【連載小説】第39話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
〜これまでのおはなし〜
帝の勅命で、三奏に侵入した聖クィシン皇国の手先を捜索していたチョウマとイオリは、山間の村人が彼らに攫われたことを知る。
唯一逃れた玉吉を保護し、いよいよ村人を救いに敵の拠点へ乗り込む二人。
危険を伴う為に玉吉を連れていく訳にいかない。
泣いて駄々をこねる玉吉に説明するチョウマ。
目指すべき目標が洋上にあることは心得ていた。
漁村の漁師小屋
寂しいだろう 心細いだろう
連れていけない幼い玉吉に
一人で待つ宵闇は深くなってゆく
「さて、これで良し。イオリ」
チョウマは信書を書くとそれを魂の影の鴉の足に結んだ。
「頼むぞ」
鴉は真っ直ぐに風を切って飛んでいく。
ここは下越の寂れた漁村である。
打ち寄せる波はやや荒く、潮の香りが濃厚な土地柄でもあった。
チョウマが大きく息を吸い込む。
魚の干物のにおいを感じて、海が近い空気に多く湿り気を帯びているのも体感していた。
昼から霞んでいた西の空は夕日が照らして黄桃色に明るく彩られていた。
チョウマの変身まではまだ少し時間がありそうだ。
「玉吉」
とチョウマが呼ぶ。波が激しく泡立つ。子どもはおずおずと前に出てきた。
「あの光の行く先は――」
と沖の方を指差す。
「――行く先はこっちの方。
たぶん海の上、船だと思う。
そこにお前の父ちゃんと母ちゃん、与四郎も村の人もいるだろう」
「じゃあ、そこにいけばまた会えるんだね?」
「それなんだがな。
この先には、お前を連れて行けない」
「なんでぇ!?」
「危ないからだ」
「だってぇ!! とうちゃんとかあちゃんに会いたいよぅ」
そう云って玉吉は泣き出してしまった。
玉吉の頭に手を置いて撫でる。
そしてそっと抱き寄せて、不安気な玉吉の顔を覗き込むようにするチョウマ。
「……気持ちは判る。
今まで我慢していたもんな。
でも云い訳がましいが本当に危ないんだ。
申し訳ない」
明るく玉吉に語りかける。
「約束する。
玉吉の父ちゃん、母ちゃん、与四郎、村の人。
みんな助けてくる。
おじさんと玉吉の約束だ」
「……おばさんは?」
苦笑するチョウマ。
「あゝ。おばさんも約束する。
なぁ、イオリ」
脇に目を遣ると魂の影が静かに立っていた。
以心伝心の秘術を玉吉にかけた。
魂の影となるイオリと玉吉は心が通じ合う。
あの優しいイオリを思い出して、その途端に涙を拭って笑顔になった。
チョウマは「フフ」と笑ってまた頭を撫でる。
そして、あちらを指差して云った。
「ここの漁師小屋で待ってろ。
鴉は番屋に向かわせた。鴉に付けた信書を読めば与力が来てくれる。
事情は信書に書いて説明してある」
そして手書きした朱色の花押を玉吉に見せる。
「信書には俺とイオリの花押を書いてある。
番屋に居る皇宮の遣いが花押を見れば、働きかけて与力は直ぐに来る。
俺たちがみんなを連れて戻る朝までは、玉吉はここでお留守番だ。
いいな?」
「なに言ってるのか、分からないよぅ」
とまた泣き出して、かぶりかぶり頷く玉吉。
チョウマは玉吉が落ち着くまでそっと抱きしめてあげた。
「大丈夫。大丈夫だ」
魂の影は傍に立ってそんな二人の様子を静かに見守っていた。
日が沈むと夜になる。
玉吉も知っている、あの獣が猛る夜が来る。
つづく
▶いよいよ5月7日から公開(予定)
第40話『魔導汽船① 屍人の船』
