【連載小説】第7話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
〜これまでのおはなし〜
それは遙か彼方の昔の噺。
大陸に伝わる神々の故郷を捨てて海を渡る一柱の神は、魔女と云われたまがいものと手を結んだ。
神と魔女は新たな土地で怪異と呼ばれた。
それが『夜の魔女』と『太陽の巨人』である。
やがて怪異はその土地の女と、魔女は男と恋をしてひと時の仲睦まじい間柄となった。
振り返れば、人非ざるものとの出逢いと別れは、夢物語のようだったと云う。
ただ、その二人の男女の数奇なる運命は、かねてから惹かれ合い、朱い糸で結ばれて今に至る。
これは絡んだ朱い糸を手繰り寄せた、彼と彼女の運命を語り継ぐ一片に過ぎない。
紡ぐ
「こら! チョウマ!
また、泣かないの!」
「だって、イオリおねえちゃん、本気で打ち込むんだものぉ~〜」
そしてチョウマと呼ばれた子どもは持っていた木刀を放り出して、半べそを掻いた。

それは、今より思い返せば二代も昔のこと。
開け放した道場に午後の日差しが差し込み、野焼きの鼻孔に障る煙い空気が立ち込めていた。
泣きやまぬ子どもに静かに少女は近づく。
そして木刀を手に取り、剣先を向けずに静かに床に寝かせた。
手拭いを取り出して屈み、半べそを掻いて泣き濡れた頬を優しく拭ってあげた。
「泣かないの、チョウマ。
男の子でしょう。
立派な武士になるんでしょう」
「だって、……ヒク、ヒク」
「チョウマなら成れる。
大人になったら、私よりも強くなって大きくなって、きっと立派な武士に成る」
「……そしたら、さぁ〜〜。
おねえちゃん、おヨメさんになってくれる?」
チョウマの言葉に、少女はそれまでの厳しい顔つきから一転、笑みを零した。
「なる。なる。
チョウマはお嫁さんにしてくれるの?」
「うん」
チョウマは耳まで赤くしていた。
イオリは笑顔で答えた。
「じゃあ、続けよっか」
何処かで鴉が鳴いていた。

夜の魔女と太陽の巨人という二柱の怪異は、
「修羅の道に帰る」
と云い遺して二人の下を去った。
呪われた吾が身と知り、覚悟を決めて愛したチョウマとイオリ。
二人の想いを余所に、夜の魔女と太陽の巨人、それぞれの怪異はかくもあっさり人と決別した。
つづく
