ワンオペで長距離移動した話
「とやまえきから、つるぎとさんだーばーどにのるの!!!」
日曜日。
私は3歳の息子の手を引き、0歳の娘を抱っこ紐に入れ、富山駅にいた。
前日から富山県内の夫の実家に帰省しており、今日からは私の地元、大阪へと向かう。
翌日から仕事の夫とは駅でお別れ。
親子3人での旅路だ。
鉄道を愛してやまない息子は、帰省の日程を決めた12月の頭から、この日を楽しみにしていた。
初めて北陸新幹線とサンダーバードに乗れる。
そして、今回は息子専用の切符があるのだ。
普段は東海道新幹線の自由席(乗るのはいつも「ひかり」か「こだま」なので席の確保には困らない)を利用しているため、私は未就学児の息子の切符を買わずにありがたく乗車している。
しかし今回は、列車が混みあう年末の移動。
座れないのはあまりにもハードモードなので、予め私と息子、2人分の指定席を押さえておいたのだ。
購入から数日後、右上に「小」と表示された本物の切符を、「これ、息子くんの切符やで」と差し出した。
「これ!!ぼくのきっぷ!!」
息子は大喜び。
ひとしきり眺めさせた後、「なくしたら大変やからかーちゃんが持っとくわ」と私が言うと、息子は切符を返してくれた。
「ああ、本物なんだ」と真面目な顔をしていた。
背伸びして大人の真似をしたい盛りの息子。
自分だけの切符作戦はハマったようだ。
それから帰省当日まで、何度か唐突に「ねえ、ぼくのきっぷみせて!」とせがんできた。
そして、満を持してこの切符が役目を果たす日がやってきた。
富山駅で駅員さんから北陸新幹線のシールをもらい、早速にんまりの息子。
「息子君の切符やから、自分で改札に入れてね。大丈夫、ちゃんと出てくるから」
私は声をかけ、改札に向かう息子を見守った。
身長90センチ少々の小さな後ろ姿。
息子は自身より背の高い自動改札機に、腕を伸ばして切符を入れる。
『ぴょっぴょっ』
子ども用切符が自動改札を通った時のひよっこの音が鳴り響き、ゲートが開いた。
「それ、息子君の切符だから取ってね」
私が言うと、息子は安心したように出てきた切符を取り、私の方を振り返った。
「できた!!!!」
を絵に描いたような、満面の笑みとどや顔。
息子にはいつも親の切符を改札に入れてもらっているけれど、自分の切符を持ち、一人で通る改札ゲートは、これまでと一味違ったようだ。
大人へと一歩近づく切符と扉。
自分で歩みを進める息子を見て、この旅程を企画してよかったなと思った。(※まだ改札を通っただけ)
ホームには、すでに乗車予定の北陸新幹線「つるぎ」が控えていた。
「乗るのは何号車ですか?」
私は堂々とホームを歩く息子隊長に、席までの誘導をお願いすることにした。
最近数字を読むのがブームの息子は、乗る号車と座席番号を探すのも楽しそうだ。
『頼りにしているよ』
そんなこちらからのメッセージを受け取ると、張り切る子だ。
普段の甘ちゃんモードなら、「とーちゃんといっしょがいい」と言ってこちらを困らせるところなのだろうけれど、その気配はない。
無事に乗り込んだ。
見送りしてくれる夫が、列車の窓越しに姿を見え隠れさせてふざけている。
笑いながら夫に手を振り、私たちは出発した。
車両の座席の色。
見える景色。
停車する駅の名前。
すべてが息子には新鮮なようだ。
「ゆきがみえる!」
「つぎはなんていうえき?」
「ここはなにけん?」
息子のおしゃべりは止まることがない。
駅に着く度に、車掌さんに扮してドアの開閉をする真似もしている。
「ねえ、おかしいつたべるの?」
合間に、義実家で切り分けてもらってきたバウムクーヘンを食べることも忘れない。
えらく忙しい新幹線の車内である。
そうこうしているうちに、終着の敦賀駅に到着し、大阪行きの特急「サンダーバード」へと乗り換えた。
実は私は、こちらの移動の方が不安だった。
時刻は16時台。
日没時間が早いこの時期は、外が暗くなり始め、景色の見ごたえが半減してしまう。
北陸新幹線から移動続きで飽きてくる頃でもある。
停車駅も少ないため、私は列車での時間がとても冗長に感じられることを危惧していた。
列車は定刻通りに発車。
そして、発車からしばらく経った頃、不意に前方の車両のドアが開き、車掌さんが入ってきた。
比較的前の方に座っていた私たちのところに近づいてくる。
「これ、お子さんによかったらどうぞ。」
