はやぶさこまちのトレーナーを身に纏った4歳児を連れて、新幹線で約1,200キロ先の新函館北斗を目指した話
「きょうははやぶさこまちのれんけつと、つばさはやぶさのれんけつみるの〜〜〜」
朝5時過ぎに目を覚ました4歳の息子は、寝ぼけているのか、なぜか泣きながらそう言った。
「そうだね。前から楽しみにしてたもんね。今日新幹線に乗るよ。」
3月中旬、私たち家族は5泊6日の大旅行を敢行した。出発の日、私たちは東北地方を新幹線で走り抜け、北海道を目指すことにしていた。
「これきる!!」
頭がシャッキリと目覚めたのか、しばらくすると機嫌を直した息子。右手に持ち、高々と掲げたのは、東北地方を走る新幹線「はやぶさ」と「こまち」がプリントされたネイビーのトレーナー。息子のお気に入りだ。
何を隠そう、今日は東北地方の新幹線、「はやぶさ」と「こまち」に初めて会える日。
記念すべき旅の日の制服としてはバッチリだ。
夫が1月から3月まで育休を取ってくれると決まった頃から、私は「家族で北海道に行きたい」と言っていた。
1年半ほど前に、当時2歳の息子を連れて訪れた、北海道の奥尻島を再訪したかったというのが主な理由だ。昨年5月に娘が生まれ、4人での来島を叶えたいとずっと思っていた。
今回は、私の念願が叶う旅。加えて、息子の夢も叶う旅にした。
息子は以前から、本や図鑑で東北地方を走る新幹線を見て、「のってみたい!」と言っていたのだ。そこで、お金と時間は余分にかかるけれど、北海道まで新幹線でアクセスすることにした。東北地方を縦断し、開業10周年を迎える北海道新幹線で、青函トンネルをくぐる。(夫よ、旅程を組んでくれてありがとう)
出発は、北陸新幹線の富山駅。
乗り換えは4回。
途中の福島駅では、山形新幹線「つばさ」と東北新幹線「はやぶさ」の連結・切り離しを、盛岡駅では、秋田新幹線「こまち」と東北新幹線「はやぶさ)の連結・切り離しを見る。
乗車時間約6時間、乗り換え待ち時間約3時間(連結・切り離しを見るために下車しなければ、本当は1時間くらいのはずだ)の合計9時間。
北海道新幹線の終点である、新函館北斗駅まで、約1,200キロの大冒険だ。

画像はhttps://www.nippon.com/ja/features/h00077/より

5:40 自宅 発 → 8:43 富山駅 着
6時前に車で家を出発。この時期にしては暖かく、よく晴れた日だった。すでに明るくなり始めた空を見て、もう春なんだなと思った。
(そして娘よ、バタバタしていて朝一の授乳をほとんどしなかったことを許してくれ)
走ること2時間弱。帰りは飛行機で帰ってくるため、一旦富山空港に車を停める。朝早くの富山空港は、飛行機の発着予定もなく、誰もいない。

わくわくとハイテンションな息子と空港を少し探検し、路線バスで富山駅へと向かった。
道中の道も空いていて、新幹線までの時間には余裕がある。幸先良いスタートだ。
富山駅から、まずは東京行きの北陸新幹線「かがやき」に乗る。
かがやきは全席指定のため、息子の切符もある。息子は家族の先頭に立って、「ぼくについてきて!」と言いながら堂々と改札を抜けた。
9:26 富山駅 発 → 11:11 大宮駅 着
ホームには、9時26分発のかがやきが停まっていた。
年末に同じ車両の「つるぎ」に乗った時のことを覚えているらしく、「ぼく、これのったことある!」とどや顔の息子。
車両番号と座席番号を私に示されながら、息子は自分で席を探して座った。年末に乗った時と同様、先頭に立つのが嬉しそうだった。
(年末に乗った時の話はこちら)
発車してすぐに、ご飯で頭がいっぱいの息子。
朝ごはんにと富山駅で買った大きなてんむすを頬張り、ご満悦だ。
加えて夫が買った鱒寿司をもらい、私が買ったお弁当のおにぎりを見て「こんなおにぎりあるんだ〜〜!!」と至近距離で見つめながら私に圧をかける。
しょうがないなと、私は一口息子にあげた。

