終わらない時代 第22話
『訪問者』
ミネルは、もう一つ重要な報告をしていなかったことに気付いた。
(しまった……!)
慌てて通信機を起動し、再びカイルへ連絡を入れる。
しばらくして、モニターにカイルの姿が映った。
「隊長! すみません! もう一つ、重要な報告があります!」
カイルは落ち着いた表情のまま問い返す。
「……まだ何かあったのか?」
ミネルは地下研究所で撮影した巨大な球根の画像を送信した。
「む……これは!」

カイルは送られてきた画像をじっと見つめる。
「地下研究エリアで発見しました。」
「以前、私達が廃工場で見つけた球根とよく似ています。ただ、こちらは休眠状態に入っているように見えます。」
カイルは最後まで黙って報告を聞いていた。
やがて静かに口を開く。
「分かった。」
「ミネル、その球根にはもう近づくな。」
その声には、普段以上の緊張感があった。
「これからガレスとエレナをそちらへ向かわせる。」
「了解しました。」
通信が切れ、モニターが暗くなる。
その頃――。
ジュリアは、基地の食堂へ足を踏み入れた。

崩れ落ちた壁。
横倒しになった椅子とテーブル。
床には割れた食器が散乱している。
まるで、あの日から時間だけが止まってしまったようだった。
ジュリアはゆっくりとテーブルへ近付き、そっと手を置く。
冷たい感触が掌へ伝わる。
「もう戻れないのかな……?」
ぽつりと呟く。
あの頃は、それが当たり前の日常だった。
もう戻らない。
胸の奥が少しだけ痛んだ。
一方――
リンはロッカールームを訪れていた。
倒れたロッカー。
天井には大きな穴が開き、そこから青空がのぞいている。
静まり返った部屋に、自分の足音だけが響く。
ここは、三人でよく他愛もない話をしていた場所だった。
休日の予定。
好きな食べ物。
時には、くだらないことで言い合いになったこともある。
そんな何気ない日常が、確かにここにはあった。

リンは天井の穴から見える空を見上げ、小さく呟く。
「あの頃は楽しかったな……。」
静かな声は、誰もいないロッカールームへ溶けるように消えていった。
翌朝――。
ガレスとエレナがシホロ基地へ到着した。
「アンタ達、大丈夫?」
エレナは真っ先に三人の顔を見回す。
「隊長から話は聞いたわ。」
「体に異常はない?」
「はい。今のところは大丈夫です。」
ミネルが小さく頷く。
その横でガレスが笑った。
「隊長から計画の話も聞いた。」
「だがな、俺はお前達を軽蔑するつもりなんてない。」
「お前達は、俺達の大事な仲間だからな!」
その言葉に、三人の表情が少しだけ和らぐ。
「……ありがとうございます。」
ミネルは静かに頭を下げた。
「よし。」
ガレスは表情を引き締める。
「地下へ案内してくれ。」
全員で地下研究所へ向かう。
地下の研究エリアに入ると、巨大な球根が静かに佇んでいた。

「……コイツは。」
ガレスは慎重に球根を見つめる。
「確かに死んじゃいねぇな。」
エレナも近付き、赤く光る芽を観察する。
「そうね……。」
「この芽の色、以前採取してきた赤いキノコとよく似ているわ。」
二人は写真を撮影し、周囲の環境を細かく記録していく。
しばらく調査を続けた後、エレナが立ち上がった。
「今は下手に触らない方がいいわね。」
ガレスも頷く。
「そうだな。定点カメラを設置して監視する。」
球根の正面にカメラを設置し、研究エリアを後にした。
その後――。
基地内をくまなく調査したが、新たな手掛かりは見つからなかった。
使えそうな物資も、ほとんど残っていない。
エレナは通信機を手に取り、拠点へ連絡を入れる。
「こちらエレナ。隊長、聞こえる?」

しばらくして、通信機からカイルの声が返ってきた。
「ああ、聞こえる。」
「球根の前には定点カメラを設置したわ。」
「それから地上も一通り調査したけど、特に変わったものは見つからなかったわ。」
カイルはしばらく黙って報告を聞いていた。
やがて静かに口を開く。
「……分かった。」
「それなら撤収だ。全員、拠点へ戻ってこい。」
「了解。」
通信が切れる。
「撤収よ。」
エレナは振り返り、全員へ声を掛けた。
「了解!」
ジュリア達はテントを畳み、発電機や通信機などの機材を手際よく車へ積み込んでいく。
格納庫に設営した簡易拠点は、あっという間に片付いた。
最後にジュリアは、静まり返ったシホロ基地を振り返る。

(また来ることになるかも……。)
そんな予感が胸をよぎる。
やがて二台の車両はエンジン音を響かせ、ゆっくりとシホロ基地を後にした。
拠点へ戻ったジュリア達は機材を降ろし、司令室へ向かった。
コンコン。
「失礼します。」
部屋ではカイルが静かに待っていた。
ミネルはシホロ基地での調査結果と、球根の件を簡潔に報告する。
カイルは黙って聞き終えると、壁のモニターへ視線を向けた。
モニターには、球根が静かに映し出されている。
「しばらくはこちらで監視を……」
そう告げる前に複数の足音が近づいてくる。
コンコン。
司令室の扉が開く。
武装した兵士達に囲まれ、一人の科学者が姿を現した。

「ほう……本当に生きていたとは。」
男は三人を見渡す。
「あの……あなたは?」
ミネルが尋ねる。
「アオバシティ研究所のヴィクターだ。」
その名を聞いた瞬間、ジュリアの表情がわずかに変わる。
(ヴィクター……。)
どこかで聞いたことがある。
だが、思い出せなかった。
