見出し画像

【連載小説】第6話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』

その麗しい容姿に、誰もが恋焦がれたひと。
だが、彼女が選んだのは『人』ではなかった。
辿り着いたそれが彼女の答えなのか。
話しを聞きつけた人々は云ったものである。
奇々怪々な結末なり、と。
それでも彼女の愛が覆ることはなかった。
自分と、その家族を大切にしたその事実こそが、彼女の愛と云う名の本音だった。


始まり⑥ 魂の影 イオリ編



移ろいゆく影になろうとも
其処にあるのは強い心
幻想と現実の交わる祈りと魂の叙事詩




 太陽の巨人とは愛し合う仲となった。
 それは怪異を愛する呪いとなり、イオリの身に降りかかった。
 まさに怪異とかかわりあう宿命である。

 太陽の巨人に愛されたイオリもまた人では在らざるもの、怪異となった。

 夜半は美しい人の姿であるが一度太陽の光が差せば生まれる、陰の如く常にある影。
 それは暗く自由に形を変える。
 あるときは空に浮かび上がり煙や霧のように定まらぬ形の黒い影。
 またあるときには人の影の中に擬態して潜む。

 その分身は鴉に変化して彼女はそれを自由に使役した。

 影の中には象徴的な白い面が一つ。

 両の眼と思しき二つの穴と口のように割れた穴が一つ。
 無表情で、それがいっそう不気味だった。
 面の由来はさまざまに云われた。
 やれ、イオリの美貌を隠すためだとか、或いは太陽の巨人の情愛を込めた刻印しるしだろうとか。

 ただ、一見しただけでは何者かは判らない。
 それを目撃した人々は口々に、底知れない怪異を見たと噂した。

 後にイオリは太陽の巨人と駆け落ちをしたのだと云われた。
 のっぴきならない事情があったことを世間は知らない。
 太陽の巨人と付き合っていたことは事実なので
特に反論はしなかった。

 イオリの美貌は怪異さえも魅了したと怪奇譚かいきたんのように語る者もいた。
 それを聞いてイオリはむしろ他人事のように笑っていた。

 イオリは呪われたことを後悔しなかった。
 他人が云う噂も怪奇譚も気にしなかった。

 ただときが巡る度に怪異へと変化する不快感は押し寄せて蝕む。
 それでもイオリは堪え忍びそれを選び続けた。

 それが美しいだけではとどまらぬイオリの強さであった。

 イオリは愛と誇りを信じている。


つづく




いいなと思ったら応援しよう!