【毎週ショートショートnote裏】隣席の富士山
東京から広島へ向かう新幹線で、隣の席に小学生くらいの子が座った。
白いシャツに青いセーターを重ね、背筋を伸ばして膝に手を置いている。緊張した面持ちで、お行儀よく外を見ている。
ところが新横浜を過ぎたころ、落ち着かない様子で体を揺らし、意を決したように声をかけてきた。
「あの……写真を撮ってくれませんか」
快く引き受けると、子は嬉しそうにデジタルカメラを渡してきた。そしてかばんから雪のように白い帽子を取り出し、慎重に頭へかぶる。
なるほど、富士山のつもりらしい。
ちょうど窓の外には、青空にくっきりとその姿を現した本物の富士山がそびえていた。僕は何枚もシャッターを切った。
「ずっとこの格好で、富士山と写りたかったんです」
はにかみながらそう言う顔は、子どもらしく誇らしげだった。
やがて京都に着き、子はぺこりと頭を下げると、小さな富士山のまま人波に消えていった。
旅の途中の思いがけない光景は、しばらく僕の胸に残っていた。
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