1時間40分の乗車はやや長かったようだが、かがやきは無事に乗り換えの大宮駅に到着した。大きなビルが立ち並ぶのが見える。外はよく晴れて暖かそうで、もう自宅から遠く離れた大都市に来たのだな、と思った。
11:25 大宮駅 発 → 12:31 福島駅 着
新幹線の大宮駅は、思ったより古びていて薄暗い印象だった。
東北新幹線のホームまで乗り換え、次の新幹線を待つ。
ほどなくして、ホームに東北新幹線「やまびこ」が到着した。
初めて見る東北の新幹線に、私もとてもわくわくした。知らないところに連れて行ってくれる、魔法の乗り物のように見えた。
ああ、家族で旅をしているんだな、息子の夢が叶うんだなと、嬉しかった。
私がこれまでの人生で見た新幹線は、そのほとんどが東海道新幹線か山陽新幹線だ。
「新幹線といえば、白地に青ライン」の私にとって、山形方面へ行くE8系のオレンジのラインと、仙台方面に行くE5系のエメラルドグリーンのボディが、目に鮮やかだった。

やまびこの自由席は思いの外混雑していたけれど、次の宇都宮駅からは乗客が減った。そこから30分少々で、福島駅に到着。
時刻は正午を回っている。
富山駅から約3時間。2本の新幹線に乗るだけで、もう東北地方まで来れてしまう。すごい乗り物があるものだと、妙に感心した。
福島駅には立ち食いそば屋さんがあった。その昔ながらの懐かしい佇まいが逆に新しかった。

連結・切り離し見学@福島駅
私は息子と夫を置いて、抱っこ紐の娘と共に福島駅の駅ビルへと向かう。
旅の前日、所属しているオンラインサロン「京都くらしの編集室」でご一緒している仙台在住のライター、すずきちえさんから東北地方のおすすめグルメを聞いていた。そこで名前が挙がった、福島銘菓を買うためだ。
駅直結のショッピングセンターをしばらく歩くと、すぐに見つかった。
買ったのは、株式会社三万石が販売している「ままどおる」
期間限定のチョコレート味と迷いながら、今回はプレーン味を購入。
「QRコードをかざしてください」
PayPayで払おうとすると、レジの若いお姉さんが言った。
ふと、「QRコード」の「ド」にアクセントがついているのが気になった。
東北訛りだろうか。聞き慣れないアクセントに、またテンションが上がった。私は旅好きが高じて、自称方言フェチなのだ。
そういえば、私が鉄道旅を愛する理由のひとつが、その土地の方言を聞けることだった。ああ、段々と移動しているな、自分の知らない世界に足を踏み入れているな、それをじわじわと感じるのが、なんとも楽しいのだ。
子どもが生まれてからは、どうしても車や飛行機を使い、目的地までぴゅーっと移動する旅が多い。久々にこの「移動しているなぁ〜〜〜!!!」の感覚と再会し、体じゅうから喜びが溢れた。
お菓子を購入し、福島駅に戻ると、ちょうど山形新幹線つばさと東北新幹線はやぶさが連結するところだった。
初めて見る連結シーンに、息子は釘付けだ。

まずは無事に第一の目的を果たせて、私もほっとした。
次の新幹線を待つ間に、待合室で先ほど買った福島銘菓「ままどおる」をいただく。

ほのかにバターが香る生地の中に、優しい甘さの白餡が入っている。
素朴だけれど、上品な味わいのお菓子だった。
息子も大喜びで、いつもバクバクとあっという間に食べるのに、名残惜しそうにちびちびと食べていた。「旅って最高!」とでも言いたげな表情をしている。
13:37 福島駅 発 → 14:04 仙台駅 着
福島駅から、終点の仙台駅はあっという間だった。
仙台駅は、さすがに東北地方一の大都市らしい混み具合。私たちは人混みにキョロキョロしながら、ちえさんおすすめの仙台グルメを探索する。
仙台といえば牛タンのイメージだけれど、今回は子どもでも、そして列車の中でも食べられるグルメをお聞きし、老舗の餃子店を教えてもらったのだ。
そのお店は「元祖仙台ひとくち餃子 あずま」。駅ビルの中に店舗を構えている。
今回は家族で食べられるよう、ひとくち餃子を購入した。
買う前から餃子で頭がいっぱいだった息子。買った餃子を持つと言って聞かないのでその手に袋を渡す。
案の定、5秒後には餃子のパックが縦になっていた。
続いて、ご当地グルメ「ずんだ」を使ったシェイクのお店へ向かう。
一応、私は息子に「お団子とかもあるよ?」と提案した。
しかし並ぶ列の大半の人がシェイクを買っているのを見て、息子は「じゅーすがいい」の一択。説得むなしく、息子は大人用のショートサイズを手に入れた。
それまでやや眠そうだったが、ずんだシェイクで今旅一番の超ご機嫌に。
(大人と半分こ、なんていうと大癇癪必至なので、今回は息子の希望を叶えることにした。ちなみに大人は2人で1本である)
14:53 仙台駅 発 → 15:32 盛岡駅 着
駅散策を済ませ、仙台駅のホームに戻ると、連結した「はやぶさ」と「こまち」が到着した。
図鑑で幾度も見てきた秋田新幹線、E6系。
レンジャーの主役を彷彿させる真っ赤なボディを初めて見て、何だか感動を覚えた。これは確かに格好いい。
この新幹線は、切り離しが行われる盛岡駅までの乗車だ。息子は「こまちに乗りたい」とのことなので、こまちの自由席へと向かった。

