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0歳児を加えて1年半ぶりに北海道の奥尻島を再訪し、特に予定も決めずに過ごした話

「奥尻島行って何するが?何もないやろ?」

3月中旬。
「明日から北海道の奥尻島に行くから」と言った夫に対し、私たちの自宅に来てくれていた義父は、いつもの富山弁で、目を丸くして言った。

うん、確かに。
私は翌日からの旅に心躍らせながらも、義父の一言には頷くしかなかった。

季節は冬の終わり。
私たちが向かおうとしていた奥尻島は、もともとさほど観光地化されたところではない。おまけに寒さがまだまだ厳しい頃で、島といえば!のマリンアクティビティができるわけもない。

けれど、夫が1月中旬から3月まで育休を取ってくれることになってから、私はずっと奥尻島に行きたいと言っていた。
1年半前、8月の終わりに夫と当時2歳の息子と初めて訪れた奥尻島。
その時の景色やお世話になった宿の人たち、滞在中に感じた息子の成長が忘れられなくて、娘が家族に加わってから、いつか必ず再訪したいと思っていた。
シーズンオフで海にも入れないから、息子は退屈するかも、なんてことも思ったけれど、それはそれでまた思い出ができそうな気もしていた。


奥尻島は函館の西側に浮かぶ離島である(画像は奥尻町HPより)

そんなこんなで敢行した、4歳児、0歳児連れの5泊6日の家族旅行。
初日は、富山駅から新幹線で北海道の新函館北斗まで約1,200キロ北上した。

そして翌日、私たちは1年半ぶりとなる奥尻島へ向かうため、函館空港へと向かった。

前日降り立った新函館北斗駅から、快速列車で函館駅へ向かう。


新函館北斗駅には、地元の中学生が作ったペットボトルキャップアートが。地味にすごい。


空気は冷んやりとしていたけれど、広々とした畑に降り注ぐ朝日に、春の気配を感じた。


とはいえ朝はまだまだ寒かった

函館駅から空港へは、直行バスで行くつもりだったけれど、駅に到着するや否や、息子が一言。

「ろめんでんしゃにのりたい」

息子は前回の滞在のとき、函館で路面電車に乗ったことを覚えているらしかった。

路面電車で空港に行こうと思うと、途中で路線バスに乗り換えなければならない。煩わしさがあるとはいえ、なんとか飛行機の時間に合いそうだったので、息子の要望通り、路面電車に乗ることにした。

ここでも時間をかけて、函館空港に到着。
ローカル感漂う空港の入り口には、今時珍しい回転式ドアがあった。
息子にはその構造が不思議だったらしく、興味津々。
私は巻き込まれないように息子の手を取りながら、空港に入った。

滑走路には、1年半前に乗ったものと同じ、小さなプロペラ機が待っていた。
ひたすら息子を抱っこして滑走路を歩いた1年半前の夏とは異なり、息子も夫の手を引かれて堂々と歩いている。
時が経ったなぁと思った。
そして今日、娘は飛行機デビューを果たす。

私は娘を抱っこ紐に入れたまま、息子と夫が座る座席の1つ後ろの席に座る。
隣には大学生と思われる、ロングヘアの若い女の子が座っていた。
深緑色のニットと同じ色のネイルが、素敵な人だなと思った。

抱っこ紐を外し、シートベルトを締めて、娘を膝にしっかりと抱っこして、いざ離陸。
奥尻空港まで30分間のフライト、ぐずらずに耐えられるだろうか。

離陸後、シートの隙間から前の座席の様子を伺っていると、息子が前日に家から持ってきたバナナケーキをむしゃむしゃと食べているのが見えた。
相変わらず幸せな男である。

そこに、CAさんがやってきた。

「記念品、お子様にどうぞ。どれがいいかな?」

息子にとっては待ってましたのおもちゃタイム。
小さな飛行機の模型をゲットし、にんまりである。
保育園を休んで電車に乗っておいしいものを食べておもちゃをもらって、もう言うこと無しだろう。

