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終わらない時代 第24話

『ジュリア奪還作戦』


翌日の夜。

作戦決行の時が来た。

カイルは全員を見渡し、静かに口を開く。
「潜入は俺とリンで行く。」

「ガレスは研究所の外で待機。万が一の時は援護を頼む。」

「エレナとミネルは拠点で監視を続けてくれ。」

「了解!」

全員が力強く頷いた。

ガレスの車で研究所近くまで移動する。

ライトを消し、物陰へ車を止める。

「ここからは徒歩だ。」

二人は静かに車を降りた。

研究所の裏手へ回り込み、通気ダクトへ向かう。

「……よし。」

カイルは周囲を見回す。

「警備員はいないな。」

リンも周囲を警戒しながら、小さく頷いた。

「行くぞ。」

「了解。」

二人は通気ダクトへ入り、音を立てないよう慎重に進んでいく。

しばらく進んだところで、カイルが右手を上げた。

「待て。」

小声でリンを制止する。

下を見る。

「ん?警備員が居ない……?」

(おかしいな……。だが好都合。)

カイルの合図で二人はダクトを抜け、研究所内へ潜入した。

「隊長。」
リンが小声で尋ねる。

「ここには監視カメラがあるんですよね?」

カイルは迷わず廊下へ足を踏み出す。

「エレナが細工した。警備室には録画映像が流れているはずだ。」

二人は監視カメラを気にすることなく廊下を進む。

やがて目的の研究室の前へたどり着いた。

カイルは静かにドアノブへ手を掛ける。

ゆっくりと扉を開く。

研究室の中央。

そこには、ジュリアが手術台に横たわっていた。

「ジュリア!」
リンが思わず駆け寄ろうとする。

「……来たか。」

低い声が研究室に響く。

ヴィクターだった。

その表情は、まるで二人が来ることを最初から知っていたかのように落ち着いている。

次の瞬間ーー

「動くな!」

「銃を捨てろ!」

周囲から武装した兵士達が現れ、リンとカイルを取り囲む。

「ちっ……!」
カイルは小さく舌打ちすると、ゆっくり拳銃を床へ置く。

リンも銃を手放した。

「カイル。」
ヴィクターは静かに口を開く。

「貴様がここへ来ることは最初から分かっていた。」

「……何だと?」
カイルの表情が険しくなる。

「最初から読んでいたのか……?」

ヴィクターは小さく笑った。
「さてな。」

そのまま近くの研究員へ視線を向ける。

「数値はどうだ?」

研究員はモニターを確認しながら答えた。
「異常ありません。」

「そうか。」

ヴィクターは静かに頷き、手術台のジュリアへ視線を移す。
「やはり……失敗作か。」

冷たく言い放つ。

「ジュリア!」
リンは必死に叫ぶ。

「お願い!目を覚まして!」

研究室に、その声だけが響き渡った。



昏睡状態のジュリアは、夢を見ていた。

シホロシティの孤児院。

ほとんど覚えていない場所。

それでも、断片的な記憶だけは鮮明に残っていた。

「パパ……行かないで……。」

幼いジュリアは男の服を掴もうとする。

しかし男は振り返ることなく、無言で孤児院を後にした。

「パパ……。」

小さな頬を涙が伝う。

「ねぇ! 一緒に遊ぼう!」

元気な声が響く。

振り向くと、二人の女の子が笑顔で立っていた。

「私はリン!」

「私はミネル。」

ジュリアは思い出した。

(二人が……。)

(初めてできた友達。)

「あなたのお名前は?」

ミネルが優しく尋ねる。

「……ジュリア。」

涙をぬぐいながら答える。

「ジュリアだね!」

「一緒に遊ぼうよ!」

三人は笑いながら駆け出した。

(そうだ……。)

(この日からずっと一緒だった。)

「ジュリア!」

遠くから誰かが呼ぶ声が聞こえる。

「目を開けて!」

(リン……?)

ドクン……。

心臓が大きく脈打つ。

「おい!動くな!」

今度は男の怒鳴り声が響く。

ドクン……!

(リンが……。)

(大切な友達が危ない!)

「ヴィクター主任!」
悲鳴のような声が聞こえた。

「数値が急上昇しています!」

モニターの警告音が研究室に鳴り響く。

「上昇止まりません!」

ドクン!!

ジュリアの身体の奥で、『何か』が目を覚ました。

「何!?」
ヴィクターが初めて表情を崩す。

赤く輝く瞳。

研究室にいた全員が息をのんだ。

ジュリアは腕に繋がれたチューブを無造作に引きちぎる。

そのまま静かに手術台から降り立つ。

「ジュリア……!」
リンは目を見開き、その姿を見つめる。

いつもの彼女ではない。

そこに立っているのは――

まるで別人のようだった。

「お、おい! 止ま……」

ドンッ!

ジュリアの蹴りが兵士の腹部へ突き刺さる。

兵士は吹き飛び、床へ激しく叩きつけられた。

「なっ……!?」

兵士達は驚愕し、一瞬動きを止める。

「取り押さえろ!」
ヴィクターが鋭く命じた。

兵士達は一斉にジュリアへ飛びかかる。

だが――

「ぐわっ!」

「うあぁっ!」

ジュリアは次々と兵士達を蹴り飛ばしていく。

誰一人、その動きについていけない。

気付けば兵士達は全員床へ倒れ込んでいた。

静まり返る研究室。

「ジュリア……。」

リンが震える声で呼び掛ける。

「もうやめて……。」

その言葉に反応するように、ジュリアの赤い瞳がゆっくりリンへ向く。

「………。」

ドサッ。

ジュリアはその場へ崩れ落ちた。

「ジュリア!」

リンが慌てて駆け寄る。

意識を失っているようだった。

「リン!」

カイルが拳銃を拾い上げる。

「脱出するぞ!」

「りょ、了解!」

リンはジュリアを抱え上げ、研究室を飛び出した。

「ヴィクター主任!」
研究員が焦った声を上げる。

「被験者が逃げます!」

ヴィクターは逃げていく背中を静かに見つめる。
「……行かせてやれ。」

冷静な声だった。

「我々では、あれを止められん。」

研究員は反論できなかった。

「急げ!」

走りながら、カイルは無線機を取り出す。
「カイルだ! ジュリアを確保した!」

「これより脱出する!」

研究所の廊下を全力で駆け抜ける。

「はぁ……はぁ……!」

リンはジュリアを抱えながら必死に走る。
「ジュリア……もう少しだからね。」

研究所の外では、ガレスが車を停めて待機していた。

「こっちだ!」

「急げ!」

三人は車へ飛び乗る。

「しっかりつかまれ!」

ガレスはアクセルを踏み込み、車は勢いよく夜の街へ走り出した。

こうして――

『ジュリア奪還作戦』は成功した。


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