光の街 勇気の一歩|第3話 おまじないのレシピ
▼前回▼
何かを得るってことは、
何かを、失うってこと……?
1
おにいちゃんのお友達が好き!
青治という名前で、ときどきおにいちゃんの部屋に遊びにくる。
お母さんにいわれて、食材その他を持ってきたフリをして、土日におにいちゃんの部屋を訪ねると、青治がいることがある。
「こんにちは、青治」
おにいちゃんと同じ歳の青治は、猫っ毛で、優しい濃茶の瞳をしている。
「こんにちは、美愛《みあ》ちゃん」
「みーあ、青治さんだろー?」
おにいちゃんが言い方をいちいちチェックしてくるが、気にしない。
「はい、今日の、お母さん特製夕飯」
タッパーに詰まったお料理を、青治とおにいちゃんに手渡す。
「ごめん、俺の分まで、いつも」
「いいのいいの! ほうれん草のうま煮、大根の煮物、チキンカツ。……それから」
息を呑む。気づかれないように、でも、緊張しながら言った。
「……ハ、ハンバーグ」
「なんだ、これ?」
おにいちゃんが怪訝そうに言う。
「焦げ焦げじゃないか」
たしかにハンバーグは焦げていたり、不揃いだった。
「ほんとだ」
青治まで言う。
泣きそうになるのを堪える。
「でも、味はいいはずよ! だって、お母さんが作ったんだから」
「う、うーん、ついにババアもボケたか」
「そんなはずは……」
青治が、箸でハンバーグを掴む。
「味見」
胸がドキドキした。
「⁉︎」
次の瞬間、青治は口からハンバーグを吐き出した。
「ガ?! げ、げほ、こ、これは……」
テーブルの上のコップの手を伸ばすと、
「な、生焼き!!! かつ、今まで食べた中で一番デンジャーな味!!!」
「どんな味やん!」
そ、そんなはずは……。
ハンバーグを取り上げるようにして、口にする。
「!!!」
「大丈夫? 美愛ちゃん」
盛大に吐いてしまったあたしに、青治が優しい。背中をさすってくれる。
でも、
次の瞬間、青治のスマホが鳴った。
「……う、うん。わかった」
誰?
あたしと青治の時間を邪魔するなんて!
「ごめん、急用」
青治はダッシュで出て行った。
「……うそ」
吐いて泣いてるあたしを置いていくなんて……
青治らしくない。
優しさが服着ているような彼には、似つかわしくない……。
2
何がいけなかったんだろう。
急いで、ページを繰る。
「……あった」
<彼の心を掴むハンバーグ>
そのページを読み直す。
「おかしいな、書いてある通りのはず」
ちょっと焦げてても、でこぼこでも、生な部分があっても、
『でも、味はおいいしいよ♡』
……となるはず。
だって、漫画ではそうだもん。
「なんであんな惑星滅亡な味がした」
隠し味に、ありあわせのフルーツを入れたのがいけなかった?
「そんなはずがない! バナナもりんごもキウイフルーツも、おいしいもん」
おいしいもの×おいしいもの=お・い・し・い!!!
「それとも、ソースにメイプルシロップを混ぜたのが???」
表紙を見返す。
「ほんっとに、なにがいけないの⁈」
ゲームやCD、メイクアップ用品、部屋を彩るものたちがあるからこそ、かつかつな財布。
その財布から、半ば衝動的に買った、
<恋に効く、おまじないレシピ49>
と言う、古書。
なんだか不気味なその本に、なぜか惹かれた。
なんで50じゃなくて、49??かも謎だが、
思いついてしまった!
お母さんからと言って、青治に食べさせる。
ズッキュン! 青治のハートは美愛のもの♡
……な、はずだった。
悲報。ハンバーグのおまじないは失敗した。
3
なにがいい?
なんだったら、いい?
ラブラブになるオムライス?
ハッと振り向くジャーマンポテト?
急接近するカレーライス???
お母さんの名を名乗る以上、後がない!
頭を抱え、キッチンに立つ。
カレーだ!
カレーなら、具がちょっといびつでも、色や味がちょい変わっていても、許されるはず!
私って、天才♪
「……なんだ、これ」
おにいちゃんが毒づく。
「何の亜種だ?」
「あしゅ??? ……アッシュ???」
「こ、これのどこが、カレーだ??? お〜い、青治、美愛がまた変なもの持ってきた!」
「え」
ドアの奥、リビングに居たのか、青治がおにいちゃんの向こうからやってくる。
「美愛ちゃん、これは、一体……」
真っ赤に燃え上げれ♪なカレーの入ったタッパーを青治に渡したい。
「レッドカレー。見た目と裏腹に、恋のように甘いの! まるで、い
・ち・ご♡」
「い、いちご……??」
青治の顔が青ざめる。
「美愛。おまえ……」
おにいちゃんがあたしを外に蹴り出す。
「おまえ、しばらく、出禁だ!」
えぇぇっぇぇぇえっっ!!!
な、なんでー?
4
美愛は死にました。
……嘘です。生きてます。
大不評なハンバーグ。
口にしてもらえなかったカレーライス。
「おまじないなんて、嘘じゃん」
それとも、こんな本に頼ったあたしがいけないん?
本をめくっていると、
<注意:おまじないの代償>
毒々しい文字で書かれたページが現れた。
……ナニコレ。
<何かを得るということは、
何かを、失うことである。>
は? ちょっと待って。
失うもナニも。
あたし、何も得てないんですけど?
