女王様とスイカと私 ー表銀座テント泊縦走ー
「三多摩大学山岳部が、夏合宿で歩いた道をたどりたい」
漫画「山を渡る」に憧れた私は、燕岳~立山縦走10daysと同じ道を歩いてみようと思い立つ。全部は歩き切れなくても、表銀座縦走路+双六岳周辺散策とかなら、きっと歩ける。
最長で6泊7日のテント泊の予定で、燕岳登山口までやってきた。
🐾前回のお話はこちら☟
DAY1 中房温泉~燕岳 ↑1411m ↓170m 🐾5.9km ⏱9h
第1章 北アルプス三大急登、そしてスイカの目覚め
いよいよ、1日目。旅の始まり!
昨日は(売店で酒を物色していたら)電車に乗り遅れるし、急いで飛び乗った電車は逆方向行きだし、トラブル続出。不吉だ、ほんとに大丈夫なのか……。不安はあるけど、とにかく登らないことには始まらない。うん、覚悟を決めよう。
燕山荘までは、北アルプス三大急登と呼ばれる合戦尾根(かっせんおね)を登る。標高差は約1300m。高い段差や階段が延々と続く。そこを縦走一日目のMAXに重いザック(今回は20kg)を背負って登るなんて、いったい何の拷問だろう?
とはいえ、この道を登るのは2回目。対策はしっかりと立ててきた。
詳しい(?)地図とともに説明しよう。

地図でもわかるように、等間隔にベンチがあるから、これを目印に登っていくとペース配分や対策がしやすい。
①中房温泉~第1ベンチ
登り始めから、ドギモを抜く急階段の連続。朝イチで涼しいこと、登り始めで体力満タンのアドバンテージを生かしつつ、ゆっくり登って体力温存。
②第1ベンチ~第2ベンチ
登っても登っても、同じような景色と急階段。メンタル崩壊。推しグッズなど、メンタル回復要員が欠かせない。
③第2ベンチ~第3ベンチ
平坦な道のあとに現れる、後半の登りが殺人級。脚の筋肉が限界を迎えるけど「気のせいだ」と思い込む、自己暗示の習得が必須。
④第3ベンチ~富士見ベンチ
正気を保ったままでは登れない。悟りを開いて登る。
⑤富士見ベンチ~合戦小屋
スイカ!スイカ!スイカ!!!!
か・ん・ぺ・きっ\(^o^)/
この非の打ちどころのない緻密な計画があれば、絶対に登り切れる!
5時すぎ、少しでも涼しいうちに標高をあげておこうと、急いで中房温泉登山口を出発した。

登り始めから高い段差の連続。一歩ごとに踏み出した脚に、かなり負荷がかかる。これがあと5、6時間も続くなんて、信じられない。
とはいえ、第1ベンチ、第2ベンチまではまだ体力に余裕がある。問題はその先。
第2ベンチでひとやすみ。塩羊羹の塩味が身体に染み渡る。山に登ると塩の偉大さを思い知る。羊羹をもぐもぐ食べながら、ぼんやり考える。「あぁ……やっぱ、進むしかないよなぁ」。
この道を歩くのは2回目。だから私は知っている。この後、地獄がやって来ることを。

休憩を終えて歩き出すと、しばらく平坦な道が続く。「なんて平和な景色! 幸せー♪」。……とか浮かれてはいけない。前半が楽なぶん、上げるべき標高が後半に集中。連続階段の急登ボディブローが容赦なく打ち込まれる。
さらにこの時間帯になると、太陽の照りつけが激しい。いくら標高が高いといっても、暑いもんは暑い。必死で北ア三大急登に食らいついている身体は、沸騰寸前だ。
「ベンチ……第3ベンチは、まだ……なのか?」
ところどころ、足場が悪くて手を使わないと登れないような段差もある。前回、ここを登ったときには、このあたりから脚つりの兆候が出始めた。だから、今回は脚つりを最大レベルで警戒。
水を飲んだら、必ず粗びき岩塩をペロッと舐める(うそのようなホントの話、山で食べる岩塩はマジでウマいので試して欲しい)。無駄に脚に負担をかけないように、大きな段差も丁寧に乗り越える。
そして脳内には、あるワードがこだまし始める。「スイカ、スイカ、スイカ……」。だんだん脳みそがスイカに侵食されていく感覚。「スイカに洗脳されている」。そう気が付くころには、もう手遅れ。この山では、誰もがスイカの魔の手からは逃れられないのだ!
第二章 史上最強日傘、登場

