《行動経済学8️⃣》「含み益の銘柄はリスクを取っていい」という錯覚。メンタルアカウンティングがポートフォリオを歪める
あなたは「財布の数」が多すぎる
少し考えてみてほしい。
以下のうち、やったことがある行動はどれか。
「給付金(臨時収入)で株を買う。普通の給与では投資しない」
「含み益が出ている銘柄のお金は、少しリスクの高い投資に回していい」
「配当金は別の財布のお金。生活費には使わない」
「旅行費は専用の口座に入れているから、そこからなら使っていい」
これらはすべて合理的に見える。しかし全て、同じ認知バイアスの産物だ。
メンタルアカウンティング——お金に「心理的なラベルを貼る」習性。
お金に色はない。しかし脳は色をつける
リチャード・セイラーが1985年に提唱したメンタルアカウンティングは、人間が「同じお金でも出所や用途によって、まったく異なる価値を感じる」という認知特性だ。
数学的には、$1は常に$1だ。
給付金の$1も、給与の$1も、含み益の$1も、配当金の$1も、同じ$1だ。
しかし人間の脳は、それぞれに「別の財布」を作り、異なるルールで扱う。
「棚から牡丹餅」的に得たお金(給付金・臨時収入・投資の利益)は、地道に稼いだお金より「軽く」感じる。
これを「ハウスマネー効果」と呼ぶ。
カジノで最初に勝った金は「胴元の金」として、気軽にリスクを取ってしまう心理だ。
ハウスマネー効果が投資で引き起こすこと
米国株投資においてハウスマネー効果は、特定のパターンで現れる。
パターン1:「含み益はリスクマネー」化
ある銘柄で+50%の含み益が出ると、「もともと自分のお金ではない感覚」が生まれ、その含み益を高リスクな別の銘柄に回しやすくなる。
しかし含み益も、確定させれば同じ資産だ。
パターン2:「臨時収入の浪費的投資」
コロナ禍の給付金でミーム株を買った人が多かったのは偶然ではない。
「普段の財布ではない」という感覚が、リスク許容度を非合理的に上げた。
パターン3:「配当再投資の非合理的運用」
「配当金だから高配当株にしか使わない」という思い込みも、メンタルアカウンティングの一種だ。
配当金をどう使うかは、ポートフォリオ全体の最適化の観点から判断すべきであり、「出所」によって使い道を縛る根拠はない。
配当金の「別財布感」と税務上の現実
配当金に関して、もうひとつ重要な指摘がある。
多くの投資家が「配当金は生活費とは別の特別なお金」と感じている。
しかし米国株の配当金は、課税される「所得」だ。
税引き後の実手取りで考えれば、株価上昇による含み益と本質的に同じ資産増加だ。
「配当は別の財布」という感覚が生む最悪のパターンは:
配当金を受け取ることに強烈な満足感を感じ、配当を維持するために業績が悪化しつつある高配当株をホールドし続ける。
「毎月配当が入ってくる感覚」のために、トータルリターンが劣る銘柄を選択し続ける。
配当は「特別なお金」ではなく、「保有株の価値の一部が現金化されたもの」に過ぎない(配当落ちで株価は理論上その分下落する)。
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「一つのポートフォリオ」として見る統合思考
メンタルアカウンティングへの最も有効な対抗策は、**「全資産を一枚の貸借対照表として見る」**習慣だ。
「配当口座」「成長株口座」「臨時収入」などのラベルを剥がし、ただ「私の総資産:$○○」として見る。
その総資産を最適に配分するとしたら、今の配分は正しいか?
この問いを立てるだけで、メンタルアカウンティングが作った「非合理な境界線」が可視化される。
実践的には:
全口座・銘柄を一つのスプレッドシートで管理し、「割合」で把握する習慣を作る。
「このお金はどこから来たか」という思考ではなく「このお金を最善に使うとしたら」という思考に切り替える。
次回は、メンタルアカウンティングと損失回避が合体して生まれる最悪のバイアス——ディスポジション効果を解剖する。
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エビデンス:
Thaler, R.H. (1985) "Mental Accounting and Consumer Choice" Marketing Science : https://doi.org/10.1287/mksc.4.3.199
Investopedia – Mental Accounting : https://www.investopedia.com/terms/m/mental-accounting.asp
Shefrin, H. & Statman, M. (2000) "Behavioral Portfolio Theory" Journal of Financial and Quantitative Analysis : https://doi.org/10.2307/2676187
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