一方、飛行機デビューとなった9ヶ月の娘は、着陸が近づくにつれてぐずぐずと不穏な空気を漂わせ始めた。
着陸の時はぎゃあぎゃあと大泣き。
私はどうすることもできず、おろおろと背中を撫でるしかできなかった。
隣の女性にも、すみません、すみませんと詫びるばかり。

どうやら気圧の変化で耳が痛かったらしい。
飛行機を降りる時に、同乗していたおばあちゃんに声をかけられた。

「赤ちゃん、耳が痛くなるから、次乗る時は耳を塞いであげてね。」

0歳児を連れて飛行機に乗る時の注意点くらいは予習しておくべきだったな。反省。

到着した奥尻空港には、冷たい風が吹いていた。飛行機のタップを降りて、滑走路を歩いて建物に向かう。
小さな小さな空港には、手荷物受取所のベルトコンベアもなく、荷物が台車で運ばれてくるところも1年半前と同じだった。
荷物を受け取って到着口の自動扉をくぐり抜けると、すぐに空港の出口があった。

迎えに来てくれていたレンタカー屋さんの車で、レンタカーを借りるお店へと向かう。
途中、スーツケースを転がしながら、歩道を一人で歩く女性が見えた。
見覚えのあるその姿は、飛行機で隣に座っていた女性だ。
観光だろうか。帰省先に向かっているのだろうか。
歩行者なんて一人もいない海沿いの道を歩く女性は、とても目立って見えた。

前回と同じレンタカー屋さんで車を借りた。
前回はチャイルドシート1つだったが、今回はジュニアシートも1つ追加してもらう。
(お店にジュニアシートの備品がなく、観光協会から借りてくださったらしい。ありがとうございます。)

車も借りたところで、私たちはまず、自炊用の買い出しをするために、島唯一のスーパー的機能を持ったお店に向かった。
滞在中お世話になる宿は素泊まり、かつ周りは食事をする場所も、買い出しをするところもないためだ。

自炊メニューは、とりあえず豚汁と息子リクエストの麻婆豆腐。
やっぱり離島は輸送費がかかるのか、野菜の値段は少し高めの印象だ。
とはいえ必要なものは一通り揃った。
わくわくと宿に向かう。

左手に海を見ながら、宿までの道を走る。
宿がある神威脇集落は、春の気配を感じるとはいえ、冬らしい厳しさや寂寥感が残っている印象だった。
岩肌に白波が打ち付けるのが見える。

宿が近づくと、息子が聞いてきた。

「うみは?はいれる?」

前回の滞在で、家族3人でカヤックに乗ったことを覚えているようだった。
今回は寒くてカヤックには乗れないけれど、海はいくらでも見られる。
息子の記憶が想起されていく様子が見えて、2歳でもちゃんと覚えているんだな、と妙に感心した。

今日から3泊お世話になる宿は、前回と同じ、ゲストハウスimacoco
家のようなアットホームな宿の雰囲気は、何も変わっていない。

「こんにちは〜!」

玄関を開け、リビングを覗くと、宿のオーナーの奥さんと、その日幼稚園を卒園した末っ子の娘さん、ヘルパーの女性、前日から泊まっているゲストの女性がいた。
ヘルパーさんとゲストの女性は初めましてだけれど、皆にこにこと人当たりが良くて安心した。

「これ、作ったからよかったら食べて〜!」

お菓子作りが好きな奥さんが、ブラウニーを出してくれた。

「ありがとうございます!今日の昼食です!」

飛行機の時間の都合上、昼ごはんを食べ逃していた私と夫は、早速喜んで口に運ぶ。
いちごと生クリームが乗ったくるみ入りのブラウニーは、奥さんの気遣いが感じられる優しい味だ。早速心が温かくなった。
こうして再訪を歓迎してもらえることが、本当にありがたい。


手作りブラウニー。くるみアレルギーの息子は、クリームといちごをぱくり。



息子はというと、来たことのある場所だとわかったのだろう。
誰かのお家のリビングのような談話スペースで、早速いろいろなものを物色している。
置いてあったジェンガを積み木に見立て、早速電車を作り出した。

そうこうしているうちに、仕事を終えたオーナーさんもやってきた。
夫と再会を喜びつつ、娘を加えて再訪したことを、とても喜んでくれた。
再会シーンが見られたこと、娘をオーナーさん夫婦に抱っこしてもらえたこと、そして、「ほんと、幸せだねえ〜!」と奥さんに言われた夫が、「幸せですよー!」と屈託なく言ってくれたこと。
全てが、すごく幸せだなと思った。
人が好きな娘も機嫌良く抱っこされている。お昼寝もせず、さながらアイドルである。

あたちだいにんき!