車内では、息子はお待ちかねの「ずんだシェイク」に舌鼓。
お豆と牛乳のまろやかな甘味は息子に大ヒットしたらしい。
丸々1杯を、慈しみながら味わう。
これだけ喜んで飲まれれば、ずんだシェイクも幸せだろうとすら思った。
(そしてそんな息子を見て、ああ大人も一人1本買えばよかったなと思う私である)
甘さ控えめ、豆の香りをしっかりと感じられるずんだシェイクは、私も夫も大満足だった。

息子の縦向き運搬に耐えた「あずま」のひとくち餃子も、餡の野菜がシャキシャキで、個人的にとてもお気に入りだった。一口サイズで食べやすく、冷めていても箸が進む。
地元ではそれなりに名を知られているようで、私の地元の大阪でいう、551の少し小規模版といったところだろうか。
ちえさんによると野菜は地元産らしく、そういった情報も含めてとても手作り感のある餃子に感じた。いつか仙台を再訪した時は、ぜひ店舗でも食事をしてみたい。

連結・切り離し見学@盛岡駅
40分ほどで、盛岡駅に到着した。
切り離しを見た後は、いよいよ、はやぶさとこまちの連結である。
今朝から張り切ってはやぶさとこまちがプリントされたトレーナーを着て、はやぶさのリュックを背負ってここまで来た息子。夫に肩車されながら、今か今かとその瞬間を待つ。
ホームには同じような親子連れや、大人のファンも多数いる。
福島駅で見た連結と比べて、ずいぶん賑やかだった。

子どもを肩車しながら、動画を撮影しながら、新幹線の連結部分に集まる人が徐々に増える。
息子の隣では、同じ年頃の男の子がお父さんと思われる男性に抱っこされている。彼のコスチュームは、こまちの服とリュックだ。はやぶさ仕様の息子と並ぶとまるで小さなお笑いコンビであり、なんとも微笑ましかった。

別々の新幹線が連結して走り、途中でくっついたり離れたりするのは、恐らく東北地方だけだろう。それぞれの新幹線に特徴的なカラーリングを採用し、子どもに大人気の東北の新幹線たち。
実際に乗ってみると、座席の座り心地もよく、トイレも広くて快適だった。東海道新幹線と比べて、どうしてもビジネス利用が見込めない分、「乗って・見て楽しい新幹線」を追求したのだろう。JR東日本の戦略に、思わず感心した。
そんなことを思っていると、先に待っていた「はやぶさ」のホームに連結予定の「こまち」が入線してきた。車両が連結作業に入る。係員さんたちが無線で連絡をとりながら、連結部分が近づいてくる。
がちゃん
息子が見るDVDで何度も聞いていたのと同じ金属音を響かせ、新幹線は連結した。

時速300キロにも迫るスピードの新幹線を連結するこのジョイント部分。開発にどれほどの苦労があったのだろう。
過去にはシステムエラーで走行中に連結が外れたこともあると聞く。
開発者と製造者、そして鉄道会社とそれにまつわる皆様の苦労が偲ばれる。楽しみをありがとう。息子は本当に喜んでおります。
連結を見ると新幹線がとても愛おしくなって、拍手したい気分だった。
息子は連結の指示を出す係員さんを真似て、DVDで覚えたセリフを喋り続けている。
連結が完了した車両の扉が閉まった。
これから、新幹線は東京駅へと向かう。
扉が閉まったのを確認して、息子が大きな声を出した。
「はっしゃ、よし!!」
その声にタイミングを合わせるかのように、新幹線が発車した。
「よかったやん!息子くんが『はっしゃ、よし!』って言ったから新幹線発車したんやで!」
私の出まかせに、息子はとても嬉しそうだった。タイミングを合わせて号令をかけられたことは、息子の心に刻まれたようだ。

