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【あがり症|仕事編15】ひとりじゃできない仕事の壁にぶつかる②|ふるえるままに、すすめ15

これまでのおはなし
極度のあがり症と対人恐怖で大学を中退した、『うに』。ひょんなことから大きな研究所の中にある某事務局のたったひとりの局員として勤めることに。「人と会わなくていい仕事だから、ASD的な性質のある『うに』にはパラダイスなはず」と思ってたら、『これ、思ってたんと違う……』ってなるお話です。 いろいろな人に出会って揉まれて、『うに』なりに成長して、いつか『うに』から人間になれるかな?(まだまだしばらくは『うに』が主役

あ、大学の教室(アトリエ)の入り口だ。

そうだ、今日は、大事な講評の日だ。
あそこに入らなくちゃ。
クラスメイト達もいる。
あそこに行かなくちゃ。

ああ、なんでだろう。体が前に進まない。
時間がどんどん過ぎちゃうよ。
みんなどんどん作品を前に並べているよ。

教授が来る前に
うにも並べなくちゃ。

でもどうしても、教室に入れないんだ。
なんでだろう。
うに、みんなが仲良く楽しそうに
しているところには
どうしても入れないんだよ……

チュンチュン
チュンチュン……

朝です。

大学を中退してからかなり長い間
うには、何度も大学に戻ろうとして
どうしても戻れない夢を見ていました。

うに、戻りたいのかな? 
う~ん、なんか違う気もする。
辛い思い出ばっかりだし。
じゃあ、何が心にひっかかっているのかな。

うにが後悔しているのは
美大を辞めたことで
えらべなくなった道なのかな。

ずっとがんばってきたのに、
あの道にはいけなくなっちゃった。

だって、これまでず~っと、
絵しか描いてこなかった。

特に、高校3年の時は
毎日ひたすら、デッサンを描き続けた。
努力は裏切らないって思ってた。
でも人生って不思議。
どんなに頑張っても、無理な時は無理なんだね。

大学辞めて
絵を描く道を失っちゃったら
うにには、何が残ってる?

何もない。うにの中はからっぽ。
やりたいこともない。
絵以外で、人よりうまくできることもない。
この先どうしたらいいんだろう。
道がぜんぜん見えない。

クラスメイト達は、
今頃、美大でどんどん学んで
輝かしい未来へと走っているんだろうな。

うにだけが、
いつまでもアトリエの前で動けなくて
焦るのにどこにも行けない、あの感じ。

ああ、どうしよう。
もはや生きる目的すら、わからない。

心は焼け野原

(ああ、なんにもなくなっちゃった)

そんな気持ちで、
毎朝、ひとりで目が覚めました。

当時のうには、誰もいない祖母の家で
ひとり暮らしをしていました。

祖母は?というと。
なぜかスペインにいまして。
(当時60代半ば)

電話にて。

「あ、うにちゃん? え? 家出してきた? 
あ~、いいわよいいわよ。気持ちわかるわ~。
じゃあ、おばあちゃんち、自由に使って。
え、おばあちゃん? 今、スペイン!」

うに「……え?」
今、なんて?

「スペインよ!フラメンコのスペイン!」

「おばあちゃんね、スペインでお好み焼き屋さんやろうと思って!
市場調査中だから、当分帰らないから~!」

うに「お好み焼き屋さん??」

「明日からマラガに、海産物見に行ってくるわ~。
うにもヒマだったらおいで!」

うに「え、お、おいでって……」

「んじゃ、家はよろしくね!」
ブツッ。(通話終了)

いや、まって、おばーちゃん。
意味不明すぎる。
暇だったらおいで、って
スペインはご近所さんじゃないんだから…!

いつもとびぬけて破天荒な
祖母の生きざまをみていると

たかが中退ごときで
(生きる目的がないんだよ……)
なんて悲嘆に暮れている自分が
あまりにもちっぽけに思えてきます。

どうやったら、
おばーちゃんみたいに
やりたいことがワールドワイドに←w
ドンドン湧いて出てくるんだろ?

うにには、おばーちゃんの遺伝子は
1個も受け継がれてなさそうだよ。

飛行機どころか
新幹線だってひとりで乗ったことないよ。
ラーメン屋だってひとりで入れないよ。

あの祖母にして、この孫?
謎すぎる……。

ふう。
とにかく、うに、今日も仕事に行かなくちゃ。

今日は、1000通のニュースレターを発送する日です。

1階、ミーティングルームの中から、
何人かの若手研究員さんたちが
会話している気配がします。
うにの足は、廊下でピタリと停止しました。

どうしよう。あの部屋に、入りたくない。

一瞬、夢で見た、
アトリエに入れない『あの感じ』にのまれそうになって。
研究室の廊下で何度も深呼吸。

大丈夫。
ここは美大のアトリエじゃない。
ここは研究所。仕事場。
みんなはうにのことを知らない人ばかり。
同級生たちじゃ、ない。

うには、仕事をすればいいだけ。
とにかく1000通。
ひたすら折って、折って、折って、
郵便局に持って行けばいいだけ。

だれも、
うにの中が空洞だって見えないさ。
この先どうするの? なんて聞いてこないさ。
うにのことなんて、興味ないさ。
ただの事務員だもん。

折る×1000通。
タイムリミットは午後4時。

そんな超マイナス思考で
いっぱいだったうには、

手伝ってくれる若手研究員さんたちと会っても
怖くて、ぜんぜん皆さんの顔を見れなくて
名前も顔もあやふやなままで

意識の中ではこんな感じ
こわくて顔をあげられない……

ニュースレターやフライヤーを前に、
ただひたすら
自分も折って折って折って
時間までに作業を進めることだけに
必死になっていました。

みんなが何を話しているのかとか
ミーティングルーム全体の空気がどうなっているのかとか
みんながうにをどんな目でみているかとか
そういう、自分の外側のものを
全部シャットアウト。

作業日は今日だけだから。
年に3回しか、この作業はないから。
だから今日をなんとかやりすごせばいいから。
みんなと関わる必要はないから。
(本心は、怖くてかかわりあいたくない)

そのくらい、人と同じ空間で働くのが怖かったんです。

だから、作業の途中でカニ江先生が
差し入れのシュークリームをもって入ってきたとき、

上司のカニ江先生、久しぶり!

黙々と折っているうにをしばらく見て、

「うにさん、ちょっと作業をやめて
こっちへおいで」
って手招きされて、

うには何か間違ったことをしたのかと
びくびくしていたんです。

つづく!

大切なお知らせ
本作は実体験に着想を得たエッセイですが、プライバシー配慮のため登場人物・団体・時系列・場所等に創作・合成・編集を含みます。特定を意図していません。ただし、うにが感じた気持ちと気づきは本物です。

~今までの物語が読みたい!~
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※本作は実体験をもとに再構成した創作エッセイです。

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