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終わらない時代 第29話

『廃墟の罠』


「何だ君は? 会議中に入ってくるとは、常識を知らんのか?」

市長は鋭い視線でカイルを睨みつけた。

「非礼はお詫びします。」

カイルは一礼すると、数枚の写真を机の上へ差し出す。

「ですが、その前にこれをご覧ください。」

市長はため息をつきながら写真を手に取った。

「……これは何だ? 人間……いや、違うな。」

秘書も身を乗り出し、写真を覗き込む。

静まり返った会議室で、ヴィクターが静かに口を開いた。

「……ヴァインウォーカー。」

「ヴァインウォーカー?」

市長が聞き返す。

「歩く蔓。私が命名しました。巨大樹に取り込まれた人間の成れの果てです。」

市長は険しい表情でヴィクターを見つめた。

「そのヴァインウォーカーとやらは、危険なのか?」

ヴィクターは説明を続ける。

「巨大樹の防衛機能のようなものです。」

「外敵を察知すると集団で襲いかかる。知能は低いですが、力が強い。」

会議室は重い沈黙に包まれた。

「カイル。そのケースの中はサンプルだろう?出してくれ。」

カイルはケースを開き、小さなガラス瓶を机の上へ並べる。

「これは?」

秘書が尋ねた。

「ヴァインウォーカーから採取した組織です。」

「研究所からの依頼を受け、現地で回収しました。」

(は?そんな依頼はしてないぞ……?)

カリームは何も言えずに黙り込む。

ヴィクターはガラス瓶を見つめながら言った。

「このサンプルを解析できれば、ヴァインウォーカーの弱点、ひいては巨大樹への対抗策が見つかる可能性があります。」

再び沈黙が流れる。

やがて市長は大きく息を吐いた。

「……分かった。」

「研究の継続を認める。」

「ただし、予算は前年の三分の一だ。」

「その条件で成果を示してもらおう。」

そう言い残すと、市長と秘書は席を立ち、静かに会議室を後にした。

「ふぅ……何とかなったな。」

カイルは小さく息を吐いた。

「おい!いくら何でも無礼だろう!それに、そんな依頼など……」

カリームが声を荒らげる。

しかし、ヴィクターは制した。

「……礼を言わせてもらう。」

ヴィクターは険しい表情のまま、静かに続ける。

「貴様が来なければ、研究費はゼロになっていただろうな。」

「どうも。」

カイルは肩をすくめて笑った。

「しかし、研究費が三分の一か……。」

「このサンプルを高く買い取ってもらうつもりだったんだがな。」

口元に笑みを浮かべるカイル。

「そんなことだろうと思っていたよ。」

ヴィクターは呆れたように息をついた。

「で、何を出せばいい?」

その口ぶりは、すでに取引に応じるつもりだ。

「金は無理そうだな。」

「それなら……。」

カイルはヴィクターへ条件を切り出した。

二人の新たな取引が、静かに始まった。


夕方――

カイルはシホロ基地へ帰還した。

「隊長! 取引はどうだったんですか?」

エレナが駆け寄る。

「ああ……想定外の事態もあったが、概ね成功だ。」

カイルは簡潔に答えた。

そして一台の大型トラックが基地へ入ってくる。

「金は無理だったが、その代わりに水や食糧、燃料、それに日用品を手に入れた。」

隊員たちの表情が一気に明るくなる。

「やった!」

「物資が不足してきて不安だったんだ!」

「これでしばらくは持ちそうだな!」

隊員達は次々とトラックから物資を降ろし始める。

すべての荷下ろしを終えると、トラックは基地を後にした。

「……。」

リンは何か言いたげな表情で、カイルを見つめている。

「……あの動物か?」

カイルはそう言うと、車のから檻を降ろした。

「えっ!モフ!?」

リンは勢いよく駆け寄る。

「研究費が削られてな。未知の動物よりヴァインウォーカーの分析が最優先だそうだ。」

「それで引き取りを断られた。」

カイルが事情を説明する。

しかしリンはそんな話など耳に入っていなかった。

「モフ! ずっと一緒にいられるね!」

「キャウ!キャウ!」

優しくモフを抱きしめる。

その無邪気な姿に、カイルは思わず笑みを浮かべる。

(全く……。)

そして静かにテントの中へ入っていった。


翌朝――。

シホロシティの本格的な調査が始まった。

大型トラックには数名の隊員も乗り込み、それぞれの担当区域へ向かっていく。

ジュリアとリンは、市街地の探索を任されていた。

二人は小型トラックで崩壊した街の中心部へ進む。

「……ここから先は徒歩ね。」

ジュリアは運転席から崩落した道路を見つめる。

「あっ! あれ、もしかして!」

リンが遠くを指差す。

その先には1両の戦車が見えた。

シホロ基地所属の戦車。

戦車等の大型兵器は、すべてこのシホロシティへ投入されていたのである。

「ジュリア! あれ、動くかな?」

リンはトラックから降りて駆け出した。

「待って!」

ジュリアは慌てて声を上げる。

「赤い花に気を付けて!」

「大丈夫! 花なんて生えてないから!」

リンは振り返りもせず、大きく返事をした。

「もう……。」

ジュリアは足元を警戒しながら、リンの後を追いかけた。

「これは……?」

ジュリアは足元に張り巡らされた細い糸を見つけ、思わず足を止めた。

視線を上げる。

リンが走っていった先には、何本もの糸が途中で切れていた。

(まさか……!)

胸騒ぎが走る。

「リン! 戻って!」

ジュリアは叫ぶ。

しかし、その声は一歩遅かった。

リンの目の前に、巨大な昆虫がゆっくりと姿を現した。


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