【あがり症|仕事編9】ASDのルーティンは防御壁—でもイレギュラーだらけの世界がそれを粉砕する|ふるえるままに、すすめ9
これまでのおはなし
極度のあがり症と対人恐怖で大学を中退した、『うに』。ひょんなことから大きな研究所の中にある某事務局のたったひとりの局員として勤めることに。「人と会わなくていい仕事だから、ASD的な性質のある『うに』にはパラダイスなはず」と思ってたら、『これ、思ってたんと違う……』ってなるお話です。 いろいろな人に出会って揉まれて、『うに』なりに成長して、いつか『うに』から人間になれるかな?(まだまだしばらくは『うに』が主役)
毎朝、エビ沼先生が研究室にやってきます。
廊下を歩いてくる足音の感じで、
もうわかるようになってきました。

うに「おはようございます……」
(上司が近くにいない仕事だからな、
なまけ心が出やすいかもしれん。
うにが今日もちゃんと来てるか、
わしが見ておかねばな)
……って、あの顔は、
きっと思ってる気がするな。
でもエビ沼先生、大丈夫です。

一般的には時間管理が難しいといわれるASD。
ASDっぽいうにが、通勤ではどうして遅刻しないのか。
今日はその話をしようと思います。

こんにちは、うにです。
みなさま、時間を守るのは得意ですか?
うにですか?
え、そりゃもう、苦手です、
ASDですもん、えっへん。
って、決して威張れることじゃないですが~!( ´艸`)
でも、苦手なんですよね~時間管理!
単に時間にルーズっていうのとはちょっと違うんです。
時間にたいする感覚の問題なんです。
何かに集中しちゃうと時間を忘れちゃって
あとちょっとだけ、あとちょっとだけ、
と作業をいつまでも区切れない。
ふと気が付いたら
「うわっ、もうこんな時間?!」って大慌て。
この作業にだいたい何分くらいかかるかな、とか
A地点からB地点に行くまでのルートで
どのくらいかかりそうかなっていう
目に見えない時間の見積もりが
ものすごく難しいのです。
ASDの脳って、体内時計はあるのに、
外の時間と同期するのが苦手なんです。

この、見えない時間の見積もり感覚、
社会に出るとめっちゃ重要
たとえば
「『ここに〇時に集合ね』
っていわれた約束を守ること」
なんていう基礎中の基礎だって
見積もりを見誤ることがあります。
あるいは、上司やクライアント様に
仕事を頼まれたとき、
時間の見積もりができないって大変。
「この仕事は今日中にお願いって言ったじゃないか。
無理なら無理って最初から言ってくれないと」
「ううう、私もできると思ったんですけど……(泣)」
なんてことになりかねない。
本気で「できると思って」
引き受けているんですよね。
それができないんですよね。
わかります、しみじみわかります……!
うにの場合、もっとアホな例でいうと
本が危険です。
例えば仕事帰り、本屋に寄ったりして
うっかり気になる本を
見つけたりしちゃったら、
ずううううううっと読み続けてしまう。
足がしびれても腰が痛くなっても。
店内に『蛍の光』が流れてくるまで
やめられない。
で、閉店間際にレジに駆け込み本を買い、
駅のベンチで電車が来るまでと思って
本を取り出して読みだしたら
さあ大変。
読み終わるまで、ベンチから立てない。
乗るべき電車を何本も乗り過ごす。
中断できないのです。
だから帰宅が異様に遅くなって
「どこで何やってたの」って心配されてしまう。
でもいくら説明したって理解されないのです。
ベンチで本読んでた、なんて。
「なんで電車に乗ってから読まないの?!」
って言われちゃうでしょ?
だけど電車に乗って本を読むなんて
危険行為です。
たぶん、読み終わるまで降りれなくなる。
読み終わってはっと気が付いたら
見知らぬ遠い駅、なんてことになる。
だったら、ベンチで読んだほうが安全なのです。
そのくらい、時間の感覚が消え失せてしまうのです。

って思いますよねwww
こうして数々の失敗を重ねた末、
うには対処法を編み出しました。
それは、鉄壁の防御壁【ルーティンを築く】
通勤は、絶対に守らなければいけない時間です。
ですから、
毎朝、同じ電車、同じ車両、同じ扉、同じ位置。
地下鉄の乗り換えの階段も、
駅から研究所までの道も決まってます。
途中で寄るコンビニで買うマウントレーニアの
カフェオレの棚の場所も、いつも同じ。
というふうに
通勤の流れの中で、
ポイントになるあらゆるところで
行動をあらかじめ決めておきます。
そして、毎日同じ行動を繰り返します。
うにの脳は、
決まった手順があれば負荷が減り、
オートマチックに安定して動く
仕組みになっているんです。