16:37 盛岡駅 発 → 18:29 新函館北斗駅 着
盛岡駅の駅ビルで夕飯を購入し、ついに私たちは新函館北斗行きのはやぶさに乗車した。ここからは辺りが暗くなり、車窓も臨めない。
娘を連れて、私は授乳をしに新幹線の多目的室に向かった。娘も連れ回されてくたびれているだろう。ついてきてくれて、ありがとう。お兄ちゃん、大喜びだよ。
席に戻ると、息子は夕飯をテーブルに置いたまま、充電が切れたように寝ていた。起きてからもう12時間以上、一睡もせずにハッスルしていたのだ。途中で飽きるかなと思ったけれど、組んだ予定を全てこなした息子。本人の希望とはいえ、頑張ったねと思う。
新青森駅を過ぎ、目を覚ました息子も含み、3人席に皆で並んでお弁当やサンドイッチを食べた。

そして、真っ暗な青函トンネルに入った。もっと長いかと思っていたが、案外あっという間だった。
ふとあたりを見渡すと、お客さんは随分と少なかった。
北海道に新幹線が通ったと言っても、本数は1〜2時間に1本。
申し訳ないが、日本全国の多くの人にとって、北海道に行くなら飛行機の方が安くて早い。
経営は厳しいのかもしれないけれど、それでも全長53キロの青函トンネルを、わずか25分ほどで颯爽と駆け抜けていくのは圧巻だった。この地域に新幹線を走らせようと奔走した人たちには頭が下がる。
この新幹線が、地域の経済の発展に貢献してくれたらいいなと思った。
そして、18時29分、ついに私たちは新函館北斗駅に到着した。

家を出発してから12時間少々。4歳児と0歳児と共に、陸路で北海道まで来たのだ。
ホームエレベーターが二重扉になっていて、ここが北の大地であることを実感した。
新函館北斗駅周辺は、だだっ広くて街という街は見えなかった。夜だったこともあり、駅の中はとても静かだ。
最後にその日使った切符に無効印を押してもらった息子。スタンプには北海道の形が描かれている。
窓口にいた4名の駅員さんが、皆息子に微笑みかけてくれた。
利用者は多くないかもしれないけれど、お客さんひとりひとりを大切にしてくれる駅なのだろうなと思った。

その日はすぐに寝つき、朝まで熟睡した息子。
夢がたくさん叶った1日になっただろうか。
ずんだシェイクを手にした時のご満悦な表情や、新幹線の連結ー切り離しを待つ時のわくわくとした真剣な目。「はっしゃ、よし!」と言った、大きな声。そんなイキイキとした息子とたくさん出会えた日だった。
大きくなった時に、息子がこの日のことを覚えているかはわからない。けれど、今でも時折「ぼくがはっしゃ、よし!っていったから、はやぶさこまちがはっしゃできたの!」と思い出話を聞かせてくれるから、印象には残ったのだろう。
もう一度同じ行程を旅することは、多分ない。けれど、だんだんと目的地が近づいていくのを肌で、耳で、目で感じられる鉄道旅が、本当に楽しかった。私はやっぱりこんな旅が好きだと思った。

翌朝。泊まったホテルの朝食バイキングは魚介類が豊富で、個人的にとてもとても幸せだった。函館に来たなぁ、と嬉しくなった。出汁茶漬け用のほたて出汁を、いつまでも飲んでいたいと思った私である。
まだ序盤だけれど、すでに濃密な旅になっている。
一見無茶すぎるような、4歳0歳連れの鉄道旅。
いつかこの日のことを、息子と笑って話したい。
4/6追記
4/3の「今日の注目記事」に選んでいただきましたー!!👏👏

長い長い長旅記事になりましたが、読んでくださった皆様、ありがとうございます!!
いろいろと育児エッセイを書いています。
ローカル線偏愛家です。
読書感想文も書いています。
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ただいま、5月を目処に自作のZINEも作成中…!
誰かの夢やなりたい姿を伺うのも好きです。
2026年6月にサービス化してリリースできたらいいなぁと画策中。
