる。
私は学生によく言います。
ビザは一回です。
航空券も一回です。
でも、
日本語は一生使えます。
それなのに、「渡航」に何十万、何百万ルピー使えても、「日本語」という一生使える能力には十分投資しない。
これは学生だけの責任でしょうか。
私はそう思いません。
私たち留学業界、人材業界、学校側が、
「日本語を学ぶ価値」よりも「日本へ行けること」を強く売ってきた
側面もあるはずです。
学術研究でも同じ構造が指摘されている
これは私の感覚だけではありません。
Dipesh Kharel氏が2022年に発表した研究では、ネパールの教育コンサルタンシー、日本の日本語学校、学生、そして両国の制度がどのように結びつき、ネパールから日本への学生移動を生み出してきたかが分析されています。
さらに2025年には、千葉大学のSanjaya Karki氏が、日本語学校に通うネパール人学生について調査しています。
その研究によれば、2023/24年度にネパール政府が発行した海外留学用NOC 112,593件のうち、日本向けは34,731件。
そして、その多くが日本語学校への留学でした。
つまり、
日本語学校は「日本語を学ぶ場所」であると同時に、「日本へ移動する入口」として機能している。
という側面があります。
Karki氏の研究は少人数への聞き取りなので、ネパール人学生全体へ一般化することはできません。
しかし、非常に考えさせられる事例があります。
ネパールで十分な日本語授業を受けていなかったにもかかわらず、留学手続きが進み、日本へ行った後に日本語力不足で学校生活やアルバイトに苦労した学生の事例です。
これはネパール側のコンサルタンシーだけの問題ではありません。
私は、日本側にも責任があると思っています。
「日本語学校」をビジネスとしてしか見ない日本側にも問題がある
日本側にも、
「学生を何人集めるか」
「定員をどう埋めるか」
を優先しすぎる学校がないでしょうか。
現地で学生がどの程度日本語を勉強しているのか。
本当に授業を受けているのか。
日本語を学ぶ意欲があるのか。
その確認を十分せず、
書類がそろえば受け入れる。
もしそういう仕組みがあるなら、
ネパール側で厳しく教育する学校ほど、不利になることがあります。
実際、当校でも、
「他のコンサルタンシーなら、こんなに日本語を勉強しなくても日本へ行ける」
「どうしてはやぶさではN4が必要なんですか」
と言われ、他社へ移る学生がいます。
経営だけを考えれば、
「それなら基準を下げよう」
となるかもしれません。
しかし、それをやったら教育ではなくなります。
だから私は、
「なぜ真面目に日本語を教える学校ほど学生募集で不利になる場合があるのか」
という市場構造そのものを変えなければいけないと思っています。
そもそも、ネパール人は日本語学習で不利なのか
日本の皆さんに、もう一つ知ってほしいことがあります。
ネパール語と日本語は、同じ言語ではありません。
文字も違います。
ひらがな。
カタカナ。
そして漢字。
特に漢字は、漢字圏ではないネパール人にとって大きなハードルです。
しかし、文法には興味深い共通点があります。
在ネパール日本大使館が掲載した菊田大使のインタビューでも、ネパール語について、語順や文法に日本語との共通点が多いことが紹介されています。
例えば、
日本語
私は 日本へ 行きます。
ネパール語
म जापान जान्छु।
Ma Japan jānchu.
英語
I go to Japan.
日本語とネパール語は、基本的に「最後に動詞が来る」という感覚を共有しています。
もう少し長い文章でも似ています。
日本語
私は、あそこの赤いバスの前に立っている男に会いに行きます。
ネパール語
म त्यो रातो बसको अगाडि उभिएको केटोलाई भेट्न जान्छु।
英語
I am going to meet the man standing in front of that red bus.
このように、日本語とネパール語は語順感覚がかなり近い。

