【連載小説】第40話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
〜これまでのおはなし〜
聖クィシン皇国の皇上の命を受けたビ・アクー将軍は、妖術師ク・ザメとともに三奏に潜入した。
目的は『奴隷狩り』。
山間の緒川村を襲い、まんまと村人たちを拉致して連れ去ったが、次なる目標を前にして、奇械刀を振るうチョウマの前に計画は頓挫し敗走を余儀なくされた。
かくしてビ・アクーはク・ザメに事の次第を云い訳する。
なりふり構っていられない、ビ・アクーの思惑は如何に。
※残酷な描写を含みます。
心身の状態に留意してお読み下さい。
魔導汽船① 屍人の船
逃げ帰った敗軍の将を匿い
生者たる村人たちを囚えた屍人の方舟
幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩
海上でビ・アクーを待ち侘びていた妖術師ク・ザメは上空に紫の光を目視して違和感を覚えた。
奴隷狩りの計画の完了にはまだ早いはず――それに加えて、
「紫輝が一つ? 奴隷を運ぶなら、あと魔水晶は五つ残っていたはずでは?」
船上に紫輝が舞い降りると、そこには屍人兵が一人。ビ・アクーの首を抱えていた。
屍人兵がク・ザメに首を渡す。
「如何なさいましたか? 将軍閣下」
ビ・アクーのありように驚いて、ク・ザメは両手で首を抱えて恭しく尋ねた。
ビ・アクーはここまでの経緯を憎々しげに説明する。
「――全く。まさか、イーシュワラの武具があるとはな」
「それが事実であるならば、ヒュペリオンさまのことも含めて、皇上に奏上しなければなりませんな」
ク・ザメは硬い口調で答えた。
魔導汽船は左右両方の舷側に水車型の推進用の外輪を備えた外輪船である。
魔術師や妖術師の魔力を利用して航行する比較的大きな汽船だった。
カンテラの灯りがどっしりとした洋上の薄暗い汽船を僅かに照らす。
そのカンテラの弱い灯りはぼんやりと揺らぐ。
魔力を発動しなければ動力機関は動かないので、今は明るく船を照らすこともない。
シンと静まり返る海に浮かぶ船のまわりで、波の音だけが聞こえる。
船内には屍人兵が放つ異臭と、機械油の独特な刺激臭が混じり合って鼻を衝く。
この船にはビ・アクーや屍人兵が待機する部屋と、拉致した奴隷を監禁する部屋、そして船尾に小型船を二艘格納する格納庫があった。
船内に入ったク・ザメは一室の扉を開ける。
船の中とは思えない広々とした空間に、重厚な趣きの椅子がひとつ置かれた指揮官の私室である。
腰掛けていたのは首のない軍服姿の巨体。微動だにせず着座している。
ビ・アクーの本体であった。
ク・ザメは抱えていた首をその躰に嵌め込む。
手が動き出し指先が動いてビ・アクーは頸部にある螺子を回して頭部を胴体に固定した。
呼吸はしていないはずなのに、生前の名残りか「ふぅ」とひと息ついた。そして、
「たかが奴隷狩りと思い、油断した」
と口惜しそうに薄い唇を噛んで、動き出した足で座っていた椅子を蹴飛ばした。
また怒りがぶり返したようだ。
直ぐにク・ザメに命令を下す。
「魔導汽船を動かせ。本国に帰還する」
「え? 引き返すのですか?」
「そうだ! 対策を考えねばな」
「ははぁ――。失礼致しました」
一礼してク・ザメが慌てて部屋を退出した。
つづく
▶次回、第41話『魔導汽船② 海の異変』
海に何があるのか。
