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本当の自分って何?と思ってしまった夜|Masquerade 第二話

今日も来てくれてありがとう。
ようこそ、アトリエへ。案内人のルミナです。

ここは、音楽と言葉が静かに並ぶ場所。今日もひとつ、物語を置いていきます。いつものように、曲を聴きながら読んでみてくださいね。

前回は、
透明な仮面をつけたまま踊っていた彼女

誰にも気づかれない仮面。
そして、本人さえ気づいていない仮面。

でも。

もしある日、それが仮面だったと気づいてしまったら——
そのとき、人はどうするのでしょう。

外すのでしょうか。
それとも。

今夜は、その続きを。

Masquerade|第二話 揺れる仮面

朝の通勤電車は、昨日とまるで同じ顔をしていた。 同じ駅、同じ時間、同じような乗客たち。誰もがスマートフォンに視線を落としているか、窓の外をぼんやりと眺めている。真白ましろは吊り革を握りしめながら、人々の顔を観察していた。昨日よりも、少しだけ長く。

怒っている人はいない。笑っている人もいない。ただ、それぞれが「その人らしい表情」を顔に貼り付けている。 真白にはそれが彼らの本当の顔なのかどうかなんて、知る由もない。

会社に着くと、いつも通りに一日が始まる。
「おはようございます」
口をついて出たその声は、昨日と寸分違わない調子だった。上司と業務の確認をし、同僚と他愛のない雑談を交わし、パソコンを立ち上げる。何も変わっていない、平穏な日常だ。 それでも、自分の声を聞くたびに、真白はふと立ち止まりそうになる。

これは、本当に私の言葉なのだろうか。

昼休み。真白はカフェの窓際席に陣取り、スマートフォンを開いた。 SNSのタイムラインを漫然とスクロールする。友人の華やかなランチ写真、誰かの旅行の思い出、可愛らしい猫の動画。見慣れた景色が流れていく中、ふと、ひとつの投稿が目に留まった。

『この人、いつも優しすぎて逆に怖い。本当はどう思ってるんだろ』

それが誰の投稿だったのか、真白はすぐに忘れてしまった。けれど、その一文だけが棘のように頭の片隅に引っかかっている。

なんでも本音で話せばいいわけじゃない。
だけど、嘘の自分を演じているつもりもなかった。
誰かに優しくするときだって、そうしたいと思っていたから……
でもそれは仮面を被った別の私だったのだろうか。

 
午後の業務が終わりに近づいた頃。同僚が申し訳なさそうな顔を作って、真白のデスクにやってきた。
「真白、ごめん! 今日どうしても残業できなくて……このデータまとめるの、少しだけお願いできないかな?」

いつもなら、困っている相手を気遣う柔らかい言葉が、無意識のうちに引き出されるはずだった。
「大丈夫だよ。やっておくから、今度私が困ったときは手伝ってよね」
と、愛想よく微笑んで。
けれど、頭の片隅にこびりついたSNSの言葉が、そのフィルターを一瞬だけ狂わせたのかもしれない。

「……ごめん、今日は無理。自分の仕事なんだから、自分でなんとかしなよ」

自分でも驚くほど、冷たく突き放したような声が出た。同僚は一瞬だけ目を丸くして、それから誤魔化すように冗談めかして笑った。
「えっ、なんか今日すごく冷たくない? いつもならサクッと引き受けてくれるのに。どうしたの、真白らしくないじゃん」

悪びれる様子もなく笑いながら自分の席へ戻っていく同僚の背中を見つめながら、真白は息を呑んだ。

『真白らしくない』

その言葉が、耳の奥で冷たく反響する。 私らしいって、一体何だろう。いつも穏やかで、嫌な顔一つせず他人の仕事まで引き受けて、誰の気分も害さない「正解」の態度をとる。それが「真白らしい」ということなのだろうか。 だとしたら、今ふいにこぼれ落ちたこの棘のある言葉は、一体誰のものだったというのだろう。

あのSNSの言葉が言うように、これが私の隠していた「本当はどう思っているか」の答えなのだろうか。

自分を守っているつもりもない。何かを演じている自覚だってない。ただ、その場で一番息がしやすい形に、自分を合わせていただけなのだ。

帰り道。駅前の雑踏を歩きながら、真白は行き交う人々を見つめる。当然だが、誰も仮面なんてつけていない。それでもふと、思ってしまう。みんな、何かを身につけている。怒らない人。明るい人。静かな人。それぞれが自分に宛てがわれた「役」を着込んで、この街の中を歩いている。

その夜。真白は暗い部屋のベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見つめていた。 悩みなら、ある。仕事のこと、将来のこと、日々の小さな不安。けれど、それが自分の本当の気持ちなのかどうか、もう自信が持てなかった。その場でふと思ったこと。時間が経てば消えてしまうような、薄っぺらい感情。それすらも全部、本当の私なのだろうか。それとも、ただその瞬間に流れていた「空気」に同化していただけなのだろうか。

ふと、真白は気づく。 もしかしたら、私はもう仮面をつけているという次元ではないのかもしれない。素顔と仮面の境界線が、すっかり分からなくなってしまっているのだ。

それなのに、『本当の自分』という言葉の響きだけが、頭の中で鋭く光る。 その言葉が、急に冷たい刃物のように感じられた。ただ見せていないだけの心を、「隠している」と乱暴に決めつけられてしまう暴力性。逃げ場がなくなるような息苦しさ。
その一方で、無意識に押し込めていた負の感情を見透かされたような感覚に襲われる。

もし、今までの私がすべて仮面だったとしたら。その仮面を外したあとに、いったい何が残るんだろう。

洗面所に行き、鏡の前に立つ。そこには、いつもの自分の顔がある。

もしかして。 この鏡の中の顔すらも、すでに仮面だったのかもしれない。

窓の外では、夜の街が絶え間なく動いている。 昨日と同じ巨大な舞踏会が、今夜もまた始まっている。けれど真白は、自分がどうやって踊っていたのかを思い出せないまま、その遠い光をただ静かに見つめていた。

(最終話に続く)

『Masquerade II|揺れる仮面』

仮面と顔の境目が
少しずつ曖昧になって
外してるのか  なじんでるのか
もう分からなかった

守ってるつもりも
演じてる自覚もなくて
ただ息ができる
形をしてただけ

そんな私を見て
誰かが  笑った

分かったふりの声が
背中を撫でて
正しさみたいに 刺さった

何も言われず 見透かされて
心の温度が 変わっていく

知らないうちに 選ばされて
戻れない方へ 立っていた

本当の自分って 言葉が急に
刃物みたいに 光り出して

見せてないだけの心を 隠してると
決めつけられて 逃げ場が消えた

嘘をついていた のだろうか
分からないまま 立ち尽くして
問いだけが 遅れてきて
答えの形を 崩していく

何も言われず 見透かされて
心の温度が 変わっていく

境界なんて もう無かった
それなのに
これは
仮面だったのか
今になって 気づいただけ

生き延びるために
選んだ覚えもなくて
気づいた時には
そこにあった

仮面を作ったんじゃない
生きてたら
出来てしまった

あれは 嘘だったのか
それとも 名前を 持たなかっただけか

仮面は、外すためにあるとは限りません。
ただ、気づいてしまう夜もあるのです。
―案内人 ルミナ

 この街の舞踏会は、今日も続いています。

 
 
 

▽Masquerade ― 仮面舞踏会
 第一話
 第二話
 最終話


▼制作メモ
制作ツール:Suno / ChatGPT / canva / Gemini

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