ですから私は、
「ネパール人は日本語が苦手な民族だ」
という説明には賛成できません。
むしろ問題は、
初級から中級へ進む教育環境
にあるのではないかと思っています。
JLPTの数字に見える「N4の壁」
2025年12月、カトマンズ会場のJLPT応募者数を見てみます。
レベル応募者数N137人N280人N3478人N42,696人N5800人合計4,091人
N4だけで全応募者のおよそ3分の2です。
もちろん、この数字だけで、
「ネパール人はN4で勉強をやめる」
と断定することはできません。
JFT-BasicやNAT-TESTなどを受験する人もいます。
しかし、
N4:2,696人
N3:478人
N2:80人

この差は、やはり無視できません。
日本へ行くための「入口の日本語」には多くの人が集まる。
その先へ進む人が急激に減る。
ここに、ネパール日本語教育の一つの課題が表れているのではないでしょうか。
N4の日本語と、「日本で働く日本語」は違う
これは、日本企業の採用担当者にもぜひ知ってほしいことです。
「N4を持っている」
ことと、
「職場でコミュニケーションできる」
ことは同じではありません。
例えば、
「分かりました」
と言える。
しかし、本当に指示を理解しているとは限りません。
職場で必要なのは、
「ここまでは分かりましたが、ここからが分かりません」
「もう一度お願いします」
「○○という意味ですか?」
「私が間違えました」
「今、こういう問題が起きています」
「どうしたらいいですか?」
と言える能力です。
私はこれを、
「仕事をするための日本語」
と呼んでいます。
国際交流基金のJFT-Basicも、日本で生活する外国人が、実際の生活場面でコミュニケーションできる日本語能力を測る試験として設計されています。
今後の育成就労制度でも、初期段階の日本語要件が制度に組み込まれていきます。
ここで私は一つ心配しています。
最低基準が示されると、
市場が、
「最低基準さえクリアすればいい」
という方向へ動かないでしょうか。
制度上の最低ラインは必要です。
しかし、
最低基準を、教育目標にしてはいけない。
日本で3年、5年、10年と働く人を育てるのであれば、
その先の日本語まで考える必要があります。

日本政府も支援している。しかし、現場まで届いているか
今回調べて、私自身も改めて分かったことがあります。
「日本政府は何もしていない」
という言い方は正しくありません。
国際交流基金では、ネパールを含む国を対象に、日本で生活・就労する人材向け日本語教育への助成や、教材支援、教師研修などを行っています。
『いろどり』など、日本で生活する外国人向けの優れた教材もあります。
また2026年3月には、日本政府がトリブバン大学Campus of International Languagesの日本語教室改善のため、64,885米ドル規模の無償支援を行う契約を締結しています。

電子スマートボードや教室改修など、日本語教育環境のデジタル化を支援する取り組みです。
これは、とても良いことだと思います。
一方で、ネパールの日本語学習者は25,000人を超え、その大部分が民間教育機関にいます。
そして、ネパールには国際交流基金の常設海外事務所はなく、南アジアの主要拠点はニューデリーです。
だから私は、
「支援していない」
と批判するのではなく、こう問いかけたい。
3年間で2.6倍に増えた日本語学習市場に対して、現在の教師支援・教育支援の規模で十分でしょうか。
設備も大切です。
教材も大切です。
しかし、最後はやはり、
先生です。
「ネパールの先生の質が悪い」で終わらせてはいけない
では、日本語教師の質が問題なのでしょうか。
ここも、簡単に結論を出すべきではありません。
今回調べても、
日本語教師の平均給与
N1取得教師数
N2取得教師数
N3以下で教えている教師数
年間の教師研修時間
平均勤続年数
などについて、全国規模の信頼できる公開統計を私は確認できませんでした。
ですから、
「N3教師ばかりだからダメだ」
「給料が安いから先生の質が低い」
と、データなしに断定することはできません。
しかし逆に言えば、
教師が1,146人いるにもかかわらず、その先生たちの能力・待遇・研修状況を体系的に把握できるデータが見えない。
ここに大きな課題があります。
ネパールが本気で日本語人材を育てるのであれば、
まず、
「日本語教師の実態調査」
をする必要があると思います。
私が現場で感じている「教師不足の悪循環」