しかもルーティンが決まっていれば、
なにかルーティンと違うことをしたときの
『気持ち悪さ』が、異変信号を脳に送ってくれる。
『今、やるべきことを見失ってるかもよ、気付け!』って。
ルーティンがあれば、
うにの世界はスムーズにまわる。
ルーティンはうににとっては防護壁。
だからね、エビ沼先生。
うには遅刻しない。
このルーティンが崩れない限り。


いつものマウントレーニアがない

うには、途端に代わりのコーヒー飲料を
選べなくてオロオロ。
どうしよう、どうしよう。
決められない。
時間がどんどん過ぎていきます。
悩みに悩んだ挙句、
「季節限定ヘーゼルナッツ味」
なんていう変なのを、
なぜか選んでしまって。
事務室で一口飲んで――
(うへっ!そういえば、
うに、ヘーゼルナッツ苦手だったじゃん……)
って思い出して悶絶。

いつものが選べないときに限って、
よりによって(なんでこれ?)
ってやつを選んでしまう。
はあ~~~うにってなんでこうなの?
イレギュラーなんか嫌いだ。
(どうか明日は、いつものマウントレーニアの
シンプルなカフェオレがありますように)
ここまで困っても
(だったら、2番目に飲みたいコーヒーを
なんとなく考えておけばよくね?)
みたいな柔軟な考えは
1ミリグラムも浮かばないのでした。
臨機応援っていう言葉は
うにの脳内にはありません。
かわりにあるのが、『ルーティン万歳』🙌

珊瑚さんから地図をもらって、後日。
紹介された研究所の敷地内のカフェに、
勇気を出して行ったとき――
たまたま最初に食べたメニューは
「クリームチーズとサーモンのベーグルと
アメリカンのセット」。

噛んだ瞬間、ベーグルに含まれる全粒粉が
ふわっと香ばしく鼻に広がる。
ぎゅっと密度のある
もっちりした生地のあいだから
厚みのあるスモークサーモンが
ぷりぷりっと弾み、
ほのかな塩気とスモークの香りが
ゆっくり広がり、
そこにクリームチーズの
まろやかな甘みがとける。
酢漬けのスライスオニオンが
軽やかにシャリっと鳴って、
ケッパーの酸味が小さく弾け、
あらびき黒コショウが
最後にピリッ

その瞬間、脳に深々と刻まれました。
(あ、これ、ルーティンになっちゃう)って。
一度気に入ると、それ以外が目に入らなくなってしまうのです。
月曜日、「クリームチーズとサーモンのベーグルと
アメリカンのセット」
火曜日、「クリームチーズとサーモンのベーグルと
アメリカンのセット」
水曜日、「クリームチーズとサーモンのベーグルと
アメリカンのセット」
木曜日、「クリームチーズとサーモンのベーグルと
アメリカンのセット」
金曜日、「クリームチー――」

はっとして顔を上げると、
アルバイトのタコ美が
ヒマワリのような笑顔で立っていました。

そういえば、これまでこの店員さんの顔を
ちゃんと見たことがなかった。
人と目が合うのが怖くて、
いつも胸元のあたりばかりを見ていたんです。
だから、「タコ美」というお名前だけは
知っていたけれど。
うには、初めて顔を上げて
目の前の人を見ました。
その瞬間、
カフェの中に漂うコーヒーの香り、
明るいボサノバ、カップが触れ合う音、
人々の楽しそうな話し声――
まわりの世界の音という音が、
背中から一気に押し寄せてきました。
(あ……今、うにの後ろに、
いっぱい、人がいる。
うに、見られてる……)
――あああああ……常連さん扱い、やめてええええ。

うしろの人たちがみんな自分を見ている気がする
(←もちろん、誰も見てない気にしてない)
背中がざわざわして、
とたんに逃げ出したくなります。
お店で「常連さん扱いされると嬉しい」
って言う人の気持ちが、
うにはよくわからないのです。
覚えていてくれるのは嬉しい。
ただ、それを世界の真ん中で叫ばないでほしい。
ずっとひとりでひっそりと
スモークサーモンのベーグルを食べていたいんです。
人から見られるのが怖いんです……!!!
……なんて、言えるわけもなく。
タコ美「これ、サーモンがぷりぷりでおいしいよねえ!
あたしも大好き!
今日のコーヒーはマンデリンでね、
ちょっと深入りだから、お湯多めに足す?
いつもアメリカンだし、苦いの、苦手だよね?」
アルバイトのタコ美は、
とってもフレンドリーに話しかけてくれました。
が、タコ美――一歩の踏み込みが、深い!

