【連載小説】第37話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
〜前回の続きから〜
聖クィシン皇国の屍人兵たち。
不死身の兵と謳われていた彼らを、破魔の霊剣『光明璽来迎』が祓い浄める。
快刀乱麻を断つ活躍を魅せるチョウマの振るう聖剣は、全ての穢(けがれ)を滅するのだった。
※残酷描写を含みます。
心身の状態に配慮してお読み下さい。
火花散る④ チョウマの剣
武芸の達人でもあるその太刀筋を
見極められる屍人兵などありはしない
現実が曖昧なとき幻想が立ち塞がる
駆け下りてきたチョウマは手近にいた屍人兵に襲いかかる。
屍人兵は銃剣で応じようとしたが、一合も交えずに滅した。
チョウマの背後から隙をついて斬りかかった、もう一人の屍人兵。
しかしチョウマは返す刀で振り被り、
「でぇええぇぃ!」
と、掛け声とともに頭から真っ二つにした。
何という剛剣、剣技『獅子乱刀』。
チョウマの太刀筋を見た者は皆、口を揃えて此奴には敵わぬと云ったものだ。
茫然たるほかない。
斬られた屍人兵たちは、皆ただの土塊となって二度と動かない。
もう一人の屍人兵は早々にチョウマの相手をすることを諦め、玉吉の方に向かっていった。
「イオリ!」
地面から沸き立つ蒸気のように魂の影が現れて、玉吉の前に壁となってそびえ立つ。
仰ぎ見ると白い面が一つ。
その面が見下ろして目と目が合う。
すると魂の影は数百羽にもなる鴉の大群となって、屍人兵の正面へ飛び出す。
鴉の黒い群れに屍人兵は呑み込まれ、そして群れが通り過ぎた後にはただの肉塊となった。
残った首がカチカチと震えて顎を鳴らしていた。
チョウマがゆっくりと玉吉の方へと近づく。
「大丈夫だったか?」
「うん」
掌で玉吉の目を覆い、見なくていいというように優しく手の温もりを目蓋に伝えた。
そして光明璽来迎を落ちた首に突き立てる。
キイイイィィ――ン!
と、滑車が悲鳴を上げて首は土に還った。
「フフン」
と、余裕の笑みを見せるチョウマ。
だがビ・アクーは別のことに気を取られていた。それどころではなかった。
「気合い滑車が七つだと!!
まるで『宝具』ではないか!?」
光明璽来迎は三振りあると伝わる秘刀のうちの一振りで、破魔の霊剣であった。
奇械刀は、元々の由来は神々の武具の『写し』とも伝えられていた。
この写しとは即ち、それ相応の“能力”を持つという意味である。
刀身を鍛え上げた鍛冶師と、仕込んだ仕掛けを拵えた人では在らざるものの、匠の業が結実した類い稀なる逸品だった。
因みに秘刀と呼ばれた奇械刀は他に、魔剣『阿修羅極道』、豪剣『屠龍蒸雲改』らが並ぶ。


奇械刀として光明璽来迎に仕込まれた“仕掛け”の一つが、滑車と引き金である。
漲る精神力を蓄積するその滑車を“気合い滑車”と呼んだ。
通常、その数は多くて三つ。大将級の武士であっても、五つを並べるのが限度とされた。
だがあろうことかその奇械刀には、七つの気合い滑車が並んでいた。
しかも全てが高速回転している。
気合い滑車の数は、その奇械刀の格を示すとも云われた。
七つという数は、“写し”であっても極めて異例だった。
『宝具』というのは云い過ぎではない。その類い稀な奇械刀を、この三奏の下人が振るっている。
まったく想定外の事態であった。
「これは神々の啓示か、それとも呪いか……!」
その躰を震わせてビ・アクーが興奮の色を隠さない。残った屍人兵が後退りする。
ビ・アクーが命ずる。
「下がれ!」
そして自らが前に出る。
「吾輩は、聖クィシン皇国の三位中将、
ビ・アクー!
参る!」
両手に持った斧をチョウマに振るう。
右から左から、得物を両手に持つ利点を活かすが、チョウマも武芸の達人。
難なくそれらを弾いて防ぐ。
繰り出す猛攻を平然と防ぐ。
「何だ、大したことないな。お前?」
チョウマは話しかける余裕すらも見せて笑う。
癇に障ったのだろう、ビ・アクーの表情が険しくなった。
斧を振るう勢いが増し手数も増えるがチョウマは一瞬も怯まない。
そして引き金を絞る。
キイイイィィ――ン!
奇械刀が三度啼く。
ビ・アクーが斧を振り上げ、チョウマめがけて今度は振り下ろす。
だがチョウマはかわし、斧が勢い余って台地の石灰岩に当たって岩は砕ける。
その隙をついてチョウマが下から上に薙ぐ。
チョウマの逆袈裟斬り。
ビ・アクーの鎧にチョウマの奇械刀の切っ先が喰い込み、火花が散った。
寸前で辛うじてかわしたビ・アクーだが、光明璽来迎の切っ先は、その身体を掠めていた。
思わず後退り苦しそうに膝をつくビ・アクー。
見ると掠めたところに穢を焼いた聖剣の痕があった。
「ぐはっ!」
と低く呻く。だが、
「不死身の身体を焼いたのか!?
本物のイーシュワラの武具であるのかッ!?」
屍人である自らに異変を感じて狂喜した。
そのビ・アクーを前に、普段温和なチョウマは呼吸を荒々しく乱して、こう云い切った。
チョウマの柔和な眼差しに、あの猛り狂った獣の焔がギラギラと宿っている。
「好き勝手にやってくれたようだな!
これ以上我慢ならん……ただでは済まんぞ!!」
つづく
