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終わらない時代 第32話

『決意と希望』


カイルはガレスが搬送された病院へ駆けつけた。

手術を終えた医師が、静かに口を開く。

「残念ですが……左脚を切断せざるを得ませんでした。」

「何だって……!?」

カイルは思わず声を上げた。

「搬送までに時間が掛かり、壊死が進行していました。」

「命を優先するしかありませんでした。」

医師は病室から出て行った。

(これから……どうする……?)

カイルはベッドで眠るガレスを見つめることしかできなかった。

翌朝――。

ガレスはゆっくりと目を開けた。

「うっ……隊長……?」

「ガレス……。」

カイルは何か言おうとした。

しかし、言葉が出てこない。

「……?」

ガレスは掛け布団へ視線を落とす。

「なっ……!?」

左脚の膝から下が消えていた。

しばらく誰も口を開かなかった。

重苦しい沈黙だけが病室を包む。

「……俺は、ここまでなのか?」

ガレスは深く息を吐いた。

落胆は隠せなかった。

「もう現場には戻れねぇだろうな。」

カイルは静かに頷く。

「リンは泣いていた。」

「自分のせいだと責任を感じている。」

ガレスは苦笑した。

「フッ……アイツらしいな。」

「隊長。」

「もう一度教官をやらせてくれないか?」

「俺がアイツ等を一人前に育ててやる。」

カイルは小さく頷いた。

「ああ、頼む。」

こうしてガレスは指導教官という新たな役割を選んだ。



カイルはシホロ基地へ戻ってきた。

「隊長! ガレスさんは……?」

リンが駆け寄る。

カイルは一瞬、言葉を詰まらせた。

左脚の切断。

リンが受ける衝撃は計り知れない。

だが、隠しておくわけにはいかなかった。

カイルは医者に告げられたことを、静かに話し始めた。

「そんな……。」

リンはその場に膝をつき、力なく俯く。

「ガレスは、お前達の指導を志願した。」

「え……?」

リンはゆっくりと顔を上げた。

「それから、『アイツ等を一人前に育ててやる』とも言っていたぞ。」

リンの表情が少しだけ変わる。

カイルは小さく笑う。

「ガレスは昔、『鬼教官』って呼ばれていたらしい。」

「今のうちに覚悟しておけよ?」

そう言い残し、カイルは去っていった。

(鬼教官?)

(それくらい、何てことない!)

リンはゆっくりと立ち上がり、拳を堅く握りしめた。



翌日から、リンはまるで何かを吹っ切ったように変わった。

誰よりも早く起床し、

誰よりもよく働き、

面倒な仕事も率先して引き受けた。

(リン……良かった。)

ジュリアは胸をなで下ろす。

いつものリンが戻ってきたのだ。

「ガレスさん……辛かったでしょうに……。」

ミネルがぽつりと呟く。

昨夜、リンから全てを聞いた。

ジュリアもミネルもショックを受け、不安で眠れなかった。

でも、リンは前を向いた。

その姿が二人を励ましていた。

シホロシティの調査は、ガレスが復帰するまで一時中断となった。

その間、隊員たちは格納庫の修繕作業に追われた。

ジュリアとリンは誰よりも汗を流して働いた。



ある日。

三人は食堂で昼食を取っていた。

しかし、ミネルだけはどこか浮かない表情をしている。

「ミネル?どうしたの?」

ジュリアが尋ねる。

「え?何でもない……。」

ミネルは視線を逸らした。

「嘘。」

リンは即座に見抜く。

「また一人で抱え込んでるでしょ?」

ミネルは何も答えない。

「大学の時も、大事な資料を失くして雨の中一人で探してたよね?」

「それは……迷惑を掛けたくなくて……。」

ミネルは俯く。

「あの資料、カフェにあったんだっけ?」

ジュリアは苦笑する。

「そのあと風邪を引いて、私とリンで看病したよね。」

ミネルは恥ずかしそうに黙り込む。

「私たち親友でしょ?」

「迷惑なんて気にしない。」

「もっと私達を頼って。」

リンは真っ直ぐミネルを見つめた。

「ありがとう……。」

「実はね……。」

ミネルは基地の資料から特効薬の存在を知った事。

成分は判明したが材料も製造方法も分からない事。

本当に効果があるかも不明な事を打ち明けた。

ジュリアとリンは黙って聞いていた。

「特効薬……。」

リンが小さく呟く。

「そういえば……ちょっと待ってて!」

リンは食堂を飛び出した。

数分後。

小さなケースを持って戻ってくる。

「これ、拾ったんだけど使えるかな?」

「何の薬か分からないけど……。」

「それって……。」

ジュリアは思い出した。

シホロ基地を脱出した後に立ち寄った廃村。

無人の廃屋で見つけた、あの注射器だった。

ミネルは注射器を受け取り、研究テントへ駆け出した。

調査隊の科学者総出で薬剤を分析する。

「これ……資料と同じ成分だ。」

「100%ではない……だが、ほぼ一致している。」

テント内がざわめく。

直ちにカイルへ報告される。

「何? 特効薬だと?」

「効果はあるのか?」

しかし、科学者は答えられなかった。

「隊長。地下の球根に投与してみるのはどうでしょう?」

ミネルが提案する。

「分かった。やってみろ。」

カイルは実験を許可した。

ミネルと科学者達は地下の研究エリアへ向かい、巨大な球根の前に立った。

ミネルは慎重に注射針を突き刺し、薬剤を注入する。

すると――。

赤く光っていた芽が、白い光を放ち始めた。

「これは……!?」

科学者達が驚愕の表情を浮かべる。

赤黒かった球根の表面が、徐々に鮮やかな緑色へと変わっていった。

「これなら巨大樹に対抗できるかも……。」

ミネルは目の前の変化を見つめながら呟いた。



その頃――。

アオバシティ研究所。

「ついに完成したぞ……。」

ヴィクターは注射器を自らの腕に打ち込む。

(ドクン!)

「ぐっ……!」

心臓を強く締め付けられるような激痛が走る。

(ドクン……。)

「はぁ……はぁ……ふぅ……。」

痛みが少しずつ落ち着いていく。

「これは……想像以上だな。」

ヴィクターはゆっくりと拳を握り締めた。

「力が……無限に湧いてくるようだ!」

不敵な笑みを浮かべると、そのまま静かに研究室を後にした。


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