【連載小説】第38話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
〜これまでのおはなし〜
夜の魔女から譲り受けた『たからもの』奇械刀、光明璽来迎を振るうチョウマに、聖クィシン皇国の屍人兵たちはまるで敵わなかった。
将軍ビ・アクーは拉致計画の滞りを悔しがる。
さても、行き詰まった次なるビ・アクーの一手は何をしようというのか。
※残酷描写を含みます。
心身の状態に留意してお読み下さい。
火花散る⑤ 敗走
チョウマの剣に負けたビ・アクー
負け惜しみをひとりごちる屍人の将
幻想は現実の前に跪き立ち去るのみ
チョウマの瞳の奥に静かな勝機が灯った。
挑発でも嘲りでもない、口元に薄っすら笑みが差す。何かを見透かした笑みだった。
さらに悔しさが増したであろうビ・アクー。
だがそこは努めて冷静に、残った一人の屍人兵と自らに云い聞かせるように、号令を発した。
「これは諍いであっても決して戦ではない。
やむを得ん!」
負け惜しみであることは重々承知。
有り体に云えば負けを認めたも同然だが、流石にそこまでは口にしなかった。
スッと立ち上がり両手の斧を置いて頸部の大きな螺子に手を掛けた。
何を始めるのだろうかと思えば、螺子を外すと続けざま頭に両手を掛けた。
そして左右に捻り回す。
カチッと金属音が鳴り、頭部が外れた……。
そして後ろに下がった屍人兵に、その頭部だけとなった首をヒョイッと投げて渡す。
様子を見ていたチョウマは呆気に取られた。
ビ・アクーはひと言チョウマに云い遺した。
「よく判った。今日のところはこれまで。
貴様、覚えておれ!!」
残された胴体が首のないままに動き、懐から取り出したのは、妖しい紫色の光を湛えた魔水晶。それを後ろに投げつける。
地面に当たった魔水晶が砕けて、あの空を翔る紫色の光が拡がった。
ビ・アクーの首を抱えた屍人兵が、その光に乗ると光はふわりと浮かび上がる。
「吾輩の胴体が奴を引きつける。退却!!」
そうしてビ・アクーを乗せた光は雲の向こうへ飛び去っていった。
胴体は再び斧を持つとチョウマに斬りかかる。
首のない胴体はチョウマの相手にはならない。
あっさりと斬り捨てられた。
重そうな黒い鎧を遺して土塊になり崩れ去る。
光の去った方向を見遣るチョウマと玉吉、そして魂の影。
「あんなふうだったよ!
とうちゃんとかあちゃんも! 与四のあんちゃんも!
みんな大丈夫かなぁ」
玉吉はそうしてあの夜のことを語る。
「ふむ」
考え込むチョウマに魂の影が囁く。
「あゝ、奴らは逃さん。
イオリ。追いかけておくれ」
魂の影が指先を空に向ける。
指から影が千切れて離れ一羽の鴉になった。
鴉は、カーカーと鳴いてクルリと一つ回ると、ビ・アクーの首を追いかけるように空の彼方へ飛んで行った。
「おのれ! たかが下人の分際で!
意外なものに思惑を外されたわ!!」
首だけのまま、屍人兵に抱えられて憤激するビ・アクー。
「このまま汽船に帰る。また出直しだ……!」
怒りの矛先を向ける相手を見失ったまま、そう云って歯ぎしりした。
その頃はと云えば 既に
夕暮れどきであった そうな
茜色の空に
紫の光が 飛んで行った
海沿いの村の 村人たちが
そんな様子を見ていた そうな
村人たちは
その光を見て
これは 凶事の前触れかと
たいそう心配した そうな
そして光は 沖の方へ
飛んで行ったが
海は 静まり返り
白浪も立たなかった そうな
つづく
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