ここからは、統計ではなく、私が現場で感じている仮説です。
学生は、「日本語はなるべく安く学びたい」と考える。↓
学校同士が価格競争をする。↓
授業料を上げられない。↓
教師の給与も上げにくい。↓
教師研修にも投資しにくい。↓
優秀な教師ほど、もっと給与の高い仕事や日本行きを選ぶ。↓
経験の浅い教師が増える。↓
十分な教育成果が出ない。↓
教師の給与も上がらない。↓
さらに日本へ行ってしまう。
この循環がもし広く存在しているなら、
ネパールの日本語教育にとって非常に大きな問題です。
これについては今後、
教師給与。JLPT取得級。教師経験。研修時間。離職率。
を独自に調査してみたいと思っています。
JALTAN、JALSANには、これからさらに重要な役割がある

ネパールには、日本語教育に関わる団体もあります。
JALTAN(Japanese Language Teachers' Association Nepal)は1998年設立で、日本語教師の研修、教授法の向上、弁論大会、JLPT運営などに関わってきました。
JALSAN(Japanese Language School Association of Nepal)も、日本語学校や教育コンサルタンシーなどが協力し、日本語教育や文化交流、留学情報の提供などに取り組んでいます。
ですから、
「何もしていない」
と評価するのは公平ではありません。
一方で、今後さらに重要になるのは、
活動を「人数」と「教育成果」で見える化すること
だと思います。
例えば、
会員教師数
地方の参加教師数
年間研修参加者数
年間研修時間
教師資格
N3到達率
日本入国後の進路
退学率
就職率
こうしたデータが公表されるようになれば、
ネパール日本語教育全体の品質向上にもつながるのではないでしょうか。
学生にも責任はある
ここまで、制度や学校、教師の話をしました。
しかし学生自身にも、ぜひ伝えたいことがあります。
日本へ行くための日本語ではなく、日本で成功するための日本語を勉強してほしい。
ビザは一回です。
COEも一回です。
航空券も一回です。
でも、
日本語は一生使えます。
N3、N2、そしてN1まで進めば、
仕事の選択肢が増える。
会社の人と深く話せる。
問題を説明できる。
転職にも有利になる。
専門学校や大学の授業も理解しやすくなる。
管理職にも近づける。
日本人の友人も増える。
日本社会そのものを理解できる。
これは、長い人生で使える資産です。
だから、
ビザに払うお金以上に、日本語に投資してほしい。
私は学生に、これをもっと強く伝えていきたいと思います。

日本企業にも責任がある
そして、日本企業の皆さんにもお願いがあります。
採用時に、
「N4を持っていますか?」
だけで人材を判断しないでください。
それよりも、
指示を理解できるか
分からない時に質問できるか
復唱できるか
ミスを報告できるか
自分の体調を説明できるか
上司へ相談できるか
お客様に挨拶できるか
を見てください。
そして採用後も、
外国人本人だけに、
「もっと日本語を勉強してください」
と言うのではなく、
会社として学習を支援する。
その考え方も必要です。
日本語教育は、
送り出し国だけの責任ではありません。
日本語学校だけの責任でもありません。
学生だけの責任でもありません。
受け入れる企業も含めた共同作業です。
私が考える「ネパール日本語教育改革」7つの提案
今回、データと現場を重ねて考えた結果、私は次の7つが必要だと思っています。
① N4をゴールにしない
面接前にN4。
その後、入国までにN3。
さらにN2へ。
最初から数年単位の日本語学習ロードマップを設計する。
② 「試験日本語」と「仕事日本語」を両方教える
JLPT対策だけではなく、
聞く。
確認する。
報告する。
相談する。
謝る。
質問する。
断る。
こうしたCan-do型日本語を教育の中心に入れる。
③ 日本語教師の全国調査を行う
少なくとも、
JLPT取得級。
教師経験。
給与。
常勤・非常勤。
年間研修時間。
離職率。
を把握する。
先生の実態を知らずに、日本語教育改革はできません。
④ 「日本語ができる人」ではなく、「教えられる人」を教師にする
日本語力と教授力は別です。
教師には、
授業設計。
発音指導。
会話指導。
学習者評価。
学習心理。
文化教育。
まで含めた研修が必要です。
⑤ 学校を「何人日本へ送ったか」で評価しない
重要なのは、
6か月後。
1年後。
3年後。
です。
N3取得率。
N2取得率。
離職率。
進学率。
就職率。
まで追跡する。
私は、これが本当の教育成果だと思います。
⑥ 日本側の日本語教育支援を、教師育成中心にさらに強化する
25,000人以上が日本語を学ぶ市場です。
今後、日本へ向かう人材がさらに増えるのであれば、
教師育成への投資は、
単なる国際交流ではありません。
日本の外国人材政策への投資
でもあるはずです。
⑦ 「日本へ行く人」ではなく、「日本で成功する人」を育てる
これが一番重要です。

