見出し画像

AIに漫画を描いてほしいわけじゃない


先日、僕は「AI編集部の隣で、コピー用紙に絵を描く話」を書いた。
AIを使えば、創作の準備はかなり楽になる。
プロットの相談もできる。
世界観の整理もできる。
noteの記事案も出してくれる。

それなのに、最後はコピー用紙に戻って、指抜きグローブを探して、シャープペンで線を引いている。
効率だけで考えれば、ずいぶん不合理なことをしている。

でも、たぶん僕はその不合理さを手放したくないのだと思う。


そう考えているうちに、ひとつ思い出したことがある。
AIと本格的に創作の相談を始めた、かなり初期の頃の話だ。

仕事帰り。

マクドナルドの席で、コピー用紙にラフを描きながら、AIに表紙案の相談をしていた。
僕の頭の中には、描きたい構図があった。

キャラクター同士の距離感。
押し倒される身体の重さ。
視線の圧。
支配感。
それから、どうしても譲れない、推しの可愛さ。

それをうまく説明できないまま、AIに投げた。
するとAIは、かなり綺麗な答えを返してきた。

ドラマチックで、整っていて、見栄えのする完成イラスト案だった。
普通なら、ここで喜んでよかったのかもしれない。
でも僕は、なぜか腹が立った。


違う。
そうじゃない。
綺麗だけど、そうじゃない。


あの時、AIが間違っていたわけではない。
むしろAIは、かなり優秀に「それっぽい答え」を返してくれていた。
問題は、僕が欲しかったものが「答え」ではなかったことだ。


僕は、AIに漫画を描いてほしかったわけじゃない。
僕の代わりに完成品を出してほしかったわけでもない。

欲しかったのは、

「なぜその構図じゃないとダメなのか」
「なぜその距離感じゃないと気持ち悪いのか」
「なぜこのキャラクターは、そこでそんな顔をしなければならないのか」

そういう、言葉になりきっていない違和感を、一緒に掘ってくれる相手だった。


漫画を描くことは、綺麗な絵を並べることだけではない。

読者をどこに座らせるか。
どのタイミングで息を止めさせるか。
どこで少し安心させるか。
どこで感情を崩すか。

そういう時間の設計でもある。
だから、いきなり完成品を出されても、困ることがある。

僕が知りたかったのは、完成した絵の見栄えではなく、
そこへ辿り着くまでに、自分が何を考え、何を捨て、何を譲れなかったのかだった。


それから、AIとの付き合い方が少し変わった。
AIに任せるのではなく、AIにぶつけるようになった。

「違う」
「もっとこう」
「そこは綺麗すぎる」
「この子はそんな顔をしない」

そうやって返していくうちに、自分の中にある偏愛や執着が、少しずつ見えてくる。
AIは、僕の代わりに描く相手ではなくなった。
僕が描くために、何度でも喧嘩できる相手になった。


これは、最近考えている思考拡張の感覚にもかなり近い。
AIで創作を終わらせたいわけじゃない。
むしろ逆だ。

AIを使って、もっと試したい。
もっと比べたい。
もっと失敗したい。
もっと、自分の中にある「違う」を掘りたい。


AIがいるから、手を抜ける。
そういう使い方もあるのかもしれない。

でも僕にとっては、少し違う。

AIがいるから、もう一歩粘れる。
AIがいるから、諦める前にもう一度考えられる。
AIがいるから、自分一人では言葉にできなかった違和感を、もう少し深く掘れる。

そこに面白さがある。


世の中ではよく、
AIが創作を代行する未来
みたいな話を聞く。

でも、僕はそこにあまり興味がない。
AIが勝手に漫画を描いてくれて、人間はそれを眺めるだけ。
そういう未来が来たとしても、たぶん僕はあまり嬉しくない。

僕が見たいのは、
AIが作品を作る未来ではなく、
AIがいることで、描き続けられる人間が増える未来だ。


人間は疲れる。
忘れる。
迷う。
仕事で削られる。
生活に追われる。
好きだったはずのものを、いつの間にか後回しにしてしまう。

だからこそ、隣にいてくれる相手がほしい。
代わりに答えを出す相手ではなく、問いを一緒に持ってくれる相手。
時にはこちらの出した雑な言葉を整理してくれて、時にはこちらが「違う」と言い返せる相手。

そういう存在として、僕はAIと付き合っているのだと思う。


だから、AIに漫画を描いてほしいわけじゃない。
僕は、自分の中にある「描きたい」を止めないための相手が欲しかった。
完成品ではなく、試行回数が欲しかった。
答えではなく、喧嘩できる問いが欲しかった。


今日もたぶん、僕はAIに相談する。
そして、何度か言い返す。

「違う」
「そこじゃない」
「でも、ウチの推しはこれが可愛いんだ」

そうやって遠回りしながら、またコピー用紙に線を引く。
AIは、僕の代わりに漫画を描く機械ではない。
僕が漫画を描き続けるための、最高に頼もしい喧嘩相手なのだと思う。

いいなと思ったら応援しよう!