見出し画像

親の変化は、突然じゃない

久しぶりに実家のドアを開ける。

「ただいま」

声を出したとき、家の匂いが、前と少しちがう気がした。

そういうときのことを、書きます。



「急に、こうなってしまって」

私は認知症の方が通うデイサービスで働いています。介護福祉士です。

ご家族から、聞く言葉があります。

「急に、こうなってしまって」

でも、たぶん、急ではないんです。

変化は、何ヶ月も、ときには何年もかけて、ゆっくり進んでいます。毎日そばにいる人ほど気づけません。少しずつだから。昨日の親と今日の親は、ほとんど同じだから。

突然なのは、変化のほうじゃなくて、気づくほうなんです。

だから帰省って、こわい。

半年ぶり、一年ぶりに開けたドアの向こうで、進んでいた時間が一気に追いついてくる。


サインは、日常に溶けている

わかりやすい出来事が起きるとはかぎりません。徘徊とか、大きな物忘れとか、そういうことよりずっと前に、生活のほうが先に崩れはじめます。

冷蔵庫を開けてみてください。

同じ調味料が三本並んでいないか。奥に、いつのものかわからない容器がないか。買ったことを忘れて、また買っている。

郵便物を見てみてください。

未開封のまま積まれた封筒。役所から、病院から、電力会社から。
開けられないのではなく、開けても意味が処理できなくなっていることがあります。

ほかにも。

季節に合わない服。台所の焦げあと。
前は几帳面だった人の、片づかない部屋。同じ話を、同じトーンで、二回。

どれも単体では「まあ、あるよね」で済むものばかりです。

済ませられてしまうから、こわい。


「気のせいかな」と思ってしまう自分を、責めないでほしい

見つけた瞬間、心のどこかがすっと冷える感じ。あの感覚を、知っている人は多いと思います。

でも次の瞬間、こう思う。

まあ、うちの冷蔵庫だってひどいし。 疲れてただけかも。 年なんだから、こんなもんでしょ。

これは、怠慢じゃないです。逃げでもない。

こわいからです。

親が変わっていくことを認めるのは、こわい。
認めた瞬間に、自分の生活も変わることを、どこかでわかっているから。

私は落ち着いた顔をしているけれど、自分の親のことになったら、
たぶん同じように「気のせい」にするかもしれません。

だから、責めません。

ただ、その気持ちのまま、夏が終わって自宅へ帰ってしまうことだけが、心配なんです。


見て見ぬふりが、いちばん高くつく

早く気づけたご家族と、そうでないご家族。

その後に選べるものの数が、まったく違います。

早ければ、まだご本人が自分で決められます。
どこで暮らしたいか。お金のこと。これからのこと。ご本人の言葉で、ご本人の希望として。

遅れると、決めるのは家族だけになります。

そして家族は、あとから何度も、その決断を自分に問い直すことになる。「あれでよかったんだろうか」と。

見て見ぬふりのつけは、あとで、家族の心のほうに来ます。


それと、これは大事なこと

気になることがあっても、「認知症だ」と決めつけないでください。

もの忘れや様子の変化には、ほかの理由があることもあります。
脱水、薬の影響、うつ、耳が聞こえにくくなっただけ、ということも。そして治せるものも、あります。

だから、ラベルを貼るために確かめるんじゃない。

まだ手が打てるうちに、確かめるために、確かめるんです。


帰省中にできる、いちばん最初のこと

いきなり病院に連れて行こうとしなくていいです。たぶん、揉めます。

まず、話を聞くこと。

「最近、困ってることない?」 「郵便、多くて大変じゃない?」

責める言い方にならないように。
「なんでこんなことになってるの!」は、シャッターを下ろさせるだけです。

そして、ひとりで抱えないこと。

地域包括支援センターという場所が、全国の市区町村にあります。ご本人が行かなくても、家族だけの相談で大丈夫です。相談は無料です。

「まだ介護ってほどじゃないんですけど」

それでいい。むしろ、その段階のご相談がいちばんありがたいです。

きょうだいがいるなら、写真を撮っておくのもいいと思います。
冷蔵庫の中、積まれた郵便物。言葉だけだと「気にしすぎ」で終わってしまう会話が、写真があると前に進むことがあります。


納得するまで

「様子を見ましょう」と言われることも、あると思います。

その言葉で自分が納得できるなら、それでいい。

でも、もやもやが残っているなら、もう一度聞いていいです。
別のところに相談してもいいです。
あなたが感じた違和感は、あなたにしか感じられなかったものだから。

久しぶりに会うあなたにしか、見えない変化がある。


今年の夏、実家のドアを開けたとき。
実家の冷蔵庫を開けてみたとき。

もし、何かが引っかかったら。

気のせいに、しないでください。

そのひっかかりは、たぶん、当たっています。

いいなと思ったら応援しよう!

宇佐美ももこ@AI漫画が描ける介護士 よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! 励みになります!