魚をください|その1 魚を食せ!
▼前回▼
「はぁ……」
現状に堪《た》えきれなくて、秀司《しゅうじ》は溜め息ついた。
「もう死め……」
食卓には今日もアイツらが我が物顔で載っかっている。
なにがイヤって、もうすべてがイヤだ。
「しゅーちゃん。今日こそ食べてもらうわよ」
向かいに座ってた母親が言った。無視する。
「秀司。好き嫌いはいかん」
その隣で父親も言う。これも無視した。
遠い目を泳がせる。テレビで二時間ドラマがやっている。ヒロインがなんか叫んでいる。
『もー嫌ぁっ‼︎ もうこんなの堪えられない‼︎ どうして、貴族に生まれたからって、政略結婚しなきゃいけないのっ⁈ もう私逃げたいっ‼︎
あなたと一緒に行くわ‼︎ 自由になりたいっ‼︎ あんな腐った魚みたいな男━━
ちょーサイアクぅ』
身にしみた。つまされる。
「あぁわかるよヒロイン。その気持ち。オレもコイツから逃げたい。
自由はどこにあるんた? アメリカか? 女神は微笑むのか?」
「なーにブツブツいってるのしゅーちゃん⁈
ごまかそうったってそーはいかないわよっ‼︎」
「秀司。いいから食べろ」
「嫌だあっ‼︎」
魂込めて、秀司は叫んだ。
「お食べなさい」
「食べろ」
「や、ヤダ」涙目だ。
「さあ」
「さあ」
「さあさあ」
「さあさあ」
「ぜって~~やだあっっ‼︎」
甲高い声がご近所に響いた。
「だ、だいたいな」
イスを蹴飛ばして、秀司は立ち上がる。
右人差し指を両親に向けて突き出す。
「子供が嫌がってるのに、ムリに食べさせよーとするなんてな、ぼ、
暴力だぞ⁈ 児童相説所に相談するぞ⁈ いいのかよっ」
箸を器用に動かして母は《《ソレ》》を口に運んだ。
「勝手にすれば?」
父はみそ汁を啜った。
「ちゃんと食べないと大きくなれないぞ」
「うぅぅ~……」
秀司は座り直した。目の前の皿の上では偉そうにでかい魚が寝そべっている。
そう、魚だっ‼︎
秀司はお魚が大っキライだった‼︎
……魚屋の息子なのに。
秀司は後ろ向きにイスに座ると、背もたれにもたれかかってうなだれた。
「オレが魚大っキライだって知ってるくせに〜。毎日毎日魚ばっか出しやがって〜。
しかもおやつにコイツらシシャモとかバリバリ食うんだぞ‼︎ サンマとかアジの開きとかつまみにするんだぞ‼︎ で、オレにも食うの強要しようとするんだっ!
ついでに服まで魚柄のダッサイやつ着せようとするしっ!」
「なに言ってんの⁈ いいじゃない、お魚なら虫歯にならないし?」
「とーちゃんとかーちゃんとおソロのお魚ファッションのどこが気に入らないんだ⁈」
「全部気に入らねぇっ‼︎」
秀司は嘆いた。
「いいから、食べなさい。お母さん一生懸命作ったのよ」
「一生ケンメって、ただ、サケ焼いただけじゃんっ!」
「うまいぞ秀司」
「うまくねぇっ‼︎」
秀司は仕方な〜く、箸を助かした。
等の先っぽで、紅ザケをほぐす。ほんの少ーしだけ身を取って顔に近づける。
なんともイヤ〜な気持ちになった。
「さぁ~て、テレビテレビ」
リモコンでテレビのボリューム上げた。
どさくさに紛れて箸の先っぽのほんの少ーしのサケを、皿に戻す。
CMで、猫がうまそ~にキャットフード食ってた。
(猫飼いたい)
そんで、このサケを平らげてもらいたい。
秀司は魚は避けて、隣のサラダを食った。野菜は好きだった。肉はもっと好き。たまにはすき焼きとかしゃぶしゃぶとか食ってみてー。
タクワン食べながら、さりげなく、魚の皿を遠ざけてる息子に、両親は言った。
「食べなさい!」
「食べろ!」
それは無理な注文だった。
ランドセル背負いながら、秀司は通学路を歩いていた。
学校に行こうとすると、両親はほぼ決まって息子に声をかける。
「いってらっしゃい」
━━と。店の準備がとても忙しいとき意外は。
最近じゃあんまりなくなったが、わざわさ軒先まで出てきたりすることもあった。
秀司はそんなとき決まって声を返す。
「いってきます」と。
━━笑って。
自分が帰ってくると、その姿を確認すると、二人はいつもどこか安心したような目をする。
(もう大丈夫なのに)
見上げる空は青い。夏晴れだ。
今日は一学期の終業式。ランドセルは軽い。
▼次回▼
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