うに「う、あ、う」
タコ美「ね、最近あたらしく来た感じ?」
うに「う、え、はい」
タコ美「そうなんだ! ほら、ここっておじさんばっかじゃん? うちらと同世代の女の子、超珍しくて、話しかけたいと思ってたんだ!」
うに「う、え、あ……うん」
タコ美「はい、クリームチーズとスモークサーモン! ゆっくりしていって!」
うに、こくこくこく。
どきんこどきんこ!
うに、心拍数あがりまくりです。
(は、話しかけられちゃった~~~!)
カウンター席の端っこに座り、
跳ねる心臓を落ち着かせながら考えました。
きっといい人……なんだろうなあ。
仲良くなりたいって思って、
踏み込んできてくれたんだ。
すごいよね、すごい勇気だよね。
うにだったら、
絶対自分からなんて話しかけられない。

きっと彼女はだれにでもあんな風にできる人なのかも。
うにとは人種が違う気がする、
うん、激しくする。
すごく嬉しいのに。
でも、どうしたらいいんだろう。
だって、今までの人生で
上手に友達を作れた試しがないんだもん。
いつも答えすぎちゃうか、
遠慮して距離を取りすぎちゃうか。
親しくなったと思っていたら、
「え、わたしたちそんな間柄じゃないでしょ」
って顔をされたり。
慎重に距離をとっていたら、
次の日には別のグループにいて、
うにには目もくれなかったり。
傷ついたことは何度もある。
今回もそうかもしれない。
ふいに大きく踏み込まれると、
すぐ逃げたくなっちゃう。
関わらないほうが何も起こらない。
ひとりのほうが、
自分のルーティンが守れるんだもん。

単に社交辞令のご挨拶だよ。
さらりと笑って流しておけばいいんだよ、
って思えない、うに
(ああ。もう明日からここには来れないな……(←極端w)
さよなら、うにの大好きな
クリームチーズとサーモンのベーグルと
アメリカンのセット……)
と、心の中でつぶやいたのです。

が、翌週の月曜日。昼休憩。
うにの足は、ほぼ全自動であのカフェへ向かっていました。
It’s automatic.

頭の中は
「クリームチーズとサーモンのベーグルと
アメリカンのセット」でいっぱい。
どうなってるの、うにの脳。
でもレジ前に並ぶと、やっぱり——いた。
あの元気なタコ美。
あううう。だよねだよね、わかってた。
また「いつものね?」って言われちゃうんだ。
わかってたのに。
どうして来ちゃうかな。
うにのバカバカバカ。
こうなったら、違うものを頼むしかない。
👆ナゾの悲壮感。
その下のやつで行こう。何か知らんけど。
👆もはや「いつものね」回避が最優先。
タコ美「お待たせしました、あ、いつもの……」
うに「あ、あのっ、これで!」

あああ。「今日は」とか言わないで。
それ結局「いつも」と同じ意味だからあああ。
お願いだから知らない人のふりして。
ほんとお願い。
……と心の中で叫ぶもむなしく。
いつものカウンター席の端っこは、
別の人に取られていました。
慣れないテーブル席で、
慣れないベーグルを食べるうに。
(ああ、これじゃない。)
一口食べて、違和感。
これはこれでおいしいけど、
求めていたのはこれじゃないんだよぅ。
サーモンの、ぷりぷりなんだよぅ。
クリームのまったりなんだよぅ。
オニオンとケッパーの酸味なんだよぅ。

(ああ、こんなことなら
やっぱり最初からルーティンを貫けばよかった……)
という後悔でいっぱいのうにでした。
つづく——!