夕方になり、宿から徒歩数分の温泉に向かう。
私がこの島の滞在で楽しみにしていたひとつが、この温泉だ。

元は保養所(今も?)らしい、神威脇温泉


神威脇温泉は、塩分が混じった黄土色の泉質。お湯は42℃くらいと少し熱めで、体の芯からほかほかと温まる。
どことなく肌もすべすべになる(ように感じる)。
そしてお湯だけでなく、この温泉施設の昔ながらの古びた感じや、ディープな雰囲気が、私は大好きなのだ。

この日は息子と娘と3人で入った。どうやら張り切り屋の息子は、娘のお風呂を自分が手伝い、役に立ったと褒められたいらしい。
(正直息子がいるとあまりゆっくり入れないのだが)
脱衣所で娘の服の脱ぎ着を少しばかり手伝ってくれて、一応助かった。
娘はというと、お昼寝し逃した疲れなのか、熱々の浴槽でうとうとしていた。新生児の頃から看護師さんに「この子、風呂好きやね〜!」と言われていた娘。熱いお湯をものともしない子なのだろうか。

お風呂を出て、宿までの一本道を歩く。車はあまり通らない。
遠くに急な坂道が見渡せるこの道を歩きながら、ここは奥尻なんだな、としみじみと感じた。

冷たい風が吹き抜ける

空も海も、宿のすぐ後ろに切り立つ崖も、全て大きく見える。
広大な自然の中にいる自分は、やっぱり小さいんだなと思った。

宿に戻ると、今日から泊まるゲストさんがもう一人チェックインしていた。ロングヘアに深緑色のニット。なんと、飛行機で隣にいたあの女性だった。
彼女も私に気付いてはっとした顔をした。
「えーーーー!!!」と思わず声が出た。

こんな偶然があるのも、旅の醍醐味だ。騒がしくしたことを詫びつつ、この滞在がまた楽しみになった。チェックアウトまでの3泊、一緒に泊まり合わせると言う。
春から社会人の彼女は、以前この宿にボランティアで訪れたとのことだった。私も学生時代にこういうボランティアがあれば参加していたのかな、いや、多分勇気が出なかったかな、そんなことを思いながら、いろいろ話せたらいいなと思った。

この日は買い出しをしたスーパーの近くのお食事処 潮騒で夕ご飯。
私はトンカツ定食を、夫はお店の人気メニューだというあんかけ焼きそばを、ご飯が待ち遠しくてたまらない息子は月見うどんを注文した。
いかにも町の食堂風情のレトロなお店。仕事を終えた地元民らしき人も数人いる。親しみやすい食堂で、お腹いっぱいになった。

注文は三者三様
とーちゃんのやきそばちょーだい
(ぼくのうどんはあーげない)

シーズンオフの奥尻島。
観光する予定も、アクティビティに参加する予定もない。
やっぱり、息子には少し退屈かもしれないとも思った。

私がこの島に来たかった理由とは。

なかなか来れない場所だから。
宿の人たちに会いたかったから。
温泉に入りたかったから。

どれも正しい。でもそれだけではない気がしていた。
強いて言うなら、自然に囲まれてのんびりしたかった、が近いのだろうか。
この滞在中に、少し言語化できたらいいなと思った。

これから2日と少々、決まった予定はない。
私は宿に貼ってあった、タイ古式マッサージのチラシが気になった。
聞くと、予約すれば、宿から歩いてすぐのところで施術をしてくれるという。
そして、施術者は夕飯をいただいた食堂が実家という男性だった。

翌日、子どもたちを宿と夫に預けて、私はマッサージに行ってみることにした。
奥尻島にまで来て何をしているのだろう。
でも、とても楽しみだった。

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