光の街 勇気の一歩|第2話 勇気のお弁当
▼前回▼
変わることは、怖い━━。
1
朝七起床。
九時オンラインで出社登録。
在宅でPCに向かったり、オンライン会議に出席する。
要するに在宅ワークをしている。
転職を繰り返し、ここで繋いでいる。
でも。
「やっぱり、外行って、働きてぇ」
そう思う。
思うのに、
一歩踏み出せない。
気をつけないと、生活がルーズになりそうだし、画面越しの人間は、何だか心が読めない。
リアルで会う人が、減った。
知らない他人ばかり増えていくようだ。
午後六時。
やっと、今日の勤務は終わり。
「腹、減った」
長財布をポケットに入れると、
「天音《あまね》ちゃん、今行くぜ」
健康のために、徒歩で店に向かった。
2
「多喜さぁん、いらっしゃいまぁせ!」
弁当屋の天音ちゃんが、したったらずな元気な声で俺を迎えてくれる。
可愛すぎる。
小柄で、細くて、抱きしめたくなる。お目々はきらきら。薄いアイシャドウが似合っている。ふわふわの長い髪を、後ろで束ねていた。
店内は狭いが、明るく、テーブルやケースに、商品が並んでいる。
「新作のお弁当、出てますよぉ」
天音ちゃんが大きな目を細める。
「新作?」
「勇気のお弁当でぇす!」
「ゆ、ゆうき? なにそれ、怪しい」
ここの弁当屋、うまいんだけど、ネーミングセンスが……
「天音、天音」
急に、璃子《りこ》ちゃんが割り込んでくる。
「あっちの、合格祈願弁当を並べて……」
「はぁい、今行きまぁす」
「多喜さん、いらっしゃいませ!」
真っ黒い髪をボブにした、まだ若い女の子だ。天音ちゃんより先輩で、仕事もよくできそう。
「新作の、勇気のお弁当いかがですか? これを食べると、ちょこっとだけ、勇気が湧いてきて、問題突破に一役買いますよ!」
「えー、本当に?」
「今なら、勇気のお守り付きですっ!」
妙に可愛らしいおまもりを、璃子ちゃんは、見せてくる。
「な、なんなら……」
「はい?」
「多喜さんには、特別に、璃子とお揃いお守りと、じゃじゃっじゃーっん! 璃子召喚券をプレゼントいたします!!!」
「は。はいい???」
顔を赤らめた璃子ちゃんが何か言おうとする。
ちょうど、広くもない店内の奥に行っていた、マイエンジェル天音ちゃんが戻ってきた。
「天音ちゃん!」
「うん? 多喜さぁん? どぉかしました??」
「え、ええと、天音ちゃん、弁当を一つ、くれないか」
「はぁい! 勇気のお弁当おひとつですね?」
こうして俺は、勇気のお弁当をゲットした。
3
勇気のお弁当は、別に普通の弁当だった。
……謎のお守りがついてくるのを除いて。
ピンク色のきらきらのついたそれには、
<勇気倍増>と書かれている。
「まじか」
それを持って、ベッドに向かうと、お守りにキスをする。
なんだか、天音ちゃんみたいで、かわいい。
「勇気……」
部長の顔が頭に浮かぶ。
━━確かに、
変わることは、怖い。
今の安定は壊れる。
「退職届」
どうして、書けないんだ。
意気地なし……!
俺は頭をかかえる。
片手のおまもり。<勇気倍増>。
仕事のデスクに向かった。PCを立ち上げる。
悩んだ。
転職サイト。
退職届の書き方のサイト。
「……何がしたい、俺」
もっと、外に出て、もっと、人と関われる仕事……。
4
「いらっしゃいませ!」
璃子ちゃんの声が響く。
「多喜さん、久しぶりですね!」
満面に笑み、でも、俺は天音ちゃんを探していた。
「天音ちゃんは? 今日は、休み?」
「あー、あの子なら辞めましたよ」
「えっ⁈」
「他にやりたいことがあるとか。よく知らないけど。そ、それより、多喜さん、り、璃子と……」
「わりぃ」
俺は弁当屋を飛び出した。
天音ちゃん、
天音ちゃん。
街をでたらめに走って、彼女を探す。
……天音。
こんな、失恋ないぜ。
俺が、グズグズしてたから。
背負ってたリュックにつけた、お守りを見つめる。
涙が、
頬を伝って、
地面に落ちた。
5
俺は、
会社を辞めた後、
ホームへルパーの資格を取った。
福祉施設で、ご利用者様の乗った車椅子を押していた。
おりしも、春。
窓の外のは、桜。
ご利用者様と眺めて、しばらくして、また進む。
ちょうど、手隙のとき、
「多喜くん、ちょっといい?」
先輩に当たるスタッフに声をかけられた。
「今日から、こちらで働くことになった、」
スタッフの後ろから、現れたのは━━……。
「望月天音さん」
桜とお守りが、俺たちを祝福している気がした。
《第二話 完》
▼次回▼
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