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【連載小説】第16話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』

〜前回からの続き〜
チョウマの家に泊まった吾作は、朝方には帰路につく。
名残惜しい素振りの吾作だが、そんな吾作を上空の暗い影が見つめていた。
その影の中に浮かぶ白い面。
その笑みが意味することとはなにか。
吾作は自分でもそうと知らずのうちに、あることに気づく。
黙って吾作を見下ろす幻のような影の中の面。
何を見つめているのか、答える者はいなかった。


気づき


吾作の様子をうかがう影
彼の気づきに 誰も頷くことはない
幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩





「いやはやなんとも。
 チョウマさんもお付き合いが大変なんだなぁ。 
 突然に訪ねたのは悪いことしたなぁ。
 ではぁ」

 家からだいぶ離れて帰路に就く吾作。
 ひとしきり反省すること然りだった。

「はて?」
 立ち止まり顎に手をあてて、無精ひげをいじりながら考え込む吾作。

「そういやさぁ?」
 首を傾げる。

「オラはさぁ? 
 チョウマさんとイオリさんが一緒にいたとこ、見たことないべ?」

 朝、小鳥たちが鳴きながら飛び回り森の茂みに勢いよく飛び込んでゆく。
 夜明けとともにまた森は活気づいていた。

「そんなはずないべさぁ」
 吾作の自問自答は続いている。

 一旦止めた歩みをまた進めて村に向かった。
「だってぇ。二人は夫婦めおとだものぉ――」

 笑っている。

 そしていそいそと駆け出す吾作。
 吾作は気づかなかった彼の頭上。
 黒い影は相変わらずぐるぐる渦を巻いていた。

 一瞬、吾作の声が聞こえたのか。
 渦が動きを止めて静かになった。

 影が僅かに反応したようだ。
 吾作はそれが何を意味するか知らない。

 黒い影の中心からぼんやりと浮かび上がる白い面。やがてくっきりはっきりと輪郭が整う。

 白い面が顔のように見えるのは、面の中に目を開けたような丸い穴が二つと、口のかたちに切り取った穴が一つ。
 表情はない。
 その面は曖昧模糊とした影の中で、唯一具象的な妖しき姿を、不気味に表現していた。

 吾作の様子をじっと窺っている影。 

 深く考えずに去る吾作を見て安堵したのは寧ろ影の方だったのか。

 心なしか口に見える穴にはうとましき笑みが浮かんでいるようで……。

 影は上空に漂っていたが、吾作が去っていくと強い風の向きに逆らって、着物の帯のように長く延びて家の方に帰っていった。
 鴉が数羽付いて飛んでいく。

 森の景色は変わらない。

 あるが如く自然にそこにある。

 それがいつもの日常である。

 昨夜の猛る黄金の牡鹿も今はまるで夢のように思えて仕方のないことであった。


つづく




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