<心を掴むハンバーグ。
急接近のカレーライス。
失敗すると、、、>
ページを捲る。
なんも、書いてねー!!!!
まっくろ。
ものの見事にまっくろ。
ミス原稿?!
「なんじゃこれ!!!!!」
一人、自分の部屋で壊れていると、お母さんがやってきた。
「み、美愛。いま電話がかかってきて」
「?」
「美愛が、全日本美少女レッツ伝の、一番スターに選ばれたって!!」
「は?」
スキップして、お父さんもやってきた。
「美愛! 美愛が勝ってくれた宝くじが当たったぞ!!」
「……え”」
抱えていた古書が床に落ちた。
<何かを得るということは、
何かを、失うことである。>
……や、やばい??????
5
あたしは、おにいちゃんの部屋のピンポンを押しまくった。
「だれすか。新聞ならいりません」
「誰が新聞勧誘員じゃ! いまどき居るんか?」
「……出禁娘は帰れ」
「お願いおにいちゃん! 青治を出して? いるんでしょ?」
「いません」
「うそ!!!」
「嘘なもんかよ。あいつなら、今頃デートだ」
「⁉︎ で、デー……うそ、青治、フリー……」
「それは、こないだまでな」
う、うそ。
あたしはよろめいた。
世界が変わってしまった。
ぐるぐる、ぐるぐるする……。
「大丈夫ですかぁ?」
ジュガーボイスが降ってきた。
「めまいですかぁ?」
見ると、女性が立っていた。
ケープのワンピに。リボンにフリル。
なんだこの人? かわいすぎるだろ。
「お、お気になさらず……」
「そういうわけにはぁ。あのぉ私のかれがすぐそこの部屋で。少し寄っていきますかぁ??」
……。
私はすべてを察した。
あまりに、「<好みの異性>にぴったりだった。
……きゃつの。
「あの、付かぬ事をお聞きしますが、」
ピシ! と指差す。
「あの部屋の、新聞拒否のヤツが、ソレですか??」
6
青治に彼女ができた。
ついでに、おにいちゃんにも……。
どうして?
レシピが失敗したから?
おまじないなんかに頼ったから?
<何かを得るということは、
何かを、失うことである。>
青治とうまくいくためには、どうしたらよかったの?
告白することも、
デートに誘うことも。
なにもせず。
ただ、黒い理料に頼ってた、ばかなあたし。
デスクの引き出しから、レターセットを取り出す。
想いが伝わるのは、緑のインク。
いつからだろう。
おまじないなんて、し始めたのは。
小学生のとき、好きな男の子がいた。
メガネの似合う、ちょっと長髪気味な男の子。
あたしは、内気でピュアで、ものすご〜〜く、かわいかった。
「好きです」
緑のインクのおまじない。
でも、
渡せなかった。
「……青治」
涙が、私をヤな子にする。
「青治。やだよ、やだよ」
そう。
「別れろ」
身も知らない誰かを呪う。
「……代償? 上等じゃん」
私は泣き明かした部屋を飛び出し、古書店に向かった。
7
「一番効く、おまじないの本をください」
店主らしき、老人に声をかけた。
「……はい?」
「だーかーらー」
「はい?」
耳が悪いのかな?
あたしは、店内を勝手に漁る。
<今日からアイドル>
<しまぐらしの日々>
<朝の光>
<旧校舎にて>
<絶縁の書>
……。
<絶縁の書>?
透明カバーがかかっていて、中が読めない。
あたしはそれを店主に持って行った。
8
店から逃げるようして、走り、
歩道橋を登る。
急いでカバーを外し、中をめくる。
何か、まがましい感じがする。
手がビリビリする。
《娘よ》
どこからともなく、声がする。
《我を求めよ》
本が宙に浮き、導くようにページを開く。
《さすれば、何も悲しむこともない》
「? あんたは誰?
絶縁のおまじないの本じゃないの?」
《おまじない?》
笑う声。
《汝の願いは━━》
「美愛!」
細長い影が、あたしと本を遮る。
「美愛! しっかりしろ!」
「……おに、い、ちゃん?」
「最近おまえ、変だと思ってたんだ。
━━妹から離れろ、低級魔!」
「ていきゅ? これって、おまじないの本じゃないの?」
「……はぁ」お兄ちゃんはため息をついた。「黒魔術の書だ。立派に、低級魔に取り憑かれるところだったぞ」
「はぁ? 何言って━━」
「この世界から、美愛を消させることは、できない。諦めろ、<絶縁>。」
《永遠の安らぎを、与えんとしたまで》
「んなの、望んじゃいねぇんだよ」
おにいちゃんは、小さく何か呟いた。
……呪文?
「美愛。目を覚ませ」
「生きてれば、いろいろなことがある」
「でも……」
お兄ちゃんの手に、
五芒星を丸で囲った絵のついた、輝く本。
「だから、いいんじゃん」
低級魔が絶叫する。
9
「あれは、なんだったんだろう」
ベッドの上で、ハート型のクッションを抱える。
訊いても、おにいちゃんは、
「俺も昔、中二病を拗らせてな。黒歴史だ」
というばかり……
そういえば、すっかり忘れてたけど、
緑のインクのおまじないは、おにいちゃんに教えてもらったんだった。
「青治……」
青治の隣で笑ってるのは、どんな人だろう。
ベランダに出、星を眺める。
いつか。
あたしの隣で笑ってくれるのは、
どんな人だろう……
「あ」
夜空にひとつ。
「━━流れ星」
《光の街 勇気の一歩 完》
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