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【連載小説】第48話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』

〜これまでのおはなし〜
聖クィシン皇国の悪行により拉致された緒川村の村人たちは、イオリとチョウマこと黄金の災厄の活躍のおかげで無事帰れることとなった。
「帰り道、みんなで帰ろう。
 悪い夢から醒めて、郷に帰ろう」


郷への帰り道


全てが終わり村人たちは帰途につく
悪意の終わりは 再生の一歩でもある
幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩





 村人の乗った手漕ぎ船。
 ふらふらと迷走していた。

「お〜〜い、もっとちゃんと漕げぇ。
 これじゃ、いつまで経っても陸地に着かねえどぉ。判っとんのか?」
「うっせぇなぁ、じゃあ自分でやってみろ!」

 山での暮らしに慣れている村人は、どうやら櫓の扱いに難儀しているようだった。

 ふらふら。ふらふら。
 様子に変わりはない。

「あ〜〜ぁ」
 与四郎は飽きていた。

 船の外側を、海を見つめている。
 とは云っても、真っ暗で何も見えない。
 向こうには、もう一艘の手漕ぎ船が見えた。

 さっき見えていた赤い炎は乗っていた船のものだろうか。
 狭くて臭い牢屋の中に閉じ込められた恨みはあるが、あの大きな船のことが与四郎は気にかかった。

 そんなことを思いながら海を見つめていると、海底の方から光が差し込んできた。
「?」
 海のことをよく知らない与四郎は、初めはお日さまが上がってきたのかと思った。

 どうやらそれは違うみたいだ。

 海の底、深くから明るくなってきた、その光はもう海面に浮かんでいる。

 見ている与四郎の目の前で、寄せる波を切ってせり上がるのは何なのか。

 幾重にも枝分かれしたそれは角のようだ。
 頭が見えて鼻息が荒い。
「ブファッ!」
 頭をもたげて大きく呼吸した。

 首が見えて黄金の鬣があり、それはさっき与四郎たちを救ってくれた獣だと判った。

 驚いたのは恐怖よりも、その獣の背に女が跨っていたからだった。

 月明かりの中、夜の海に光を放つのは、彼女が身につけていた数珠のようだった。
 その蒼白い光に包まれたその女を、与四郎も村人たちも知らない。

 濡れた雅な着物がぴったりと身体に張り付いている。長い黒髪を後ろで結わえていた。

 そこから彼女が村人たちに話しかけてきた。
「上手く漕げないの? 
 もし良かったら岸まで曳いていきましょうか?」

「ちょっとあんた、本当かい? 
 お願いできるかね」

 返事をした欣三の鼻の下が伸びている。女房が欣三の足を思い切り踏んだ。

「痛え!」
 と、周囲は苦笑い。

 そんなやり取りに気づかない女は、
「? 
 えぇ。
 もやい綱はある? あったらそれを船に結んで」
 大人たちが総出で綱を探し、云われた通りに結んだ。

「出来たら、結んでない方をこっちに投げてちょうだいな」
 舫い綱の端を彼女に投げる。並走していたもう一艘の船も同じことをした。

 その女は綱を手に取ると端を獣の角に結んだ。
「準備が出来たわ。皆、しっかり掴まっててね」

 彼女が獣の耳元で囁くと、
「グラアァァ――!」
 と獣が手漕ぎ船を曳いて泳ぎだす。

 二本の綱がイオリの背で交差して邪魔になる為、彼女は手漕ぎ船に乗り込んできた。 

 獣に遠慮はない。
 始めは、のらりくらりと泳ぐだけだった。
 が、勢いがつくと海面に浮かび上がり、やがて脱兎のごとく、海の上を思い切り走り出した。

「スゴい! スゴいや!」

 与四郎も村人たちも、振り落とされないように必死に掴まって大騒ぎの帰り道だった。


つづく


▶次回、第49話『再会』、お楽しみに。



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