見出し画像

(ショートショート)未送信

 外は刺すような極寒だというのに、ガンガンに暖房をきかせた自室は、まるで別世界のようにぬるい。

 休日の午後、僕は一人、パソコンのモニターから流れる動画をぼんやりと眺めていた。

「これだから、独り暮らしは最高なんだよなぁ」

 あくび混じりに独り言をつぶやく。

 誰に気兼ねすることもなく、ただ怠惰たいだに時間を浪費する贅沢。

 ふと空腹を感じて冷凍庫を漁ると、いつ買ったのかも覚えていない冷凍ピラフが出てきた。

 電子レンジで温め、無造作に腹に流し込む。

 満たされた胃袋が眠気を呼び、僕はそのまま吸い込まれるように昼寝の海へと沈んでいった。

 不意に、スマホの通知音が静寂せいじゃくを切り裂いた。

 まどろみの中で画面を覗くと、大学時代の友人からのLINEだった。
 
 内容は、そっけない結婚報告。

 数年もの間、音沙汰すらなかった相手だ。

 こういう時だけ連絡をしてくる「友達」という名の知人に、僕は反射的に「おめでとう」のスタンプを送りかけ――ふと、指を止めた。

 タイムラインに目を移せば、今日も有名人たちがどうでもいい私生活を競うように投稿している。

 それに対し、思考を放棄したような「かわいい」「すごい」というありきたりな絶賛コメントが、無機質に並んでいた。

 画面の向こうにある、記号化された幸福。 送りかけたメッセージを消しもせず、未送信のまま画面を見つめる。

 「どうでもいいわ」

 ぽつりと吐き捨て、僕は再びベッドに体を横たえた。

 ぬるい部屋の空気と、冷え切ったスマホの画面。

 僕は重くなったまぶたを閉じ、再び一人きりの静かな眠りの中へと逃げ込んだ。


Fin。

※この小説はフィクションです。
登場人物は、存在しません。


↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。