「第3ベンチ、ついたぁぁぁ!」
歓喜の雄たけびをあげたいところだけど、安心するのはまだ早い。ちょうど、下山の人たちも通過する時間。休憩場所は大混雑だ。そして、樹林帯にもかかわらず、日当たり良好な立地。
「山って涼しいんだよね?」なんて幻想は消し去って欲しい。標高が高いぶん、突き刺す日差しの暑さは想像を絶する。まるで鉄板の上で焼かれる肉状態だ。だれもが、わずかに残された日陰を求めて右往左往。そんななか……。
ふふん。私はガラ空きの日なたに悠々と腰を下ろす。そして、おもむろにザックからあるものを取り出した。

みんな大好きモンベル、サンブロックアンブレラ55
この日傘の威力は並みじゃない。鉄板焼きレベルの山の直射日光。そのまま浴び続けたら、休憩どころか生命の危機だ。とくに稜線に上がってしまえば、樹木がないから日陰なんて一切ない。
みんなが悲鳴を上げて焼け焦げていくなか、これを広げて涼しい顔で休憩をする快感! そして羨望のまなざし!(……を浴びているかは知らんけど、まぁ私の妄想なんでw)
それに、高山帯の夏山はたいてい午後になると夕立があるし、縦走だと全部の日程が晴れってことは稀。行動中は雨具を着ればいいけど、テント場ではそういうわけにはいかない。外に出るたびにそんなことしたら、室内がびしょびしょになるし、なにより面倒くさい。だから傘は必須装備。忘れたら発狂レベル。
史上最強の日傘のおかげで、のんびり休憩することが出来た。そろそろ、先へ進まなきゃ……。そう思うけど、お尻はさらに重い。第3ベンチから富士見ベンチ。最後の試練であり、もっともキツい区間だからだ。


この区間は、ただひたすら「キツかった」としか覚えてなくて、数少ない残っている写真を見て「あぁー、こんな感じのとこあったかも」って思い出した。
幸い、今のところ脚つりの兆候はない。覚悟を決めて歩き出す。もう満身創痍で、気力だけで登っている。「スイカ、ビール、スイカ、ビール……」。無心?にそれだけを唱える姿は、まるで悟りを開いた行者のようだ(ぜったい違う)。立ち止まる回数が増えてきた。目の前の壁をまえにして、いったん気合を入れないと動き出せない。
「また止まっちゃった……。もう何度目だろう」。うなだれている私に、下山してきたお姉さんが声をかけてくれた。
「このうえが、富士見ベンチですよ! もう最後です、頑張って!」
いつもは声をかけられたら見栄を張って、笑って返事してる。でも、この時はきっと、「よかった、助かった……」っていう情けない顔だったんだろうなと思う。でも、このお姉さんの言葉のおかげで最後の階段を登り切ることが出来た。
「やっと、ここまで来た……」

第3章 人生最上のスイカを、君は食べたことがあるか

富士見ベンチの上は、ちょっとだけ岩々の登りがある。それを乗り越えれば、スイカまで天国のビクトリーロードだ。最後の岩場を越える。すると、木々の間から稜線が見えた。

見えた! 今から目指す稜線だ。「いける、ぜったい登れる」。
私はウン十年、いっさい運動なんてすることなく生きてきた。だから自分の体力や精神力についてはかなり懐疑的。とくに精神力はお豆腐レベルで、「しんどい、無理!」「今日はちょっと気分がのらないなぁー」と撤退したことなんて数えきれない。
だから、かなり目標に近づくまで「本当に登れるのかなぁ」と思い続けてるし、いつ撤退することになるかを考えながら登ってる。
だからこそ、目標を捉えて「いける!」と確信したときの感情の高ぶりは相当だ。ラスボス戦のクライマックスで流れる音楽が鳴り響く程度には、完全に勇者モードになる。
……けど、今の私は稜線を目指す勇者じゃなかった。なぜなら、

合戦小屋スイカまで、あと10分!!
うおぉぉぉぉ!! 脳内で全ワタシが雄たけびを上げる。地響きのように私の魂を震えさせる鬨(とき)の声。あと10分、あと10分! もはやスイカしか見えていない。
スイカに向かって突き進む私の目に、ふとある景色が目に入った。

大天井岳と常念岳に続く稜線!
明日の今頃は、あそこを目指して歩いてる。あんな遠くまで行けるのかな? ていうか、最後の登り、めっちゃキツイじゃん……。ううん、でも、ここまで来たんだから、ぜったい行くんだ。
明日歩く道を見て、少し弱気になる。それでも、もう引き返す選択肢はない。だって……、

スイカまで、あと5分だから!!
明日の不安も恐怖も、この疲労さえも、すべてを打ち消すスイカ!
それまで、あと5分。もう前に進むしか選択肢はない。
「いや、でもさっきの看板から、もう10分歩いてるけどね」
と一人で毒づいていると、後ろから「えっ、もう10分歩いたよね……」と同じ会話が聞こえてきて笑ってしまった。

