終わらない時代 第26話
『新たな拠点』
調査隊を乗せた車列は、夕方にはシホロ基地へ到着した。
目の前に広がるのは、かつて人々が暮らしていた軍事基地。
巨大な赤黒い蔓が管制塔へ絡み付き、崩れた建物が静かに並んでいる。
道路のアスファルトは至る所がひび割れ、長い年月の傷跡を物語っていた。
隊員達は車から降りると、その光景を前に言葉を失う。
「……ここで寝泊まりするのか?」
誰かが小さく呟く。
「どこから手を付ければいいんだ……。」
不安そうな声があちこちから聞こえてきた。
「おら! ぼさっとするな!」
ガレスの大きな声が基地に響く。
「まずは格納庫だ! テントを設営するぞ!」
「了解!」
隊員達は一斉に動き始めた。
格納庫へテントを張り、発電機や通信機、食料や資材を次々と運び込んでいく。
一日がかりの作業の末、荒れ果てていた格納庫は、少しずつ拠点らしい姿へと変わっていった。

「よし。」
カイルは完成した拠点を見回し、小さく頷く。
「上出来だ。」
そして隊員達へ向き直る。
「本格的な活動は明日からだ。」
「見張り以外の者は体を休めろ。」
「了解!」
隊員達は交代で基地周辺の警戒に当たり、それ以外の者はテントへ入っていく。
慣れない環境。
荒廃した建物。
不安から、なかなか眠れない隊員も少なくなかった。
それでも――
ここが、今日から自分達の新しい拠点だった。
翌朝――。
ジュリア達は、司令室として使われているテントへ呼び出された。
「来たか。」
カイルはいつもと変わらない表情で三人を迎える。
「今日から本格的に活動を開始する。」
そう告げると、一人ひとりへ視線を向けた。
「お前達はシホロシティへ向かえ。」
「目的は資材の確保。それからサンプル採取だ。」

「了解!」
三人は力強く返事をする。
こうして、三人でシホロシティへ向かうことになった。
ジュリアとリンは小型トラックへ採取用の機材を積み込み、ミネルも分析機材やサンプルケースを荷台へ運び込んでいく。
作業をしながら、リンがぽつりと呟いた。
「シホロシティか……。」
少し寂しそうな声だった。
「巨大樹が現れたのって、私達がここへ配属されてすぐだったよね……。」
ジュリアは手を止め、小さく頷く。
「あの時、私達はたまたま基地にいたから助かった。」
「でも……。」
その先は言葉にならなかった。
シホロシティに暮らしていた多くの人々は、巨大樹の襲撃によって命を落とした。
孤児院の子ども達。
自分達を育ててくれた大人達。
もう二度と会うことのできない人達。
重苦しい空気が流れる。
ジュリアは静かにリンの肩を叩いた。
「リン。」
「任務に集中しよう。」
「……うん。」
リンは小さく頷く。
荷物を積み終えた三人は、それぞれ車へ乗り込む。
ジュリアは運転席でエンジンを始動させた。
小型トラックはゆっくりとシホロ基地を後にし、三人を乗せてシホロシティへ向かって走り出した。
ジュリア達は、シホロシティを一望できる高台へ到着した。

「……戻ってきたね。」
ミネルは、遠くにそびえ立つ巨大樹を見つめながら呟く。
街の中心に根を張る巨大樹は、空を覆うほど巨大に成長していた。
無数の太い蔓が街中へ伸び、建物を飲み込んでいる。
「……行こう。」
ジュリアの一言で、三人は再び小型トラックへ乗り込んだ。
やがて車は、静まり返ったシホロシティへ入っていく。
崩れた建物。
放置された車。
まるで時間だけが止まってしまったような街並みだった。
周囲を見回しながら、リンが尋ねる。
「どこへ行くの?」
ジュリアは少し考えてから答えた。
「まずは偵察。」
「どこに何が残っているのか確認しよう。」
「了解。」
リンは頷く。
(この街には使えそうな資材はあるのだろうか?)
ジュリアはそう思った。
三人は無線で連絡を取り合いながら、手分けして周辺を調べ始めた。
しばらくして――。
「こちらミネル。」
「食料を見つけたわ。」
無線から声が聞こえる。
「状態は?」
ジュリアが確認する。

「……ダメね。」
「ほとんど腐っていて食べられそうにない。」
落胆した声が返ってきた。
「うっ……!」
「くっ……!」
今度は苦しそうな声が聞こえる。
「リン!?」
「大丈夫!?」
ジュリアが慌てて呼び掛ける。
しばらくして返事が返ってきた。
「うーん……。」
「この機械、全然動かない。」
どうやら大型機械を一人で持ち上げようとしていたらしい。
「リン……。」
ジュリアはため息をつく。
「真面目にやって。」
「えへへ……。」
照れ笑いするリン。

(ん?何この花……?)
そのやり取りに、ミネルも思わず吹き出した。
「ふふっ。」
張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
約二時間後――。
三人は小型トラックの前へ集合した。
ミネルは地図を広げ、発見した資材や施設の位置を細かく書き込んでいく。
「……あれ?」
リンが何かを見つけた。
「何か来る……。」
視線の先には、こちらへ歩いてくる複数の人影があった。

「人……?」
ジュリアも目を凝らす。
だが、近付くにつれて異変に気付く。
「違う……!」
ミネルの表情が強張る。
「人間じゃない!」
赤く光る眼。
全身に絡み付く赤黒い蔓。
ゆっくりと、しかし確実にこちらへ近付いてくる。
「どうするの!?」
焦った様子のリン。
ジュリアは迷わず指示する。
「リン、ミネル!」
「撤退だ!」
人型の化け物がどんどん近づいて来る。
「了解!」
リンは運転席へ飛び乗り、エンジンを始動させる。
周囲を見渡すと、人型の化け物は数百体はいるようだ。
リンはアクセルを踏み込む。
小型トラックは砂煙を巻き上げながら、そのままシホロシティを駆け抜ける。
人型の化け物は、シホロシティの外までは追って来なかった。
その人型の化け物こそ『新たな脅威』だった。
