(ショートショート)チョコ
「チョコレートはいかがですかー!」
駅前では、喉を枯らさんばかりに女性が叫んでいる。
その声は冬の乾いた空気に乗って、遠くまで響き渡っていた。
「そうか、もうそんな季節か。俺には縁がなさすぎて忘れてたよ」
隣を歩く親友と顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。
「そもそもバレンタインって何のためにあるんだろうなぁ?」
「イケメンじゃない俺らには、ただのチョコレート会社の戦略にしか見えないよな」
部活帰りの空腹を満たすため、僕らは吸い込まれるようにコンビニへ寄った。
店内の棚はどこもかしこも「バレンタイン」一色。
ピンクや赤の装飾に少しだけ胸がざわつくのを隠しながら、僕らはお目当てのホットスナックを買い、公園のベンチへと向かった。
冷たい風に吹かれながら、温かい食べ物を頬張る。
「なぁ、イケメンって何の略か知ってるか?」
不意に友人が、スマホの画面を見せながら言った。
「イケてるメンズ、だろ?」
「語源的には、その『イケてる』に『面(つら)』、あるいは英語の『men』を掛け合わせたものらしい。2000年代から広まった俗語だけど、最近じゃ中身がいい『性格イケメン』なんて言葉もあるし、動物にだって使われる。逆説的なネットスラングで『いけてない』って意味の『逝け面』なんてのもあるらしいぜ」
友人は博識ぶって言葉を続けた。
「今の時代、明確な基準なんてなくて、自分の好みの顔がその人にとってのイケメンになるんだってさ。小学校の頃は足が速いとか面白いとかで人気が決まったけど、それの延長線上で、今は好みが細分化されてるらしい。ってことは、俺らも誰かにとってはイケメンになる可能性があるわけだ」
「どこもかしこもイケメン、イケメンってうるさいと思ってたけど、そう聞くと悪くないな」
僕らは最後の一口を飲み込み、空になった袋を丸めた。
「それでもさ、やっぱりチョコ、一度くらいはもらってみたいよな」
「違いない」
強がっていた僕らの声が、少しだけ重なる。
ほんの少しの、けれど消しきれない淡い期待を胸に、僕らは夕暮れに染まり始めた家路を急いだ。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場人物は、存在しません。
バレンタインを批判してるわけではございません。
ちなみにイケメンやイケメン好きな方も批判してません。
ご了承ください
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