最後の階段の上に、小屋の建物と、真っ赤なスイカを思わせるのぼり旗が見えたとき、「助かった……なんとか生き延びた」と思うだろう。
でも、安心してはいけない。ここは危険なトラウマ階段なのだ(↑キャプション参照)。気を抜かずに、一歩ずつ慎重に歩く。ソロリソロリ。
無事に小屋に着くと大盛況で混雑してる。座る席を何とか確保。そして……

あぁぁぁぁ、もう、頭から果肉にダイブしてもいいですか!?
断言してもいいけど、人生で一番おいしいスイカは、合戦小屋で食べるスイカです。全国のスイカ好きさん、ぜひ、合戦小屋にスイカを食べに来てください(小屋の回し者ではありませんw)。

うどんもウマいけど、なんといっても汁の塩分がたまらん……!! 山菜そばだけではヘルシーすぎるので、ちくわ天もトッピング\(^o^)/
合戦小屋で思う存分、HP回復をしたら、いよいよ目的地燕山荘へ。
ここからは傾斜がグッと緩む。あぁ、なんて平和な道! とはいえ、もう1000m越えの標高を登り、行動時間は4時間。普段ならスイスイ登れる斜度も、ノロノロ登るのが精いっぱいだ。でも、どんなにゆっくりでも、脚を前に出し続ければ絶対にたどり着ける。
「ここまで登って来たんだ」っていう自信が、私の背中を押してくれる。
第4章 白き女王様

ようやくたどり着いた合戦沢の頭。やっと稜線にあがって展望抜群……のはずだったけど、あれだけ直射日光をガンガンに降り注いできた青空は、すっかりガスに覆われていた。まったく、何も見えない……そんな、バカな!
ここまで上がってきた登山者の誰もがガッカリしていた。これじゃ燕山荘まで行っても、槍ヶ岳へと続く大展望は見られない……。
そんなとき、下山してきた男性から「稜線の向こう側は晴れてますよ! 絶景が待ってますよ!」とエールが飛んできた。
何だってーーー!!
そんなこと聞いたら、もう頑張るしかない。そして、そして、裏銀座眺めながらビール飲みたーーーい!!
念願のスイカを食べた今、次に私を突き動かすもの。それは、ビールだッ!!(えっ、山じゃなくて?)
合戦沢の頭から燕山荘までは、斜度は緩いといっても200mくらいの標高差がある。簡単だけど足場の狭いトラバースや鎖場もあるから、最後まで気は抜けない。
「もう歩けない」「でも、晴れているうちに主稜線に上がりたい」。そんな気持ちがせめぎ合う。

じょじょに近くなる燕山荘。まるで崖の上にたつ魔王城みたいな貫禄だ。もうすぐ、あそこに届く。あと少し!

燕山荘直下のトラバースはお花畑。標高の高いこんな険しい場所に、高山植物が咲き乱れる光景には心を癒され……たいところだけど、最後の階段を上ることに必死。でも、前を見ればそこに……、

着いたぁぁぁぁーーーーーーーー(泣)
そして、空が、青い。ここを登りきった先にある景色を想像する。それだけでもう胸がいっぱいだ。見たいような、怖いような……ドキドキしながら主稜線へと上がる。

どの山に登っても、どんな景色を見ても、「あぁ、このために私はここまで歩いてきたんだな」と思う。いつか必ず山に登れなくなる日はやって来る。それまでに、後悔しないように。脚が動く限り、山に登りたい。そう思わせる景色がそこにある。

さて、いつまでも浸っていたいけど、テントを立てなきゃ。急いで燕山荘に手続きに行く。そしてテントを設営したら、いよいよ。

女王様に謁見だ。
「山を渡る」でイリマー(だったと思う)が「抹茶かき氷みたいだ!」と言っていたから、もうそうにしか見えない笑。
ここまで来て、北アルプスを一望すると実感する。これから三多摩大学山岳部が辿った縦走路を、私も歩くんだ。
たくさんの人が歩いた道に、私の足あとが加わる。同時にそれは私だけが歩く、私だけの山旅。そんなことを思いながら、空いっぱいに広がる峰々をいつまでも眺めた。
to be continued!




合戦尾根の登りは展望もないし、ただただ苦行の道。あんまり記事にするようなことないかもって思ってたのに、思いのほか長くなった((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル 最後までお付き合いいただき、ありがとうございます♪
翌日は波乱の日だったので、盛沢山すぎて書くの時間かかるかも……🤣