まだ若く、どこかあどけなさが残る男性の車掌さんが差し出したのは、北陸新幹線と、JR西日本の観光列車がプリントされたシールだった。
そして、私の膝の上で寝転がる娘に気づき、さらに続ける。
「あ、2人いるのか…!じゃあこの子用にもうひとつ。」
思いがけずシールを一気に2つゲットした息子は、またもにんまりとした。
シールは全お子達をときめかせるアイテムだと強く感じた瞬間である。
シールだけでももちろん息子は上機嫌なのだが、私は咄嗟にあることをひらめいた。
「車掌さんに、息子君の切符、見てもらう?」
人件費削減からなのか、北陸新幹線「つるぎ」にも、サンダーバードにも、今は検札が来ることはない(自由席だけ来るのか…?)。
せっかくの息子の切符に、検察の印が押されることはないのである。
普段からスタンプが大好きな息子。
私には、それが少し惜しいことに思えた。
息子は私の提案を聞いて大きく頷き、すぐに大事な切符を差し出した。
「お、これぼくの切符?めっちゃかっこいいやん!スタンプ押してあげようか??」
若い車掌さんは、息子の切符にしっかりと検札印を押してくれた。
切符を受け取り、目を輝かせる息子。
スタンプが押された切符を、愛おしそうに見つめる。
ああ、ありがとう。若き車掌さん。
息子と私の思いを汲んでくれて。
検札印には日付も入っていた。
毎日の日付をインプットするのも、息子のブームの一つ。
「じゅうにがつ、にじゅうはちにちだね!!」
自分で切符を握りしめて帰省する、記念すべき日が息子に刻まれたようだった。
下車する新大阪駅が近づくにつれて、息子は飽きて車内を歩き回るようになったけれど、何とかワンオペで新大阪駅にたどり着いた。
新大阪駅のホーム、最後尾の車両の前で、息子は車掌さんに手を振りながら列車を見送る。
先ほどの車掌さんが、手を振り返してくれた。
いつもなら「ばいばいしてくれた!」と言うだけの息子。
しかしその日は違った。
「しゃしょうさん、しーるとぺったんしてくれてありがとう。」
息子が自ら発した言葉は、車掌さんにも届いたのだろう。
若き車掌さんは、不意を突かれたような表情をした後、照れくさそうに笑った。
そのまま手を振りながら、私たちは発車するサンダーバードを見送った。
新大阪駅の有人改札で、切符を持って帰るための無効印を押してもらった息子。
最後に駅員さんから、特急「パンダくろしお」のシールをもらって、本日3回目のにんまりだった。
駅員さん、車掌さんなど、様々な人に助けてもらったワンオペ移動だった。
サンダーバードで私が網棚に入れようとしたスーツケースを、一緒に支えて代わりに入れてくださった外国人観光客もいた。
1人で3歳0歳を抱えて帰省するなんて無茶にも見えただろうけれど、やってみたら、なんとかなる。
自分は一人ではないのだなと、当たり前のことをまた思った。
誰かが助けてくれる。声をかけてくれる。
息子も、頼れるおにいちゃんになる。
今回の帰省で、一番人の温かさを感じ、ほっとしたのは私かもしれない。
一人で何とかしようと思う必要はない。
世間はたぶん、思ったよりも優しい。
そんなことを思いながら迎える年末。
来年も周りの人に支えられることが多いと思う。
きっと、最近にわかに心の成長を感じる息子にも。
でも、それでいいのかな。
自分一人では何もできないのに、人に頼るのが苦手だった。
何もできない自分も、頼れない自分も嫌いだった。
そんな私は子どもとの日々を通して、少しずつ世界を信じられるようになってきている。
大好きなものに目を輝かせる息子を、微笑ましく思うように。
手を差し伸べてくださる周りの方に、感謝の気持ちを抱くように。
頼ることでしか生きていけない自分のことも、愛してあげればいいのかなと思った。
1/4追記
は、初めて、note編集部の今日の注目記事で紹介してもらいました…!!!

(夜中1時、娘の夜間授乳中にスマホを開いて気付く。一気に眠気が吹き飛んだ。笑)
う、嬉しい…!!今年もいい年になるぞーー!
お立ちよりくださった皆様、ありがとうございます!!!
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誰かの夢やなりたい姿を伺うのも好きです。
まだ始まったばかりの企画。
超細々、超不定期に行っています。
読んでくださり、ありがとうございました!
