終わらない時代 第23話
『動き出す調査隊』
ヴィクターは静かにジュリア達を見渡した。
「お前達、私と研究所へ来てもらう。」
冷たい声。
「言っておくが、拒否権などない。」
その言葉と同時に、兵士達が三人を取り囲む。
「私達をどうするつもり?」
ジュリアが前に出る。

しかしヴィクターは表情一つ変えない。
「……知る必要はない。」
兵士の一人がリンへ近付き、その腕を掴んだ。
「やめろ! 離せ!」
リンは必死に振りほどこうとする。
だが、兵士は無言のまま銃口を向けた。
「くっ……!」
さらに別の兵士がミネルへ手を伸ばす。
その時――。
「私が行く。」
ジュリアがヴィクターの前へ立つ。
「ジュリア!」
リンが思わず声を上げる。
ジュリアはヴィクターを真っ直ぐ見据えた。
「私達は『失敗作』なんでしょ?」
「だったら、私一人で十分なはず。」
一瞬、部屋の空気が止まる。
ヴィクターは静かにジュリアを見つめ、やがて小さく頷いた。
「……まあ、いいだろう。」
兵士達へ視線を向ける。
「連れて行け。」
兵士達はジュリアの両腕を掴む。
「ジュリア!!」
ミネルが叫ぶ。
リンも一歩踏み出そうとした。
しかし、ジュリアは振り返らなかった。
そのまま兵士達に連れられ、司令室を後にする。
ヴィクターも無言のまま、その後に続いた。
扉が閉まる。
重苦しい沈黙が司令室を包む。

「カイル隊長!!」
ミネルが声を荒らげる。
「どうして止めなかったんですか!!」
カイルは静かに答えた。
「ここで抵抗していたら、お前達まで撃たれていたかもしれない。」
「……。」
ミネルは言葉を失う。
そして――
「う……うわぁぁぁぁぁ!」
その場に崩れ落ち、声を上げて泣き出した。

「ミネル……。」
リンはそっと肩へ手を置く。
「大丈夫。」
「ジュリアは強いから……きっと帰ってくる。」
それでも、ミネルの涙は止まらなかった。
カイルは二人を見つめ、静かに口を開く。
「ミネル。」
「諦めるのか?」
その一言に、ミネルは顔を上げる。
カイルは通信機を手に取った。
「ガレス、聞こえるか?」
「緊急事態だ。すぐ戻れ。」
しばらくして通信機から返事が返る。
「……分かった。すぐ戻る!」
通信を切ったカイルは、二人を真っ直ぐ見つめた。
「ミネル、リン。」
「ジュリアを取り戻す。」
「今から作戦会議を始める。」
その一言で空気が変わった。
一時間後――。
ガレスとエレナが拠点へ戻り、すぐに作戦会議が始まった。
会議室には重苦しい空気が漂っている。
カイルは静かに口を開いた。
「……俺達の大切な仲間、ジュリアが連行された。」
拳を握り締める。
「すまない。あの場では、どうすることもできなかった。」
リンとミネルは黙ったまま俯いていた。
沈黙を破ったのはガレスだった。
「それで?」
腕を組みながらカイルを見る。
「どうするんだ?」
「策はある。」

カイルは壁のモニターを映し出した。
画面には、アオバシティ研究所の見取り図が表示される。
「恐らくジュリアがいるのはここだ。」
一点を指差す。
「ここがヴィクターの研究室だ。」
「あの……。」
ミネルがおずおずと手を挙げる。
「どうして研究所の構造を知っているんですか?」
カイルは一瞬だけ視線を落とした。
「……昔、あの研究所で勤務していた。」
静かな声だった。
「ヴィクターとは何度も衝突した。」
それ以上は語らない。
「今は昔話をしている場合じゃない。」
カイルは話を切り替える。
「重要なのは潜入経路だ。」
見取り図の一角を指差す。
「ここに通気ダクトがある。」
「ここから侵入すれば、警備の目を避けられる。」
調査隊の科学者が口を開く。
「隊長、監視カメラは?」
カイルは小さく笑った。
「心配ない。」
「研究所の監視カメラは通路に数台あるだけだ。」
全員が顔を見合わせる。
「しかも、まともに動いている保証もない。」
「……どういうことですか?」
ミネルが首をかしげる。
カイルは肩をすくめた。
「この街は財政難だ。」
「研究所も例外じゃない。」
「設備の更新や修理まで手が回らない。」
口元に笑みを浮かべる。
「つまり、セキュリティに穴がある。」
会議室の空気が少しだけ和らいだ。その後も作戦会議は二時間以上続き、ジュリア奪還作戦は少しずつ形になっていった。
翌日――。
調査隊は総出でジュリア奪還作戦の準備に取り掛かる。
まずは情報収集。
アオバシティ研究所の周辺へ隊員を配置し、怪しい動きがないか監視を続ける。
研究所へ出入りする人間。
搬入される物資。
警備兵の配置や巡回ルート。
あらゆる情報を記録していった。

リンも黒いレインコートを身にまとい、人混みに紛れながら研究所を監視していた。
正体が知られないよう、慎重に距離を保ちながら双眼鏡をのぞく。
一方、別の隊員達は業者を装って研究所へ潜入する。
配送業者に扮した隊員は、監視カメラの位置や警備兵の動きを確認する。
修理業者に扮した隊員は、小型カメラや盗聴器を人目につかない場所へ設置していった。

その頃――。
調査隊の拠点では、ミネルと科学者達が送られてくる情報を分析していた。
監視カメラの映像。
盗聴器から送られる音声。
研究所のネットワーク解析。
次々と集まる情報が、モニターへ映し出されていく。

「これなら……。」
ミネルは画面を見つめながら小さく呟いた。
ジュリア奪還作戦は、着実に進み始めていた。
決行は明日の夜。
すべては大切な仲間を取り戻すために。