ちなみに、AIに尋ねてみました。
「うに、若いころは、ま~大変だったけど、
年齢とともにだんだん落ち着いてきたよ?
時間も工夫すれば守れるようになったし
カフェでも新しいメニューを試してみることも
できるようになったよ(たま~にだけど)
これってよくあること?」
「ASD傾向のある人の過集中は、年齢とともに制御可能になり、
クリエイティブな仕事や研究において“強み”として機能しやすくなる」(Hollander et al., 2005; Ochsner & Gross, 2008)
Dr.HollanderとDr.Ochsner & Dr.Gross氏は、神経心理学・精神医学の分野で有名な研究者で、ASDや情動制御(emotion regulation)に関する研究でしばしば引用されます。
かんたんに解説しますね👇
🧠 Hollander et al., 2005
Dr. Eric Hollander(エリック・ホランダー)
アメリカの精神科医で、**自閉スペクトラム症(ASD)や強迫性障害(OCD)**の臨床・神経生物学的研究で著名です。
特に「過集中(hyperfocus)やこだわり行動とセロトニン機能の関係」を早い時期から提唱していました。
🔹 代表的な論文の一つ:
Hollander, E., et al. (2005). "Obsessive and repetitive behaviors in autism spectrum disorders: the role of serotonin." CNS Spectrums, 10(6), 30–39.
この中で、ASDの過集中や反復行動は「単なる症状」ではなく、神経的な報酬回路の働き(=没頭によって安心を得る仕組み)と関係していると述べています。
つまり、ASDの“止まらない集中”は脳の安定化システムの一部なんです。
🧠 Ochsner & Gross, 2008
**Dr. Kevin Ochsner(ケヴィン・オクスナー)**と
Dr. James Gross(ジェームズ・グロス)
スタンフォード大学・コロンビア大学の心理学者で、感情調整(emotion regulation)とメタ認知の分野で世界的に有名です。
🔹 代表的な論文:
Ochsner, K. N., & Gross, J. J. (2008). "Cognitive emotion regulation: Insights from social cognitive and affective neuroscience." Current Directions in Psychological Science, 17(2), 153–158.
ここでは、感情の制御を「自分の内側で起こることを客観的に観察し、再評価(reappraisal)する力」として定義しています。
この理論は、ASD当事者の**過集中の自己制御(“止まる力”)**を説明する際にもよく引用されるんです。
🔗 つまり…
両者をあわせて引用すると、こんな意味になります👇
「ASDの過集中は、若いころは神経的な報酬回路の働きとして強く出るが、
年齢とともにメタ認知・感情調整(Ochsner & Gross)の力が育ち、
集中の“制御可能な形”へと変化していく。」
「過集中は、だんだん制御できるようになる」!
つまり、うにが感じている
「若いころは止まれなかったけど、今は落ち着いてきた」
という実感は、まさに神経科学でも裏づけられている自然な成熟プロセスなんです✨
だそうです。
おお、たしかに。
大人になってきても、
ルーティンを愛する心や、
集中気味の時間感覚はあります。
でもちょっと賢くなった?のは、魔法の呪文を覚えたからかな?
イレギュラーが起きたときは、
いったん落ち着いて、
「自分がどうにかできること」と「できないこと」を分けて、
「できないこと」は、
「まあ、いっか」って声に出して風に流しちゃうんです。
いまでも、徐々に
「まあ、いっか」の範囲を拡大していく日々です。
それが大人になるっていうことなのかなあ。
だいぶ生きやすくなってきた気がするような
あの頃のどうしようもない不器用さが懐かしいような……

大切なお知らせ
本作は実体験に着想を得たエッセイですが、プライバシー配慮のため登場人物・団体・時系列・場所等に創作・合成・編集を含みます。特定を意図していません。ただし、うにが感じた気持ちと気づきは本物です。

~今までの物語が読みたい!~
各種マガジンのお知らせ
『続きが更新されたらお知らせが欲しい』というありがた過ぎるみなさまへ。お好みのマガジンをフォローして頂きますと、通知が届きます♪
▼【あがり症|美大中退編】連載中|ふるえるままに、すすめ
▼【あがり症|美大受験編】完結|ふるえるままに、すすめ
▼【仕事編】連載中|ふるえるままに、すすめ
▼【総合】連載中|ふるえるままに、すすめ
▼【閑話休題】随時更新|ふるえるままに、すすめ
▼【うにのLINEスタンプ】随時更新
※本作は実体験をもとに再構成した創作エッセイです。

いつでも質問募集中~!

