終わらない時代 第16話
『巨大魚討伐』
「それで?どうやって足止めをするんだ?」
巨大魚の突進を横へ飛んで躱しながらガレスが叫ぶ。
「あの子達を呼ぶわ。」
エレナは無線機を取り出した。
「聞こえる?応答して!」
返事はない。
ザーッというノイズだけが耳障りに響く。
「無線が通じない……。障害物かしら?それとも向こうの無線機の故障?」
眉をひそめる。
「仕方ない。ガレス、ここは任せたよ!」
そう言い残し、漁港の奥へ駆け出した。

「おい!……ったく!」
ダダダダ!
銃声が漁港に響く。
「おら!こっちだ!」
巨大魚の赤い瞳がガレスを捉えた。
銃口を向けたまま睨み返す
「ギャオォォォォ!!」
巨大な尾が横薙ぎに振られた。
「!?」
反射的に飛び退く。
ドガァァァン!!
停泊していた船が吹き飛び、木片や鉄片が辺りへ飛び散る。

「冗談じゃねぇな……。」
一撃でも食らえば終わりだ。
――その頃。
「ミネル!網は足りてる?」
運転席からジュリアの声が飛ぶ。
「もう残り少ない!」
荷台から返事が返ってきた。
「あれは…?」
遠くで誰かが手を振っている。
エレナだ。
急ブレーキと共に小型トラックが停まる。

「アンタ達、こっちを手伝って!」
荷台へ飛び乗ったエレナは網を確認する。
「よし、まだ使えるわね。急ぐわよ!」
トラックは再び走り出す。
――漁港中央。
「クッ……!」
巨大魚と一人で向き合うガレス。
だが様子がおかしい。
巨大魚の動きが鈍い。
呼吸も荒い。
(かなり消耗しているな……。)
鱗が剥がれた脚へ銃口を向ける。
ダダダダダダ!
「ギャオォォォ!」
弾丸が肉を抉る。
苦しそうに暴れる巨大魚。
(効いている。だが決定打じゃない。)
腰の手榴弾へ視線を落とす。
(口の中に放り込めればいいんだが……。)
その時
ビーーー!!

巨大魚の背後でクラクションが鳴り響く。
巨大魚が振り向いた。
ドシン。
ドシン。
巨体がトラックへ向かう。
「今よ!」
エレナとリンが同時に網を投げた。
「ギャオォォォ!?」

巨体が地面に倒れ込んだ。
ドォン!!
地面が揺れる。
「やるじゃねぇか!」
ガレスは一気に距離を詰めた。
手榴弾を握る。
巨大魚の口内に投げつける。
「こいつで終わりだ!」
しかし…
巨大魚は口を閉じた。
「チッ!」
投げた手榴弾は口の横へ落ちる。
ドゴォォン!!
頭部の鱗が吹き飛ぶ。
だが――
まだ生きている。
ブチ……ブチ……
網が切れ始めた。

「まずい!離れろ!」
全員が後退する。
「ギャオォォォ……!」
巨大魚は再び立ち上がった。
「ガレス、どうするの?」
「もう一度止められるか?今度こそ仕留める!」
だが網は全て使い切ってしまった。
周囲を見渡した時。
倒壊寸前の建物が目に入る。
「あれ……。」
ジュリアが指差す。
「あそこへ突っ込ませれば動きを止められるかも。」
「……それしかねぇな。」
ガレスは頷いた。
「誘導は俺がやる。お前達は下がってろ。」
そう言うと駆け出す。
「ガレスさん!」
ミネルの声が飛ぶ。
だがエレナが肩を押さえた。
「大丈夫。」
静かに微笑む。
「彼は経験豊富なのよ。」
「こっちだデカブツ!」
銃声。
巨大魚が反応する。
猛然と突進。
地面が揺れる。
瓦礫が跳ねる。
それでも動かない。
(まだだ…。)
距離が縮まる。
(まだ…。)
さらに縮まる。
巨大魚の口が目の前まで迫る。
(今だ!)
横へ飛ぶ。
ドカァァァァン!!
巨大魚は建物へ激突した。

大量の瓦礫が降り注ぐ。
「ギャオォォォ!!」
巨体が埋まる。
身動きが取れない。
「今度こそ終わりだ。」
手榴弾を取り出し巨大魚の口内へ投げ込んだ。
ドゴォォォォン!!
肉片が飛び散る。
(やったか?)
銃口を向けたまま近付く。
数秒。
巨大魚はピクリとも動かなかった。
「終わったな……。」

ガレスは銃を背負う。
――巨大魚討伐は完了した。
「終わったみたいね……。」
エレナは歩いてくる男の姿を見て小さく息を吐いた。

ガレスは、まるでいつもの任務を終えたかのように落ち着いている。
「エレナ、カイル隊長に報告してくれ。」
「あいかわらず無茶するわね。」
「仕事だからな。」
短いやり取りを交わす二人。
瓦礫の下には巨大魚の死骸が横たわっている。
それを見つめながら、ミネルは呟いた。
「本当に……終わったの?」
まだ実感が湧かない。
つい数分前まで、自分達はあの怪物に追い詰められていたのだ。
「言ったでしょう?」
エレナは少しだけ笑う。
「彼は経験豊富なのよ。」
ガレスは肩をすくめた。
「買い被りすぎだ。」
そう言いながらも、どこか慣れた様子だった。
ふと視線を三人へ向ける。
「そういや、まだ名前を聞いてなかったな。」
「ジュリア……です。」
「リンです!」
「ミネルです。」
三人が順番に名乗る。
「ジュリア、リン、ミネルか。」
ガレスは頷いた。
その表情は先程まで巨大魚と戦っていた男とは思えないほど穏やかだった。
エレナが声を掛ける。
「隊長に報告したわ。帰還命令よ。サンプル回収は明日行うそうよ。」
「了解。」
「さ、拠点へ戻りましょう。」
エレナはそう言うと、自分達が乗ってきた車へ向かって歩き出した。
ジュリア達も後に続く。
巨大魚の死骸を背に、漁港を後にする。
ーー調査隊の拠点
「戻ったか。」
カイルは部屋に入ってきたガレスを見るなり立ち上がった。
「すまんな。結果的にお前まで駆り出す事になった。」

「気にするな。」
ガレスは笑う。
「いつもの事だろう?」
「ああ……そうだな。」
苦笑しながら椅子へ腰を下ろす。
部屋に静寂が訪れた。
カイルは天井を見上げながら考える。
巨大魚は倒した。
だが、問題は何一つ解決していない。
そんな予感がしていた。
