わたしのロツレチハヒ【第4話「きしみ」】
「総文祭」
全国高等学校総合文化祭は言わば文化系クラブのインターハイだ。
我が鴨邑高校邦楽部は日本音楽部門に何度も出場してきた。
でもここ3年間は県代表に選ばれていない。
ボクは部長として皆とともに晴れ舞台への切符を手にしたい。
ところが、ここにきて不協和音が生じようとしている。
「わたしは反対です!」
一年生の日色かなえが声を上げた。
まさかボクと同じ尺八から謀反が起きるとわ。
しかも正座して演奏することが納得できないなんて冗談じゃない。
邦楽部員の風上にも置けない。
こっちこそ納得できないが口にはしない。
部活でもパワハラが問題になってるからな。ここは慎重に進めねば。
副部長の嵐山さんと目配せしてから答えた。
「そうか。一方的に提案したのはよくなかったな」
「あ、はい・・・」
彼女は拍子抜けしたようだった。きっとボクが説得しようとすれば、もっと感情的になったことだろう。
「もう一度よく検討する必要がありそうだな。日を改めて話しを聞かせてくれ」
「あ、はい・・・」
日色かなえがどう解釈したかはともかく、いったん収束した。
一部員としては尺八の練習に没頭すればよかったが、部長ともなればそうもいかない。
これからのことを考えると気が重いよ。
「総文祭」への道は険しい。
歴代の先輩方がどのような苦労をしてきたか、わかった気がする。
「桜井はなんで邦楽部に入ったんだ?」
入部してまもなく、部長の井口さんから聞かれた。
井口豊さんは尺八のパートリーダーでもある。だから質問の意図は「なんで尺八パートを選んだのか?」だろう。
音楽系クラブ合同による新歓コンサートで彼の演奏を聴いた。邦楽部は琴、三弦、尺八による合奏で二曲を披露した。
古典の『六段の調』と現代邦楽の『湖北物語』だった。演奏時間は合せて20分以上になる。
体育館に集まった新入生の多くが始まって3分ぐらいから退屈そうにしていた。
ボクは尺八が好きである程度知っているから楽しめたが、中には雑談する者まで出てきた。
邦楽部の人気のなさを目の当たりにして、なぜか寂しい気持ちになった。
しかし大きな収穫もあった。尺八の演奏が予想以上に素晴らしく、入部する決め手になったからだ。
そんな話しをしたところ、井口さんはニコニコしながらうなずいていた。
「尺八が好きなんだ。じゃ山本邦山は知ってるよな」
「もちろん名前は知ってます。でも、ジョン海山ネプチューンにハマって、純邦楽はあまり聴いてないっていうか・・・」
下手に話を合わせてもメッキが剥がれるのは目に見えている。素直に答えた。
「おおっ、ジョン海山を知ってんのか!いいねー」
「はい。父親が音楽好きでジョン海山ネプチューンのレコードを持っていたから。それで聴いてるうちに、尺八っていいなぁって」
「彼はハワイで禅僧に尺八を教わって魅力に取り憑かれたんだよね。日本に来て都山流の門を叩き、正座して挨拶するところから覚えたっていうから大したもんだよ」
「都山流と言えば山本邦山」
ボクはなんとか話しについていこうと試みるが甘かった。
「ジョン海山が入門したのは都山流の三好芫山さ。三好芫山は都山流大師範。山本邦山は都山流尺八の第一人者で人間国宝だからな」
「はぁ、そうなんですね」
「俺は誰かに尺八を習ったわけじゃないから流派は気にしない。でも都山流が山本邦山ならば、琴古流は青木鈴慕。この二人はよく聴いて学んだ方がいい。そもそも古典と……」
井口さんはことあるごとに尺八や邦楽についていろいろな話しをしてくれた。
ボクら後輩がたるんでいたらそれは厳しかった。
「全員正座して音出し20分」てな具合だ。
先輩達はそれ以上に個人練習をしていた。だからボクらもついていけたのだろう。
そうだよな。やはり今の邦楽部とくに尺八パートの「きしみ」を解消するには井口さんに倣うしかない。
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