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終わらない時代 第28話

『すれ違う信念』


ジュリアとガレスは、あらかじめ決めていた集合場所へ戻る。

「おーい!」

先に到着していたリンが二人に駆け寄った。

しかし、その視線はジュリアではなく、彼女の腕に抱かれた白い動物へ釘付けになる。

「何その子! 可愛い!」

目を輝かせながら、リンは動物を覗き込んだ。

「廃墟で見つけたの。糸に絡まって動けなくなっていたところを助けようとしたんだけど、その直後に人型の怪物が現れて……」

ジュリアは簡潔に事情を説明する。

「ふーん。」

リンは生返事をした。

話の内容より動物の方が気になっている。

「それで、この子の名前は何にする?」

「……なんで飼う前提なの?」

ジュリアが呆れたように眉をひそめる。

「コイツはサンプルだ。ペットじゃねえぞ?」

ガレスがすかさず口を挟んだ。

「えー、でも可愛いじゃん。」

リンはそんな言葉など聞こえていないかのように、動物の頭をそっと撫でる。

白い動物も嫌がる様子はなく、小さく目を細めていた。

「……帰るぞ。」

ガレスの一言で車に乗り込む。

リンは動物を膝の上に乗せてシホロ基地へ到着するまで頭を撫でていた。



拠点へ戻ったジュリアたちは、カイルに今回の調査結果を報告した。

「サンプルの回収、ご苦労だった。」

カイルは頷くと、ふとリンの方へ視線を向ける。

「それに……。」

リンは動物を抱きしめたまま、咄嗟にカイルから背を向けた。

(リン、何してるの?)

ジュリアが小声で尋ねる。

「だって……もっとモフと一緒にいたいんだもん……。」

「……モフ?」

ジュリアは首を傾げた。

「名前つけたの?」

「うん! モフモフしてるからモフ!」

「キャウ!」

得意げに笑うリンを見て、その場にいた全員が思わずため息をついた。




翌朝。

ジュリアが目を覚ますと、リンの姿はなかった。

「リン……?」

眠たい目を擦りながらテントの外へ出る。

すると、研究室のテントから声が聞こえてきた。

「おはよう、モフ。よく眠れた?」

「キャウ!キャウ!」

声の主はリンだった。

檻の中にいるモフへ、嬉しそうに話しかけている。

ジュリアは声を掛けようとしたが、思いとどまった。

今日、モフはアオバシティ研究所へ運ばれる。

(少しくらい、一緒にいさせてあげてもいいか……。)

ジュリアは何も言わず、その場を後にした。

――そして。

「しばらく留守にする。後のことは頼んだぞ。」

隊員たちにそう告げると、カイルはサンプルケースとモフの檻を載せた車両で基地を出発した。

リンは車が見えなくなるまで、その背中を見送っていた。

「モフ……。」

寂しそうに呟くリンの肩に、ミネルがそっと手を置く。

「元気出して。研究が終わったら、きっと戻ってくるよ。」

「ほら、今日は蔓の撤去作業だ。」

ガレスが声を掛ける。

「……了解。」

リンは小さく頷くと、まだ名残惜しそうに振り返りながら、現場へ向かった。


――アオバシティ研究所

カイルは受付へ向かった。

「昨日連絡したカイルだ。」

「少々お待ちください。」

受付係は研究所内へ連絡を入れる。

しばらくして受話器を置くと、案内板の地図を指差した。

「確認が取れました。あちらの待合室でお待ちください。」

「ああ。」

カイルは待合室へ入り、椅子に腰を下ろした。

しばらくすると、ヴィクターとカリームが姿を現す。


「何の用だ?」

その表情には、わずかな苛立ちが浮かんでいた。

「これから市長との会議がある。貴様に付き合ってる暇はない。」

「市長と? そんな話は聞いてないぞ。」

カイルが尋ねると、ヴィクターはため息をつく。

「貴様には関係ない。用件はそのサンプルだろう?」

「会議が終わるまで待っていろ。」

そう言い残すと、足早に待合室を後にした。

(随分と余裕がないな……。)

カイルは閉まった扉を見つめながら、小さく息をついた。



ヴィクターとカリームは会議室へ入り、それぞれの席に着いた。

ほどなくして、アオバシティ市長と秘書が入室する。

静かな空気のまま全員が着席した。

「市長、本日はどのようなご用件で……?」

カリームは作り笑いを浮かべながら切り出した。

「この馬鹿げた研究費は何だね?」

市長の低い声には、怒気が滲んでいた。

「それは……その、巨大樹の研究には必要な経費でして……。」

カリームは額に冷や汗を浮かべながら答える。

「必要経費だと?」

市長は机を軽く叩いた。

「ならば、今すぐ研究成果を示してみろ!」

「ッ……!」

カリームの肩が大きく震える。

(おい……主任。)

助けを求めるように、小声でヴィクターへ視線を送る。

ヴィクターは表情一つ変えず口を開いた。

「以前も説明したとおり、この街も、いずれシホロシティのように巨大樹に滅ぼされる可能性があります。」

しかし、市長は最後まで聞こうとはしなかった。

「この街が財政難なのは知っているだろう?」

「限られた予算で、市民の生活を守らなければならない。」

「市民の生活と、いつ結果が出るかも分からない研究。」

「どちらを優先すべきか、分かるな?」

市長は鋭い視線をヴィクターへ向けた。

ヴィクターは一切迷うことなく答える。

「巨大樹の研究です。」

会議室の空気が凍りついた。

「なっ……!」

市長と秘書は言葉を失い、カリームも目を見開く。

(お前……何を言っているのか分かっているのか!)

カリームは小声で制止しようとする。

しかし、ヴィクターはその声を気にも留めなかった。

「市長。研究を止めれば、この街もシホロシティと同じ末路を辿ることになります。」

ヴィクターは表情一つ変えずに言い切った。

「それなら、その根拠を示せ。」

市長が鋭く言い放つ。

コンコン――。

会議室にノックの音が響く。

「取り込み中失礼します。」

扉が開き、カイルが入室する。

手にはサンプルケース。

会議室にいた全員の視線が、一斉にカイルへと向けられた。

(この状況をどう切り抜けるつもりだ?)

ヴィクターは一切期待していなかった。


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