私は学生に、
「日本で成功する人は、ネパールにいる間から日本語を本気で勉強している」
と伝えています。
全員が渡日前にN3を取れるわけではありません。
しかし、考え方は変えられます。
日本へ行くことをゴールにしない。
日本で仕事を覚える。
日本語を伸ばす。
資格を取る。
キャリアを上げる。
そして、日本とネパールの両方で活躍できる人になる。
私は、そこまでを教育だと考えています。
最後に──問題は「ネパール人」ではなく「仕組み」にある
今回このテーマを調べて、私自身の考え方も少し変わりました。
以前は、
「なぜネパールの学生は、もっと日本語を勉強しないんだろう」
と考えることが多くありました。
しかし、調べれば調べるほど、
学生だけの問題ではないと思うようになりました。
わずか3年で、
日本語学習者は9,646人から25,292人へ増えました。
留学市場が大きくなった。
外国人材市場も大きくなった。
日本の人手不足も深刻になった。
特定技能も拡大している。
育成就労も始まります。
ところが、
人を日本へ動かす仕組みの成長ほどには、人を育てる仕組みが成長していない。
私は、ここが今の最大の問題だと思っています。
だから、
「ネパール人は日本語ができない」
で終わらせたくありません。
私はむしろ、
ネパールは、日本語人材をもっと育てられる国だ
と思っています。
日本語と比較的近い語順。
日本への強い関心。
急増している学習人口。
日本側の人材需要。
条件はそろっています。
あとは、
「日本へ行かせる教育」から、「日本で成功させる教育」へ。
日本政府。
ネパール政府。
日本語学校。
日本語教師。
留学コンサルタンシー。
送り出し機関。
日本企業。
そして学生本人。
全員が少しずつ考え方を変える。
そうすればネパールは、
「日本語が弱い人材供給国」ではなく、
日本語と技能を持った人材を育てる国
になれると、私は本気で思っています。
私自身も、日本語学校と送り出しの現場にいる一人として、
まず自分たちの教育から変えていきます。
JAPAN QUALITY, NEPAL PRIDE.
ネパールの志に翼を、日本社会に真の豊かさを。
はやぶさネパールグループ
代表 ダレル・ウメシュ(ウメちゃん先生)
参考にした主な資料
国際交流基金「2024年度海外日本語教育機関調査」
国際交流基金「JFT-Basic」
JLPT公式統計「2025年12月試験・カトマンズ会場」
国際交流基金「2026年度 日本で生活・就労する人のための日本語教育機関支援」
在ネパール日本大使館「トリブバン大学日本語教室改善事業」
在ネパール日本大使館「JALTAN紹介」
JALSAN公式情報
Dipesh Kharel(2022), “Student Migration from Nepal to Japan: Factors Behind the Steep Rise,” Asian and Pacific Migration Journal
Sanjaya Karki(2025), “Nepali Students in Japanese Language Schools: Investigating Motivations and Experiences of Educational Mobility,” Journal of International and Comparative Education
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